2-2 音和ワールド全開!ロックな人生に一塊の悔いも残さへんで
ピン、ポーン!
「浩太くーん、いるんやろ。なっ、開けてや」
やけにテンション高い独特の声が玄関から響いてくる。
音和さんだ。やばっ、昔の曲聞いていた浩太は慌ててスマホの電源を切った。
「なー、いるんやろ。早く開けてよ」
目につく紙くずなどをゴミ箱に放り込んで、玄関に向かう。
玄関ドアのカギを開けてドアを恐る恐る開く。
あれっ。飛び込んでくるのかと思ったがそうではないらしい。
まっ、そうだよな。ああ見えて二十四歳の大人、わきまえくらい心得てるよな。
心の奥底でちょっぴり期待していた自分の気持ちのやり場を見失って、浩太は思わず俯いた。
「っ…」
トレードマークの赤いジャージ姿の音和さんが後ろ手に何かを隠して上目遣いに浩太を見つめていた。
子猫を連想するウルウルって瞳が語っている。反則だよな。保護欲がむくむくと沸き立つ。
首の本革チョーカーがなかったら、部活の後輩からの告白シーンそのものだ。
「あのな、浩太。私ね…」
モジモジしながら言いよどむ。そっと差し出されたものは、かわいらしい弁当箱だった。
音和さんは急ににんまりとした笑顔になる。
「なっ、ドキッとしたやろ。ほんま、ウブやもんな。顔、まっかやで」
「くっ…」
図星過ぎて返す言葉が思いつかない。だが、こういうところが音和さんらしいともいえる。
浩太の心に『キミ依存症』の曲のもととなった彼氏の影がちらつく。彼女を狂わせた男。
元カノである優等生の宮脇早苗とは真逆の性格。
あわてて話題を捻じ曲げる。
「弁当作る金なんて良くあったな」
「えへへへ、施設暮らしの田舎のばあーちゃんから食材の宅急便がきてなぁ」
このままバイト代の振り込みまで、メシをたかられ続けるのではと不安に思っていた浩太には朗報である。
「良かったじゃないですか。どのくらい生きられそうですか」
「まっ、もって一か月やろけど」
窮地脱出、自分一人なら残金で何とかなりそうと胸をなでおろす。
「昨日のお礼や、で、弁当食ったら『キミ依存症』の感想聞かせてや」
弁当箱に詰まった本場のお好み焼きと焼きそば、そしてなぜが白ご飯。
大学の知り合いが『粋な大阪人は粉もんおかずに飯食うんや』って言っていた意味がようやく分かった。
が、突っ込みどころ満載の弁当の話をする余裕は浩太にはなかった。
曲は正直グッときた。歌詞の毒々しさもクセになる。タイトルも奇抜。
テレビに出てくるアイドルとかとは一線が引けている。
繰り返しの『キミ、キミ、キミ!』なんてとこはカラオケで連呼してみたい。
だけど、目の前の本人に赤裸々すぎる黒歴史の感想を告げるのは痛い。
食事を終え、弁当を洗う暇もなく曲の感想を迫ってくる音和さん。
この子にはごまかしは効かないと腹をくくる。
「むちゃ良かった。なんかグッときた」
「うん、うん。それで」
首を上下にかくかくしながら先をせがむ音和さんの顔がまっすぐ見れない。
「一つ聞いていいかな。あの歌詞の内容、音和さんの実体験だよね」
確信に迫る。いや、追い込まれたと言っていい。
「そやで。中二ときんのな」
くっ、あっさり肯定。もう潔いいくらいあっけらかんと…。
中二かー、ある意味、音和さんらしい。いやもう、この頃から今の音和さんが完全に完成している。
「なっ、涙って枯れるんしってるか。人間な、人、一人に流せる涙のキャパってあるんやで」
「ああいう赤裸々な歌を作って、恥ずかしいとか感じないのかな」
「そやなー、芸術ってそんなもんやろ。そんな感情とっくに卒業したわ」
「……」
「恋なんて流行り病とおんなじやし、その時は消せん思うても生きてりゃ時間が上書きしてくれるんやで」
早苗さんとの四年の歳月も消えるのか。テーブルの上の合鍵をチラ見する。
「せやからな、浩太。せっかくの体験、歌にしてリサイクルせんともったいないやろ」
昭和ロックみたいな乱暴な物言いに勇気づけられる浩太だった。
早苗さんの告白から始まった関係にちゃんと想いを返せていただろうか。ただ甘えていただけかもしれない。
『…ねぇ 本当はキミも
うちに依存してたんちゃうの?』
『キミ依存症』の最後のフレーズが、まるで自分に向けられた言葉みたいに、頭に突き刺さった。
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<次回予告>
2-3 後ろを向いて泣くより、つぎを歌にして前に進め
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一部の方はもうお気づきのようですので、ここで紹介です。
YouTubeにスピン・オフ企画として音和インディーズ時代の曲をサルベージしたものを上げてます。
チャンネル:www.youtube.com/@HIIRO-SAKAI
本編はロック・バラードですが、スピン・オフはポップ・ロックです。
年齢設定によるものですが、関西弁でないのは今後のストーリーの展開もあり内緒です。
本編とはことなり今後も不定期で追加していきますまでチャンネル登録いただけたら嬉しいです。




