第30話 ロックのお土産
「ただいま戻りました」
宿舎へ入ると、テックスさんとシーラさんが寛いでいました。
「おかえり。お客さんかな?」
「ええ。スーがお世話になっていた……」
「フィオナの父で、ヨアンと申します。お招きいただいたので、お言葉に甘えてしま
いました」
「どうぞ、遠慮なさらずに。夕食もご一緒していってください」
「ありがとうございます」
私はその後、シーラさんとサーラと一緒に夕食の準備をしに行きました。その中
に、ロックさんがやってきました。
「やっぱり、女性陣が勢ぞろい……でもないか。これ、おみやげです。どうぞ」
「まあ、綺麗な宝石」
「キラキラしてて可愛い!」
ロックさんが二人に手渡したのは、ヨアンさんから先ほど買ったあの首飾りでし
た。
「リノはどこかな?」
とロックさんが言った時、丁度リノさんがキッチンに入ってきました。
「何か?」
「これ、お土産」
手渡された綺麗なブレスレットを、リノさんはじっと見つめました。
「……そう」
お礼も言わず、ただそれだけしか言いませんでした。そしてリノさんはキッチンを
出て行こうとしました。
「リノさん、どこに……?」
と私はつい呼び止めていました。ちょっと振り向いたリノさんは、
「散歩」
そう言って、出て行きました。
リノさんが帰ってきたのは、夕食のグラタンができていいにおいが宿舎に立ちこめ
た頃でした。
久々に再会したヨアンさんも含めて、九人での夕食は、騒がしかったけどとても楽
しい夕食でした。
夕食の後、テックスさんとシュールさんが、知らない誰かと話していました。
「やあ、スー。丁度良かった、君も来てくれないか」
と、テックスさんに呼び止められました。
「こちら、シュールの前の仕事仲間だ」
「ユフィというの。あなたがスーね、よろしく」
私はちょっとびっくりしました。シュールさんがここを紹介してもらった知り合い
と言うのは、てっきり男の人だと思っていたからです。
「今な、丁度ここ一週間の予定とかを話していたんだ。ラウェスは明日からお祭りだ
から」
シュールさんが言います。
お祭り、と言う言葉に、自然と私の胸が躍ります。
「お祭りですか?」
「そうだよ。初日の明日はその祭りを少し見学して、明後日は仕事をするんだ。箒乗
りの仕事だよ。ただ、スーはまだ分からないだろうから、しばらく練習だな。ロック
とシュールが教えてくれる」
「もちろん」
シュールさんは笑顔で頷きました。
「じゃあ、明後日はスーを私が預かりましょうか? 帰ってきたら箒乗りのお勉強
で、どうかしら」
「そうしてくれるとありがたいな、ユフィ。ぜひ、お願いするよ」
「それじゃ、そう言う事で。よろしくね、スー」
紅色の少し強い瞳が私を見つめ、海岸の砂のように白い手が握手を求めてこちらへ
伸びてきます。
「よろしくお願いします」
私はその手を掴みました。その手は、水仕事をするお母さんたちのようにガサガサ
に乾燥していました。
そのとき、私は自然とフィオナのお母さんを、思い出していました。
記念すべき(?)第30話目を執筆させていただきました、菫です。
最近は冬休みで、受験生の最中でありながらも時間的余裕ができたので、すこしずつ
小説を更新しています。
ついでにそちらもよろしく、お願いできればいいですね(苦笑)
それでは、失礼します。これからも「記憶への旅」をご贔屓に!