第36話 お祭りの夜
遠くで打ち上げ花火の音が響き、真っ暗な夜空に花火の花が咲きます。日が暮れて
も街中賑やかで、お祭り一色に染まっているようでした。
けれど、ここ、私の立っている街を見下ろす小高い丘には、街のお祭り騒ぎの音は
聞こえてきません。そよそよと吹き抜ける風が、優しく私の頬を撫でていきます。
夕食の途中、私はこっそりと箒に乗って抜け出して来ました。何となく、皆とワイ
ワイ騒いで夕食を食べる気になれなかったのです。さっきのロックさんの話は、まだ
私の耳に残っています。ロックさんは今もまだ、レイラさんのことを愛しているので
しょうか?
レイラさんはもう他の人と結婚してしまいました。今のところ、ロックさんに恋人
はいないようです。でも、ロックさんは私よりずっと大人。私のことなんかただの子
供としか思っていないのだと思います。
そう考えると、とても切ない。私はもっと大人になりたいと思いました。
「ロックのことが好きなの?」
突然、私の背後で声がしました。ビクッとして振り向くと、そこにはリノさんが立
っていました。リノさんはいつも突然姿を現します。そのことには慣れっこになって
いたはずですが、ぼんやりと物思いに耽って夜空を眺めていた私は、リノさんがここ
にいたことに心底驚きました。
リノさんには私の考えが分かるのでしょうか? それにしても、いきなり現れて人
の心の内を見透かしてしまうなんて……。表情を変えないままじっと私を見つめてい
るリノさんに、私は少し苛立ちを覚えました。
「怒らないで」
リノさんはフッと口元を弛めました。
「ロックは素敵な男性だと思うわ。ただ……ロックは普通の人間。そのことを忘れな
いで」
「え?……」
どういう意味でしょう? 私は普通の人間ではないのでしょうか?
「あなたにもいずれ分かるでしょうけれど」
リノさんは私から目をそらし、腕のブレスレットをいじりました。そのブレスレッ
トは、この前ロックさんが買ってくれたものです。
「……リノさんもロックさんが好きなんですか?」
私は思い切ってリノさんに聞きました。リノさんに馬鹿にされたような気がして、
少しだけ悔しかったのです。
「……」
リノさんは黙ったまま、ブレスレットをいじり続けました。
今回執筆致しました春野天使です。(^^)
ロックとスーとリノの微妙な三角関係? はどうなるんでしょうか?楽しみです。