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記憶への旅   作者: gOver
13/55

第13話 フィオナの涙

 私の決意は揺らぎのないものだと確信していました。


「さあ、スー、そこに立ってないでこのソファーにかけなさいよ」

いつもより元気でにこにことしているフィオナを見ていると、

今、自分が話さなくてはならないこと、これを聞いたときフィオナは

驚いてしまうに違いない……

ううん、それとも『どうしてそれを私に先に相談してくれなかったの!?』

といって怒ってしまうかしら。


 私にとってフィオナは姉のような存在でもあり、なんでも話せて二人の間には

隠し事なんてひとつもない大切な親友でもありました。私がフィオナの家に引

き取られてフィオナとよく遊ぶようになってからけんかをすることもありましたが

すぐ仲直りをしたり、そんなことの繰り返しでした。でも今回は違います。

もしかしたらこれが今生の別れになってしまうかも…


 私はテーブルをはさんでフィオナの向側に座り、話をきりだしました。

「フィオナ… 私、どうしても自分の背中についている刻印のことや自分の両

親のことが知りたくて、箒乗りの人たちと一緒に旅をすることに決めたのよ。

ごめんなさい、こんな急に……」

 フィオナは一瞬、驚いて私を見つめ、そのあとテーブルの方に視線を落とし、

少しの間何も言おうとしませんでした。

 少しの沈黙の後、フィオナが顔を上げまたいつもの優しい瞳で私を見て話しだ

しました。

「スーは決めたんだね。あの箒乗りの一団の人達って楽しい人達だし、スーも

楽しくやっていけるよね。特にテックスさん、あの人はおおらかで優しい人だし

なんかあったらいつでもあの人に相談するといいわね。旅をしながらいろんな

世界を見て、いろんな人と出会えるこれって本当に素敵なことよね。

でも何より大事なのはスーの両親に早くめぐりあえることだわよね」

「そんなふうに言ってくれてありがとう。フィオナ」

「私も今度スーに会うときは立派な宝石師になっているよ。お父さんみたいに

宮廷に雇われるくらいにね」


 フィオナのお父さんも宝石師です。私が家に来る前は家で宝石師として働いて

いました。

 フィオナのお父さんの作る宝石に目を奪われた領主様がぜひ宮廷で働いてほし

いということになりそれ以来、お父さんは宮廷に住み込むことになり、年に一回

クリスマスの季節に帰ってきます。

 いつもクリスマスには、沢山のプレゼントを持って帰ってきてくれます。プレ

ゼントはみたこともないお菓子やお姫様が着るドレスや豪華な毛皮のコートなどです。

 お父さんも私を家族の一員として温かく迎えてくれました。


 そのあと私とフィオナは時間もたつのを忘れ、いろいろと話しこんでしまいま

した。

 すると戸を叩く音が聞こえ、戸を開けるとジーナおばあちゃんが立っていまし

た。

「さあ、お二方、もう話は済んだかい? もう遅いから今晩はここへとまって

いくといいよ」

 フィオナが答えました。

「ありがとうおばあちゃん。ねえ、私からの提案だけど、スーが箒乗りの一団

と旅に出る前にお別れパーティーを開きましょうよ」

「それはいいね。フィオナ。誰をパーティーに招待するかとか細かいことはあ

んたにまかせるよ」


 寝室のドアの前でフィオナが立っていました。

 フィオナが私に歩み寄り私の手を握っていいました。

「ねえ、スー、さっきは言うことができなかったから、今言うけど、これだけ

はわかってもらいたいの。

 スーあなたにはいつも帰ってくるところがあるっていうこと。それがここだっ

ていうこと。

 だから、スー、つらいこと、悲しいことがあったらいつでも帰っておいで。私

や母さん、おばあちゃんが待っているからさ」

 フィオナは私の手を強く握り締め、私が気がつくと冷たいものが私の手に触れ

るのを感じました。

 それは、フィオナの涙、フィオナは泣いていたのです。

「フィオナ」と私が口にすると、フィオナは手を離し、目を見開いて私に向か

って

「おやすみ、スー。いい夢みてね」というと1階へ降りていきました。


 そのとき私はわかったのです。さっきまで、フィオナは明るいふりをしていた

けれど心のなかでは泣いていたということに。これからフィオナと会えなくなるのは

とても悲しいし寂しかった。

 でもフィオナはきっと私以上に悲しかったのですね。フィオナを悲しませてし

まって本当にすまない、その悲しい気持ち以上に私の心に暖かく残るのはフィオナが

言ってくれたあの言葉、

『私にはいつも帰ってくるところがある』でした。




遅ればせながら2周目を書かせていただきました。

今回はスーとフィオナの別れの場面でしたが、大事な局面でフィオナがスーを大事に思っている、本当は悲しいんだけどスーを引き止めない、スーには幸せになってもらいたい、そしてスーにはいつも貴女は帰る場所があるんだよ

ということが上手く表現できてればいいなと思います。


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