表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶への旅   作者: gOver
44/55

第44話 悲しげな黒い瞳

また、私はまるで引きよせられるが如くオレンジ色の閃光に

吸い込まれていくような気がしました。

「スー!しっかりしろ!」ロックさんの声がし、私の手を強く握ってくれまし

た。


今度は、私は大きな噴水や、美しい花々の咲き乱れる庭園にいました。

こんなところ来たことが一度もないのに、何故か懐かしい気持ちにとらわれてし

まうのです。

すると、さっきの行列にいた小さい女の子と男の子が楽しそうにかけっこ

をしています。

やっぱり、この女の子はどこかで……。


ふと気がつくと少し離れたところから、高価な宝石と美しいドレスを身にまと

った女の人が二人を見守っているのに気がつきました。その方の荘厳さ、そしてあのサファ

イヤの瞳、

もしかしたら、リノさん?


私はやわらかいベッドの上で目をさましました。

「スー、気がついたんだね。気分はどう?」とロックさんが私の傍らで私を見

つめて言いました。

と、その横にはあの自転車の乗りのケビンがいます。

何故、ケビンがここに、そしてここは?

「ロックさんここは?」

「ここは、レイラが泊まっているホテルの一室だよ。さっきは突然のことで怖

かったろうけど

もう心配はいらないよ。俺ひとりだったら本当に危なかった。でもケビン君が

味方してくれたおかげで

この場を切り抜けることができたんだ」

「そうなんですか」

私にはわかりません。どうして、あの一団の人がそんなことをしてくれるのか

しら?

「スー、もう遅いし、このまま休むといいよ」とロックさんが言うと横にいた

ケビンも立ち上がり部屋を出ようとしました。


「ケビン、ちょっと待ってくれませんか? 聞きたいことがあるんです」

「僕にですか?」ケビンは少しびっくりした顔をしました。


「じゃあ、スー俺はこれで失礼するよ」とロックさんは言うと部屋を出て行き

ました。


ケビンは私の傍らに座ると、うなだれた顔で私の顔を見ようともせず、

「すまない。スー、謝ってもどうにもなるわけでもないのに、もう、自分の生

活を守るとはいえこんな悪事をかさねている自分が情けなくて仕方がない」

「そんな突然、私にそんなことを言われても……だってさっきは私やロック

さんを助けてくれたじゃないですか。顔を上げてケビンお願いだから」

ケビンはやっと顔を上げてくれました。ケビンの憂いに満ちた寂しげな黒い瞳

は何か私の心を捉えてしまうのです。

「ケビン、さっきは助けてくれてありがとう。でも何故そんなことしたんです

か?」

「それは……」少し沈黙がありました。

沈黙を破るかのようにしてケビンが話しだしました。

「僕が15のころだったかな、突然学校から帰ってきたら家がめちゃくちゃに

荒らされていて両親がいなかった。そしてそれ以来ずっと両親にはあってないんだ。あとにな

ってわかったのだけれど僕の父が事業に失敗して借金のかたに両親ともども連れ去られたんだ。それか

ら僕はそのとき住んでいた家を明け渡して工場に住み込みで働くことになったんだ。そりゃ毎日、馬車馬のご

とく働かせられてつらかったよ。そして何より、自分を捨てた両親のことが許せなかったんだ。ある日、町に遊

びに出たとき、自転車乗りの集団と名乗る集団に出会い、僕自身このつらい工場から抜け出していろんなところ

を旅ができるので、喜んでその仲間に加わったさ。でも実際は人攫いの手助けをするあこぎな集団だった

んだ。暮らしも工場にいたときよりずっと良くて、良心なんてかなぐり捨ててずっとやつらと行動を共にしてたん

だ。ついちょっと前に小さな子供がいる夫婦を借金のかたに売り飛ばすため拉致る手伝いをしたんだ。で、僕がず

っと思っていたことが頭をかすめてね、それは、何の権利があって子供の幸せを壊すようなまねをや

るんだってさ。それからずっとあの仲間を離れようと考えていた、もうこんなことはやりたくないんだって思うようになってね。今のいきさつがあってやっと心に踏ん切りがついたよ。これで僕もあの仲間と手が切れる...」

部屋をノックする音が聞こえました。ケビンが戸をあけるとレイラさんがたっていました。

「あなたは、あのときの、歌姫のレイラさん!?」ケビンの驚いた声がしました。

レイラさんとケビンは旧知の仲だったんでしょうか?

「レイラさん、お入りになってください。」と私は言いました。

「話は、部屋の外から聞かせていただいたわ。ねえ、ケビン君、だったわよ

ね、よかったらこの歌劇団で私の仕事を手伝ってくれないかしら?」

「いいんですか?こんな僕でも...レイラさん、貴女とは一回しか会ったことが

ないのに、僕の名前を覚えててくれたんですね」

「たしかに一回しかあったことしかないかもしれないけれど、私はケビン君が

一生懸命、私の歌を聞いていてくれたのを覚えているわ、あの日はものすごく天気がくもっててお客さんの中には

私の歌を邪魔しようと悪さをする人もいたわ。でもケビン君が邪魔をしようとした人たちの止めに入ってくれたわ」

「はい、でもけんかが弱かった僕はかえってやられるばかりで、そのとき僕を

助けてくれたのはナイフ投げのロックさんでしたね」

「ええ、あの騒ぎの後、またショーを再開したわよね。引き上げようとしたけ

れど私の歌を聴きたいゆえに来てくれた人が少人数でもいたから、続けることにしたのよ」


歌声ばかりではなく、こうやって人を和ませることのできる素敵なレイラさ

ん、こうやってロックさんや、ケビンの心をつかんでいくのですね。喜ぶべきなのに、私の心に寂しい気持ちがよぎりました。




あとがき

第44話をかかせていただきました。

今回は、ケビンを登場させました。

これからも記憶への旅をよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ