第48話 真夜中の丘へ
「何を言ってる! スー、君はここにいなさい!」
私の言葉に、テックスさんは驚いて声をあげました。
「君が行くくらいなら、私がケビンと一緒に行こう」
「いいえ、私が行きます」
私は、テックスさんにキッパリと言いました。ロックさんを助けたいという気持ちも強かったですが、『私がそこに行かなければならない』という強い思いが、身体の中からこみ上げてきたのです。その気持ちの正体が何なのかは分かりません。けれど、さっきから、私の背中の『刻印』が弱く疼いています。『刻印』が私を導いているのかもしれません。
「……ここは、スーの力を借りた方が良いかもしれませんね」
しばらく考えた末、ケビンさんは、真っ直ぐに私の瞳を見て言いました。
「ロックさんが連れて行かれたのは、丘の上にある洞窟だと思います。僕の自転車で行くより、スーの箒で行った方が早いです」
「それなら、私が君を箒に乗せて連れて行ってやろう。スーを危険な目に遭わせる訳にはいかない」
テックスさんは、心配そうな顔をして私を見つめます。テックスさんは、私のお父さんのように私のことを心配してくれているのだと思います。テックスさんの優しさが心に染みました。それでも、私の心は変わりませんでした。
「いえ、テックスさん、心配しないでください。スーは命をかけて僕が守ります。スーには何か強い力が宿っているように感じます。僕はスーも一緒に行った方が良いと思うんです」
ケビンさんはそう言いました。
「テックスさんは、ノールやサーラの側にいてあげて下さい。私は大丈夫です」
私はテックスさんを見て微笑みました。不思議と、もう怖さはありませんでした。
「……何かあったらすぐに戻って来るんだぞ。すぐに助けに行くからな」
テックスさんは、まだ心配気な顔をしていましたが、ようやく承諾してくれました。
真夜中の空を、私とケビンさんは箒に乗って飛んでいきました。
寝静まった街。月も星もない雲で覆われた真っ暗な空を、私たちはスピードを上げて丘へと向かって行きました。
「スー、あそこだ。小さな洞窟の入り口が見えるか?」
丘まで来た時、ケビンさんが小声で囁きました。暗闇に慣れた目を凝らして見ると、岩肌の一部に小さな入り口のようなものがありました。ここは、ユフィさんと箒の練習をしに来た丘です。その時はこんな洞窟があるとは気付きませんでした。
私は頷くと、洞窟の入り口の側に静かに着地しました。
と、その時です。私の背中の『刻印』に鋭い痛みが走りました。
「スー、久しぶりだね」
突然、背後で声がしました。驚いた私とケビンさんが振り向くと、そこにはオトーヌおばあさんが立っていたのです。自転車乗りの人達を泊めていた洋館の持ち主、オトーヌさん。私たちも気前よく泊めてくれました。ジーナおばあちゃんに似たオトーヌさん。ここにオトーヌさんがいることの疑問より、私は懐かしい気持ちでいっぱいになっていました。
今回執筆させていただいた春野天使です。
いつの間にか50話近くになりましたね! 最近執筆出来る作者さんが減って寂しいところです。^^;
今回、久々にオトーヌおばあさんを登場させました。自転車乗りの人達と同じく、何か訳有り? のような感じがします。これから彼女がどう関わってくるか楽しみです。(^^)