第37話 マリエの花びら
リノさんはただブレスレットを見つめ、いじり続けるのです。
いったいどうしちゃったのかしら?いつものリノさんらしくありません。
もしリノさんがロックさんに関心のかけらでもないのなら、
はっきりと突き放すように言うはずです。でも、今夜の夕食の時だって
せっかくロックさんが話しかけているのにあの無関心な態度をみると
ロックさんに好意をもってるとは大いに疑わしいです。
しばらくの間、沈黙がありました。
沈黙を破ったのはリノさんの方からでした。
青いサファイアの瞳で私を見つめ、
「スー、くどいようだけど、ロックは人間の男性であることを頭にいれておく
ことね」
話をそらされた腹立たしい気持ちがこみ上げてきておもわず言い返しました。
「だからなんなんですか?ロックさんが人間だからって、いけないことでもあ
るんですか?」
リノさんは私を見ようともせず、またブレスレットをいじっています。
こんなナーヴァスなリノさんを見るのは初めてです。
リノさんの口元はこわばっています。
私の聞いたこともちゃんと答えてくれず、私はリノさんに馬鹿にされた気持ち
の悔しさや、ロックさんが人間だからどうのなどと同じことの堂々巡りについ腹立たしくな
って口を開きました。
「リノさん、もしロックさんに気があるんだったなら、さっきのような無関心
をよそおおった態度はやめたほうがいいですよ。あんな態度とってたらロックさんだって
好意なんかもってくれないわよ。もっと自分を見せて、魅せてそうしないと」
リノさんはブレスレットを触っていた手をぱたりと止め、怒ったような表情で
「私に、どうしろこうしろなんて指図するのはやめてちょうだい。
不愉快だわ」
不愉快までいわれると返す言葉もありません。
「失礼するわ」というとリノさんは立ち去りました。
次の日、窓から差し込む朝の光で目を覚ました私は、窓からロックさんがどこ
かへでかけるのを見ました。
ユフィさんに会うまで時間もあるし、朝食も食べる気にもなりませんでしたの
で、急いで着替えをしてロックさんの後をつけてみることにしました。
ロックさんは運河のある道を歩いています。何処へいくのかしら私はそわそわ
しながら追いかけました。明るいピンク色の花が咲いている木が運河のそばにありまし
た。ロックさんはそこで止まりました。ずっとその花をみています。
私はロックさんへ歩み寄り声をかけました。
「ロックさん、綺麗なピンク色の花ですね。私は初めて見るんです。なんとい
う花なんですか」
ロックさんは私の方を向いてくれ
「この花はマリエっていうんだよ」
やわらかい風に吹かれ花びらが散っていきます。散った花びらが運河の水面に
ゆらゆらと揺れています。
私は散っていく花びらに手をのばそうとしましたが届きません。
「スー、俺の背中に乗れよ。そしたら花びらをつかむことができるかもしれな
いよ」
私は少しためらいましたがロックさんにおんぶしてもらいました。
私はなんとか花びらをつかもうと手を伸ばすとマリエの花びらが私の指先に触
れました。
37話を書かせてきました。
物語の後半にでてくる『マリエの花』は架空の花です。
桜がモデルです。
これからも記憶への旅をよろしくお願いします。