第14話 旅立ちの朝
ジーナおばあちゃんの家で、私とフィオナは子供の頃のように一つのベッドで眠りました。ベッドの中でも遅くまでお喋りをしていました。眠ってしまったら朝がきて、別れの時が近づいてきます。その時を少しでも延ばしたくて、夢中で話していました。
けれど睡魔には勝てず、私とフィオナはいつの間にか安らかな眠りの中に落ちていきました。フィオナの温もりを側で感じながら、私はフィオナと初めて出会った日のこと、フィオナと過ごした楽しい日々のことを夢に見ていました。
私がどこの誰だかも分からなくて、背中に刻印のある記憶をなくした謎めいた少女だったのに、フィオナ一家はみんな優しく接してくれました。もし、私が得体の知れない呪われた少女だとしても、私は決してフィオナ一家のことを忘れない。遠く離れていても、もう二度と会うことが出来なくなるとしても、一生忘れないよう記憶にとどめておこうと思いました。
フィオナ一家の記憶だけは、失いたくないのです。
穏やかな朝の光りに照らされて、私は目を覚ましました。隣りのフィオナはまだ安らかな寝息を立てています。徐々に迫る別れの日が恐くて、いっそのこと目覚めなければ良いのにとさえ思っていましたが、その日の目覚めはとても心地良い目覚めでした。
私の決心は、間違っていない。この先どんな事が待ち受けていようと、決して後悔することはないだろう。私はそう確信しました。
その日は夜のパーティのために、ママやフィオナと買い物に出かけたり料理を作ったりと忙しく過ぎていきました。そして、ママとフィオナとジーナおばあちゃんと私だけの小さなパーティは、とても楽しいものでした。笑い合ったりふざけ合ったり、その夜のパーティのことを私はしっかりと記憶に刻みました。
次の日は、旅立ちの準備と部屋の後かたづけをして、静かに過ごしました。
そして、ついにテックスさんと約束した三日後の旅立つ日の朝を迎えました。
大きな鞄一つを抱え、夜明け前の薄暗い村の中、私は一人家を出ました。昨日の晩、ママとフィオナとはしっかりお別れの挨拶をしたから、もう何も思い残すことはありません。けれど、もう一度だけ最後に家を振り返った時、私の目からは自然と涙がこぼれ落ちてきました。
「さようなら、フィオナ、ママ、ジーナおばあちゃん……」
私はくるりと家に背を向けると、約束の場所へ急ぎました。日の出はもうすぐです。
太陽の光が水平線に光りの矢を放ち始めた頃、私は村のはずれのなだらかな丘に到着しました。そこには、光りを背に受けた箒乗り一座の人々の姿が見えました。大きな一台の馬車が側にとまり、ノールとサーラは箒に乗って皆の上を飛び回ってました。
リノさん以外、皆笑顔を浮かべています。テックスさんは、いつもの笑みを浮かべ一歩前に進み出ました。
「やぁスー、待っていたよ。出発しようか」
テックスさんが声をかけると、みんなは馬車に乗り込み始めました。
「さあ、さあ、スーも馬車に乗りな」
ロックさんは私の重い鞄を軽々と持ち上げ、馬車に運びます。
「ありがとうございます」
「スー!僕とサーラは箒で追っかけてくよ!」
私が馬車に乗り込もうとした時、ノールが上空から手を振って叫びました。見上げた空は真っ青です。太陽は水平線から顔を覗かせました。光り輝く太陽は、まるで私たちの旅立ちを祝福しているかのようでした。
二回目の執筆をさせていただいた春野天使です。
いよいよ旅の始まりですね〜これから何が起こるか書いている方も楽しみです!