第12話 2人の言葉
「ありがとう、ママ……」
頬には、まだ涙の感触が残っています。
それでも、私の心は喜びと嬉しさで満ち溢れていました。
「フィオナに、伝えるんだろう? 早く行ってあげなさい」
「うん」
「頑張るんだよ」
ママの言葉には、いつも温かさが含まれていて……私の心の不安を、取り除い
てくれます。
私はママにお礼を言ってから、涙を拭いて玄関へと向かいます。
急いで家の扉を開けて、急いでフィオナのもとへ行こう。そう思っていたので
すが……。
「リノさん……?」
近くに。扉のすぐ隣に、リノさんが立っていました。何故かは全く分かりませ
ん。
ただ単に、壁に身を預けて。静かに、空気のように――。気配も感じませんで
した。
そして前は見ているものの、瞳の向く先ははっきりとしていません。
ぼぉっとしているような、しっかりと前を見据えているような……。
何か考え事でもしているのでしょうか……?
「あの――」
「やっぱり」
リノさんに呼びかけた私の声を遮るように、リノさんが話し始めます。
こちらを振り向く事もせず、静かにゆっくりと。
「やっぱり、一緒に行くのね……?」
「え……っと」
私はいきなりのリノさんの言葉に戸惑いました。ママとの話を、聞いていたの
でしょうか。
一方リノさんは、それだけ言うと壁から離れ、何処かへと歩いて行ってしまい
ました。
リノさんは、私に何を伝えたかったのでしょうか。
私はリノさんを少し見送ってから、先へと急ぎます。
部屋に居なかったということは、恐らくジーナおばあちゃんの所に居るのでし
ょう。
確信した私は、走り始めました。
決心が消えないうちに……ママの言葉が消えないうちに、フィオナに伝えたか
ったのです。
私の気持ち、私の決意を……。
□
「全く、人の気も知らないで……」
リノは、自分にしか聞こえないように小さく小さく呟きました。
そして小さく小さく、微笑みながら言います。
「何があっても、知らないんだから……」
リノはスーが見えなくなるまで、歩き続けました。
□
「フィオナ? 居るんでしょ?」
私はジーナおばあちゃんの家の扉をノックして、フィオナに呼び掛けます。
暫くすると、ゆっくりと扉が開きました。
「スー?」
中からは二人の人物が出てきました。
始めに顔を出したのがフィオナ。後に姿を見せたのはジーナおばあちゃんで
す。
「おや、スー。フィオナに用事かい?」
「うん。……良いかな?」
その後、おばあちゃんの許可の言葉にフィオナの頷きがあり、私は二人に許可
を得てから、家の中へと入りました。
「それじゃあ、外に出ていようかね」
私が家の中へ入ると同時に、ジーナおばあちゃんはそう言って、私とフィオナ
の2人だけにしてくれました。
フィオナに、伝える時がやってきました。
皆さんこんにちは、雫です。2周目です。
ママとリノの言葉の、スーへ与える影響を描いてみました。