第24話 ニュアージュ
『空の魔物の襲撃』、私はシュールさんの言葉に少しばかりの怖さを感じた反
面、もっと続きを聞きたいという気持ちになりました。
「確かにあの国は技術面がかなり高度に開発して、人々は豊かに暮らしてい
た、と書かれてたさ。けど、俺が読んだ本『かつて存在したと言われている空の島』
では豊かであったがその側面に触れたことが書かれてあったぞ」
ロックさんがシュールさんの言葉をさえぎるようにして言いました。
「そうだな。ロック。あの空の島は『豊かな国であったけど空の魔物の襲撃に
よって滅んだ』の一言で片付けてはいけないな。あの国に住んでいた人々は、暮らし
はある程度物質的に保障されていた反面、精神面では非常に不幸な暮らしを強いられ
ていたからな」
そんな二人のやりとりをリノさんは冷ややかな目で見つめていることに気がつ
きました。
そうだ、私はリノさんの笑顔を一度もみたことがありません。
シュールさんは語りだしました。
「ニュアージュは独裁国家だったんだ。最後の皇帝、暴君エドワードの支配の
下、国民はある程度豊かな生活が保証されていた反面、政治に口出しや反対意見を
述べることは許されていなかったわけさ。特に暴君エドワードの代になってから
それが強化されたわけだ。たとえば、国家の権力を批判するものがいたら、強制的に
人権の死角地帯とも呼ばれた収容所に連れ去られたりしたからな」
「ねえ、シュールさん、ジンケンノシカクチタイってなあに?」
サーラが無邪気な笑顔でシュールさんに尋ねました。
シュールさんは優しい笑みを浮かべてサラを見つめて答えました。
「人権の死角地帯っていうのはね、人が人として生きる権利が認められていな
いことのことを言うんだよ。
その収容所、牢屋って言ったほうが判りやすいかな?そこにいる人達は汚い部
屋に閉じ込められて、食べ物も少ししかもらえないんだよ。朝早く起こされて、
夜遅くまで重い荷物を持たされて働かせられて、逃げようとしても見張りが厳しいし、
逃げようとして見つかろうでもしたら、縛り上げになって、何度もムチで叩かれるんだよ。
サーラにはこんな難しい話を聞いてもつまらなかったかな?」
「そんなことないよ。シュールさん。そしてそのニュアージュって国はどうな
っちゃったの?」
シュールさんは続けます。
「恐怖政治の下、そこの国の人の中には、地下組織を作って、今の暴君を倒そ
うとしたのさ。
だけど、暴君を倒そうとして地下組織の人や大多数の国民が暴動を起こそうと
したとき、その前夜に『空の魔物』が国を襲い滅ぼしたんだ。そうだろ、ロック?」
「ああ、言い伝えによると、『空の魔物』が暴君のひどい有様に怒り、滅ぼし
てしまった。正義の制裁をしたとなってるが、そうだろうか?そこの国の人たちがまさに
暴君を倒そうとし、自分達で新しい国を建てようとした。
まさしく、自分達で自分達の人権を主張し、取得しようとした。これはまさに
近代市民の知恵ではないか?
なぜ、『空の魔物』はそれを見守ろうとはせず滅ぼしてしまったのか?これは
いまだに謎だよなあ」
まだまだ湖は大海原のごとく続いています。この湖の深い蒼さをフィオナに見
せてあげたいと思いました。
24話を書かせていただきました。
今回は、かつて存在した空の島ニュアージュについて書きました。
まだ、空の魔物などの謎の正体については触れることができませんでした。
これからも『記憶への旅』をよろしくお願いします。