第45話 青空を飛んで
私はホテルの部屋で一夜を明かしました。ケビンさんのこと、レイラさんのこと、ロックさんのこと、そして、夢で見たあの都……。
気にかかることがたくさんありましたが、その日の疲れがどっと押し寄せいつの間にか眠っていました。
翌日。
ほのかに香る甘い香りと淡い光の中、私は眠りから覚めました。夢を見ることもなく深く眠っていた私は、とてもすがすがしい気分で朝を迎えました。白いレースのカーテンから朝の光が降りそそいでいます。お祭り最後の日の今日も、天気は良いみたいです。
私は身を起こし、大きく伸びをしました。今日は、初めて箒乗りの大道芸に参加出来ます。上手く飛べるかどうか少し不安ですが、それよりも皆と箒の曲芸が出来ると思うと、嬉しくて胸がワクワクしてきます。
「あ、あの花は……」
ふと、ベッドの横のテーブルに目を向けた私は、白い花が花瓶に活けられているのに気付きました。甘い香りの正体は、マリエの花でした。
きっと、レイラさんが活けてくれたのでしょう。私がマリエの花に見入っていると、部屋を勢いよくノックする音がしました。
「はい!」
私はベッドから飛び起きて、ドアを少し開きます。
「おはよう! スー! 気分はどう?」
ドアの向こうに、元気なノールとサーラが立っていました。
「お兄ちゃん、スーはまだ着替えてないのよ。入っちゃダメ!」
おませなサーラは、部屋に入ろうとするノールの腕を掴んでそう言いました。
「おはよう、ノール、サーラ」
私はクスリと笑い、二人の顔を交互に見ました。
「わたし達、スーを迎えに来たの。今日はスーも一緒に曲芸が出来るのよね!」
「ええ、ちょっと不安だけど頑張るわ」
「スーなら大丈夫だよ!」
ドアの後の方から、ノールが大きな声で言いました。
「ロビーで待ってるから、着替えたら下りてきてね」
「分かった。なるべく早く行くわ」
明るい兄妹の顔を見て、私は元気が出てきました。今はお祭りと箒乗りのことだけを考えよう、私は自分に言い聞かせました。
着替えを済ませ、軽い食事を摂った後、私はノールとサーラと箒に乗り、お祭りの行われている広場へ飛んでいきました。
今日も広場は人々で賑わっています。お祭り最終日の今日は、特に人出が多いかもしれません。広場で他の皆と合流しました。ユフィさんも来ていました。
「スー、昨日みたいに飛べば良いわ。今日は風もないから、絶好の飛行日よりね」
ユフィさんは私に笑顔を向けて言いました。
「肩の力を抜いて、リラックスして飛びなさいね」
「はい!」
本番時間が近づき、緊張気味の私にユフィさんはそう言ってくれました。いつもどおり、箒に乗ることを楽しめばいいんだわ。私は自分に言い聞かせます。
「スー、行くわよ」
突然、リノさんが現れ、ボソッと私に言いました。
「え?」
「最初はノールとサーラが同時に飛んで、その後私とあなたが同時に飛ぶのよ」
キョトンとしていた私に、リノさんが無表情な顔で言いました。
「あ、そうでしたね。ごめんなさい」
リノさんはもう私の方を見ないで、先を歩いて行きます。
「リノさん」
私は慌ててリノさんの後について行きました。
いよいよ、箒乗りの曲芸の始まりです。人々の声援を受け、ノールとサーラが二人並んで、元気に飛行してきました。
私とリノさんは無言で顔を見合わせ、同時に箒に乗って空に飛び立ちます。観衆の声援は、もっと大きくなっていきます。私はドキドキしながらも、リノさんと平行に箒に乗って空を飛びます。雲一つない真っ青な空。高度を上げるごとに、小さくなっていく人々の姿。私は風を切り、スピードを上げて空を駆けめぐります。何て気持ちいいんでしょう! 自然と笑みがこぼれてきます。
と、その時、広場の遥か向こう側。街を抜けた草原の隅に、何かが近づいて来るのが見えました。ひとかたまりになった何かが、次第に近づいてきます。
「あっ!」
目を凝らして見ると、それは自転車乗りの集団でした。自転車に乗った人々が、ゆっくりと広場の方へ向かっています。
今回執筆させていただきました、春野天使です。
なかなか謎が解けません。(^^;)さらなる謎が深まってきそうです。自転車乗りの人達は悪人か善人かどちらでしょう!?