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記憶への旅   作者: gOver
35/55

第35話 レイラ

みんながわいわい楽しくやっているのに私はロックさんにレイラ

って人のことを聞かなきゃと思いただ気持ちがあせるばかりで、

せっかくのおいしいバーベキューも味わうことすらできません。

ロックさんは……? とまわりをみわたすとロックさんはリノさんと

話しています。ロックさんがなにやら話しているようですが

リノさんは相変わらず無関心な表情で応対しています。


「ねえ、スーお願いがあるんだけど……」

ユフィさんが私の隣に座りふっと耳打ちをしました。

「お願いってなんですか?」

「明日、私が主催する出し物であなたに手伝ってもらいたいのよ。

もちろんもしよければの話なんだけど」

「はい。私でよければ喜んで」

そのあといろいろとユフィさんと話をしていましたが

私はロックさんとレイラのことで頭がいっぱいでユフィさんの話していること

も中途半端に聞いていました。


バーベキューの片付けも終わり、みんながそれぞれ自分たちの部屋に帰ろうとし

たときやっとロックさんが一人でいるところを見つけました。


私は勇気をだしてロックさんのところへ歩み寄りました。

「ロックさん、聞きたいことがあるんです」

「聞きたいことって? まあ、こんなとこもなんだし、よかったら

ロビーでお茶でも飲みながらにしようか?」


私はロックさんとテーブルを挟んで座りました。

「ロックさん、あの……さっきロックさんがつぶやいていた

レイラさんって誰なんですか? こんなこと私には関係ないかもしれません。

でも気になったんです」

「レイラか……懐かしいな。とにかくさっきはすまなかった。スーを一人にし

てしまって」

「そのことは気にしないでください」

なんだか重々しい空気が流れているみたいで、私はさっきまで聞きだそうと意気

込んでいたのに言ってしまってからこんなことをいってよかったのかしらなんて少し後

悔しました。


ロックさんは私を見ずに目はどこか遠くを見ながら、何か懐かしそうな表情をし

ながら語りだしました。

「レイラはね、僕が昔、旅芸人の一座にいた時、知り合ったのさ。彼女は一座の

自慢の歌姫だった。

僕はその一座でナイフ投げをやって稼いでいたんだ。彼女の美しい歌声は聞く人

の心を和ませてね」

ロックさんはふと言葉を止めたかと思うとまた遠い目をして話しだしました。

「とにかく旅の一座とはいろいろと懐かしい思い出があるね。みんなどうし

ているんだろうか……

あのときはよくレイラと旅をしているのが楽しかった。レイラは少し我儘なとこ

ろもあったな。

なにか僕が気に入らないことをいうとレイラはつっかかってきて口げんかになる

んだが、いつも僕がなだめようとする方だった。よく言い合ったがそういうレイラが退屈しなか

ったな。

よくレイラがなにか口論する際に支離滅裂なことを真剣な顔でいったりするときも、

おかしかったし、腹立たしいと思ったことは一度もなく、逆にいとおしいと感じ

たよ」

そのあと少しの沈黙がありました。

「僕は思ったな。彼女となら一生を過ごしてもいいかもしれないって」

それを聞いたとき私の心にはなにか鉛のように重いものがのしかかってくる気が

しました。

私はやっとの思いで聞きました。

「それで、レイラさんはどうしているんですか?」

「ああ、何年も前かな、レイラはイヴォンヌの町で貴族の有名な音楽家、ウィル

ソン卿に彼女の歌声を見込まれたんだ。

あの方は、楽団の指揮をつとめていてね、声楽家としての彼女の素質を見抜いた

んだ。そのあと一座の団長に

『是日とも私の知っている歌劇の一座に入団してほしい。私は彼女がすばらしい

声楽家になれる素質をもっていることを

断言できます。私が彼女を立派な声楽家へと導いて見せます』とね。彼女は自分

の夢の階段を登ることができたって

喜んでいたな。彼女のほうもウィルソン卿を気に入ったいたようだし、イヴォン

ヌの町でレイラは一座を離れたんだ」

「でも……ロックさん、ロックさんはレイラが離れるとき引き止めなか

ったんですか?」

私は胸がドキドキするのをおさえながら口走ってしましました。

「レイラさんはロックさんの意中の人だったんでしょ?」

ロックさんは驚いたといわんばかりの表情で私を見て

「そりゃあ、レイラは好きだったさ。でもよく旅のなか夕日を見ながら夢を語ら

いあっていたときレイラは有名な劇場で歌う真の歌姫になりたいっていってたんだ。僕はそのとき

単なるレイラの夢物語としかとっていなかったんだ。でもレイラは本気だたんだよ。僕はそれすらわかってやることができなかったんだ。歌劇団引き抜きの話のときに、僕は悟ったんだ。レイラを本当に幸せにできるのは僕じゃあないということをね。

彼女の素質を引き出しレイラを立派な声楽家へと育て上げることができるのはウィルソン卿なんだよ。僕はあるきっかけでその人と居酒屋で飲むことになってね。彼はなかなか話のわ

かるいい奴で、さすが育ちが育ちだけあって知性も教養も豊かだし、歌の素質を見抜いただけでなくレイラに好意をもっているのもわかったのさ。

僕はレイラの幸せを願って身を引いたんだ。そしてしばらくしてからだが、風の

便りでレイラがウィルソン卿と結婚したということを聞いたよ」

「でも、みすみす指をくわえて、レイラが去っていくのを見ているなんて、好き

だからこそ一緒にいたいというものでしょう」

ロックさんはおだやかな微笑みを浮かべながら答えました。

「人を想う、愛するっていうのはね、いつも自分のそばにいてくれればそれでい

いっていうのじゃないんだよ。

相手の幸せを願って身をひくことも愛してたがゆえにできることなんだよ」

私はロックさんが自分を見る穏やかなまなざしがお子ちゃまをみるような目であ

るような気がして自分を対等にはみてくれないんだという思いがしてふと寂しい気持ちに駆られま

した。


記憶への旅を読んでくださってありがとうございます。

今回のレイラとロックはどうやって出会ったか、いろいろ案はあったのですが二転三転して旅芸人の一座で知り合ったという設定になりました。

これからも記憶への旅をよろしくお願いします。


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