第26話 繋がる過去と想い
「リノさん……それは」
「そう、『空の刻印』。あなたにあるそれと同じもの。厳密に言えば違うものだけど」
私にはまったく同じものにしか見えません。不気味な彩色を放つ刻印は、私のものより少し大きいようにも見えます。
「いつかは話さないといけないことだから、今のうちに話しておくわ。あの島にいた人たちは皆、この刻印を体に刻んでいるの。生まれた時から、ね」
「じゃあ、リノさんも……」
「ええ。私はかつて、あの島にいたわ」
リノさんもニュアージュにいた?
「古い話よ」
少しだけ目を細め、リノさんは淡々と話を続けました。
「さっき……見たのね」
「えっ?」
「ニュアージュの景色が見えたの。あの時の、空の魔物に襲われているときのものね」
もう一度、私はその映像を思い出してみました。生き物なのかもわからない程の大きさが空を覆い、街にあるものすべてを破壊していきます。こちら側の攻撃はなにも効果を得ず、ただ自分たちが満足するためにそうしているようでした。
「私……もしかしたら」
ここで、生まれた?
「それは違うわ」
私の思考をリノさんの言葉が遮りました。
「あなたが考えていることは、ここではないの」
ここではない。リノさんがそう断言することに、疑問は尽きません。
それ以上に、どうしてリノさんは私の思ったことがわかったのでしょうか。口にも出していないことが、どうして彼女に伝わったのでしょうか。
「リノさん……」
「あなた、わかりやすいのよ」
そう言うと、彼女は馬車から離れていきました。
いくらわかりやすくても、あまりに的を射ていたリノさんの言葉はまるでそう、私の心がリノさんに見られているような気がしました。いえ、“見られている”よりも“繋がっている”ような感覚です。
「リノさん!」
私の声でリノさんの歩みが止まりました。
それは聞いてはいけないことなのかもしれません。けれどここで聞かないと、もう二度と聞けないように思えたのです。
「リノさんは、ニュアージュ出身なんですか?」
それが面白かったのか、リノさんは小さく表情を変えました。まだ一度も見たことのない、穏やかな表情です。
「忘れたわ」
それ以上聞くことを拒むかのように、彼女は私から離れていきました。
26話を執筆したハギです。
しばらく順番はまわってこないだろうと思っていましたが、予想以上に回転が早く驚いています(^^; 物語はひとつの転機に差し掛かったと思いますので、ぜひ続きを楽しみに待ってて下さい。