第29話 フィオナの父
石畳の緩やかな坂道を上っていくと、目の前にメインストリートが現れました。オレンジ色の夕日に包まれ、買い物客で賑わっています。
メインストリートには、様々なお店が並んでいます。新鮮な野菜、果物、肉、魚、を売っているお店。衣料や雑貨、骨董品などのお店もたくさんありました。私は今までこんな大きな街に来たことがありません。メインストリートの街並みは、見ているだけで楽しい気分になります。
ロックさんと一通りの買い物を終えて、二人で両手いっぱいの荷物を抱え帰ろうとした時、前を歩くロックさんがふと立ち止まりました。
「スー、見てごらん。可愛い首飾りがたくさん並んでいる」
ロックさんの視線の先をたどると、お店とお店の合間の小さなスペースに、敷物を広げ宝石や装飾品を並べて売っている人がいました。私はそこに近寄って、じっくり眺めて見ました。
「これは!……」
宝石の飾り物も首飾りも、見覚えのある物ばかりです。
「スーじゃないか!」
声のした方に顔を向けると、そこには懐かしい顔がありました。
「ヨアンさん!」
私は心の底から驚きました。フィオナの父親のヨアンさんが、目の前に立っていたのです。見覚えのある品々の中には、フィオナ手作りの品もたくさんありました。
宝石商のヨアンさんは、一年のほとんど行商に出かけています。家に帰ってくるのはクリスマスの休暇くらいです。
「どうして、ここに?」
目を丸くして私を見つめるヨアンさんに、私は今までのいきさつを手短に説明しました。ヨアンさんは最初とても驚いていましたが、私の強い決心を知ると旅に出たことに納得していました。
「偶然ここでスーと再会出来たのも、神様のお導きだな。長い旅は大変だろうが、体には充分気をつけて元気に帰って来るんだよ」
ヨアンさんは、優しい目をして私に微笑みかけました。その瞳はフィオナと同じ優しい眼差しです。
「どうか、スーをよろしく頼みます」
ヨアンさんは、ロックさんに向かって言いました。
「もちろんです。それにしても、素晴らしい品々ですね。私にもいくつか買わせて下さい」
ロックさんはそう言うと、花模様に彫られたブレスレッドと、星形の首飾りを三つ買いました。そして、黄色い宝石がちりばめられた星形の首飾りを、私に差し出しました。
「これは君へのプレゼントだ。このブレスレッドはリノ、青い宝石の首飾りがシーラ、赤い宝石がサーラ」
「ロックさん、ありがとう」
優しいロックさんは、女性達へのプレゼントを買ってくれました。しかも、フィオナが作った私が大好きな物ばかりです。私は嬉しくて、さっそく首につけてみました。
「フィオナのお父さんと出会えるとは、奇遇ですね。これから僕達は宿へ帰ります。よろしければ、ヨアンさんもいらっしゃいませんか?」
「ええ、喜んで。今日は店を早仕舞いしますよ」
ヨアンさんは嬉しそうに微笑んで、品物を片づけ始めました。
何度目の執筆でしょうか?春野天使です。随分と回ってくるのが早くなりました。(^^;)
旅も進んできて、徐々に謎も解けていきつつあります。これからの展開も楽しみになってきました!