第33話 涙が零れて
「レイラ……?」
私はその言葉を、無意識のうちに呟いていたようでした。
「ううん、気にしないで。ごめん、ちょっと降りようか……」
ロックさんはまた私の手を引いて、船から降りました。
辺りを見回すと、テックスさんたちが見えました。
「スー、悪いけど、用事があるから……テックスさんたちと一緒にいてくれないか。
ごめんね」
「え……ろ、ロックさん!」
呼び止める間もなく、ロックさんは人ごみの中に入り、見えなくなってしまいまし
た。
私は、すでに見えない後姿を気にしながらも、テックスさんたちと合流するほかあ
りませんでした。
――船上からは、懐かしいその曲が、音が聞こえていました。
テックスさんが私に気付いて、シーラさんとやってきました。
「やあ、スー。おや、シュールとユフィはどうした。ロックもいないみたいだ
が……」
「あ……ロックさんは、用事があるって――どこかへ行ってしまいました」
「まあ、あなた一人を置いて? どこへ行ったのかしら」
シーラさんのその口調は、私を一人残してしまったロックさんを責めるよりも、彼
を心配している見たいでした。
「まあ、彼なら心配する事もないだろう。我々は、もう少し祭り見物といこうか」
テックスさんは笑って言います。でも、どこか心配そうな様子は隠しきれていませ
ん。
二人ともそんな様子を見せるのも、無理はありません。だって、いつも冷静で、大
人びたロックさんが勝手な行動をするなんて、考えられなかったからです。
ロックさんと再び会ったのは、夕食の時でした。今日はテックスさんやシュールさ
んが、「男の料理」というのを作るそうです。
「すみません、ただいま戻りました」
私が玄関の近くのソファで、考え事をしている時、ロックさんが帰ってきました。
「ああ、おかえりロック。よかったら手伝ってくれるとありがたい」
テックスさんが厨房から顔を出して言いました。その顔には、安堵の感が漂ってい
ます。
「もちろんです」
ロックさんは笑顔で答えました。私は彼が厨房へ入っていってしまう前に、思わず
呼び止めていました。
「ロックさん……」
「やあ、スー。さっきはすまなかったね」
「いえ……あの」
「ん? どうしたんだい?」
「――いえ……何でもありません。ごめんなさい」
何を言うべきか、言わないべきか、分からなくなってしまって私はどうしてか謝っ
ていました。そしてそのまま階段を駆け上り、部屋へ入り、ドアのすぐ傍で座り込ん
でしまいました。
なぜ、でしょう。
とても――苦しいのです。胸が締め付けられるように、苦しい……。息をするのも
苦しくて、ぽろぽろと涙が零れてしまいます。
私には、どうしてなのか分かりません。ただ涙が零れるのです。
執筆を担当しました菫です。
どうしても私の思考では、ロックとスーの絡みが好きらしく(笑)
これからどうなるか、分かりませんがよろしくお願いします。