第39話 心に吹き抜ける風
吹き抜ける風は心地よく、どこまでも高い空が続いていました。
「さあ、始めましょう。本番まであまり時間が無いから、みっちり練習するからね」
その言葉に偽りはありませんでした。ほとんど休みもせずに、私達二人は何度も空へと飛び上がり、練習を重ねました。
そして日が少し傾き始めた頃。
「じゃあ今日はここまでね」
そうユフィさんは言って箒から降りました。私もそれに倣って地上へと降りていきます。今日の練習はこれで終わり。この後は町に出てもいいかもしれません。
箒から降りようとした時、ふと視線を感じました。振り返ってみると、ユフィさんが私をじっと見つめていました。
「あの、ユフィさん?」
彼女は私の声を聞くとなんでもないの、と視線を逸らしました。
「ところでスー、今日はちょっと考え事でもしてた?」
思わず驚きの声を上げてしまいました。ラウェスに来てから、いえ、ラウェスに来るまで考えてしまうことが山ほどできてしまっていたのです。
「そう、ですね。いろんなことがありましたから」
ロックさんのこと、リノさんのこと、私とリノさんの関係。そして、私自身のこと。数え切れないほどの悩みが、今の私にはあるように思えます。
そのほとんどが、今の私にはわからないこと。そう考えてしまうと、どこからともなく何かに押し潰されそうで、心が沈むばかりです。
「あまり気にしないことね」
そんな私を励ますように、ユフィさんは声を明るくして言います。
「あなたは箒に乗ることが上手。でも、他のことばかり気にしているみたいで、楽しそうじゃなかったかな。箒乗りは、技術とかよりも気持ちが大切なの。だから、せめて箒に乗っているときは余計なことなんて考えないで、飛ぶこととお客さんを楽しませることだけを考えましょう」
それが大切なことだとわかっていたはずなのに、私は忘れていたのです。心のどこかで後回しにして、私だけの問題にばかり目を向けていたように思えます。
「ユフィさん、私……」
「だから、気にしなくてもいいの。もう大丈夫なのでしょう?」
「はい!」
ユフィさんは私の返事に満足したように頷きました。
「じゃあ、また明日ね」
「はい、よろしくお願いします!」
空はもうオレンジ色に近く、風も少し冷たく感じます。そしてまだ盛り上がりを続けているお祭りに、私は足を向けました。
執筆者のハギです。
しばらく小説から離れていたせいか、あまりうまく書けなかったので読みにくいかもしれません。
まだまだ小説は続くはずなので、ぜひこれからも読んで下さいね!