第34話 夕食の一時
私はテックスさんに呼ばれるまで、ずっと涙を流していました。
どれ位の時間泣いていたのかは分かりません。
ただ、涙は止め処も無く流れていくばかりでした。
「スー? 早くしないと、皆に食べられてしまうよ」
もう一度、テックスさんの声が聞こえました。
「……今行きます!」
これ以上皆を待たせるわけにはいきません。
私は涙を拭いて、急いで部屋を出て行きました。
「…………」
外にある庭に呼ばれて行ってみると、そこには熱せられた鉄の板。
その上にはザク切りにされた野菜や、薄く切られた肉類が並べられていまし
た。
それらはじゅうじゅうといった音を立てながら焼かれています。
そして、とても香ばしい匂い。
「スーも食べなさい。バーベキューと呼ばれる料理なんだ」
鉄板の周りには、沢山の人達。
鉄板で焼かれている野菜をひっくり返しては食べています。
ユフィさんやシュールさんが呼んだのでしょうか、知らない人達も何人かいま
した。
「焼きそばも始めようか」
テックスさんがもう一枚の鉄板で肉類と野菜を焼き始めました。
その後に、麺を入れて味付けをしていきます。
ソースの良い香りが立ち込めて、それだけでもお腹が一杯になりそうです。
「美味しいよ! スーも食べたら?」
サーラが満面笑顔で誘ってきます。
「あ、お皿持ってこないと」
「はい。それに箸」
振り向いた先には、ロックさんの身体。
優しく微笑んで、私に皿と箸を渡してくれました。
「ありがとうございます」
「一緒に食べないか? 昼間はスーを置いていってしまったからね」
どうしてでしょう。
ついさっきまで、ロックさんの優しさが嬉しかった筈なのに、
今はなぜか、素直に喜べません。
心の奥で『レイラ』という言葉が邪魔をしているようです。
「スー? どうしだんだい?」
「あ……何でもありません。そうですね、食べましょう」
私達は皆と話をしながら、賑やかな夕食を過ごしました。
辺りはだんだんと暗くなり、所々では夜の花火が打ち上げられています。
ノールとサーラは、箒に乗って皆よりも少しだけ高い場所で花火を見上げてい
ました。
私の隣には、夕食の時からずっとロックさんが立っています。
どうしても気になる『レイラ』という言葉の意味。
心の奥に詰まっている理由を知る為には、ロックさんに聞くしか、方法があり
ません。
私は意を結して、聞いてみることにしました。
執筆担当の雫です。
前回は休んでしまいましたが、今回は無事書き上げる事ができました。
いつの間にか30話を越していたんですね。
これからどうなるか全く分かりませんが、
『記憶への旅』をこれからも宜しくお願いします。