第1話 知らないはずの少女
僕の名前は月城夢央。16歳。
現実では、特に目立つところもない普通の高校生だ。
身長は少し低めで、成績はそこそこ良い。
でも、ひとつだけ“普通じゃないこと”がある。
──僕は、毎晩明晰夢を見る。
普通の人の夢はコントロールできないらしい。
怖い夢を見たり、昔の記憶を追体験したりするものだという。
でも僕は違う。
夢の中では何でもできる。
空を飛ぶことも、街を作り変えることも、思いのままだ。
まるで自分だけの世界だった。
そして夏休みが始まった夜も、いつも通りだった。
眠りについた瞬間、僕は空を飛んでいた。
スーパーマンみたいに、街の上を自由に飛び回る。
「今日も完璧な夢だな」
そう思っていた、その時だった。
彼女がいた。
最初は気のせいだと思った。
だって、僕の夢には“僕の意志で作ったもの”しか存在しないはずだから。
でも、その少女はそこに“最初から存在していた”みたいに立っていた。
長い髪、落ち着いた表情。
まるで現実から迷い込んだみたいな違和感。
僕は近づいて聞いた。
「君は誰?どうして僕の夢にいるんだ?」
少女は少し驚いた顔をしたあと、こう言った。
「え……あなた、この世界が夢だって分かってるの?」
「もちろん。僕は明晰夢を見てるんだ。だから──」
言いかけて、ふと止まる。
(なんで僕は、この人に説明してる?)
(こいつはただの夢の存在のはずだろ)
僕は指を鳴らした。
「消えろ」
……何も起きない。
もう一度。
「消えろってば」
それでも、少女はそこにいた。
彼女は小さく笑って言った。
「無駄だよ。私はあなたの夢の“中身”じゃないから」
「私はマリア。ねえ、少し話さない?」
その瞬間、僕は理解できなかった。
──これは、今までの夢とは違う。
そしてそれが、この奇妙な夜の始まりだった。




