2-1 シンガーソングライター星野音和、爆誕へと繋がる黒歴史はデジタルタトゥー
嵐のような女の子(音和さん)が去って、翌日はスカッと晴れた。
越して間もない部屋は、もう一夜にして何年も住んでいると思えるような荒れようだった。
潰れたビールの空き缶、ポテチの残骸、最後は泣き上戸となった音和が残した湿ったティッシュの山。
冷蔵庫の食材もビールのストックもあらかた彼女のお腹に収まった。
バイト代の振り込みまで、あと六日。ピンチ到来ともいえる。
浩太は緩んてもいないお腹を一つまみ。
「ダイエットだな」
気持ちいいくらい空っぽの冷蔵庫から、唯一のこった飲みかけのミネラルウォーターキャップを外して一口飲む。
一人部屋の小さなキッチンは洗い残しの食器や調理器具で埋め尽くされている。
シンガーソングライターなんて職業は自堕落な生活だろうと想像していたが、酔っぱらいながらもつまみを作る手際に驚かされた。
ちょっと甘めの卵焼きとか、見た目なんてどうでもいいのにタコの足型に切り込みをいれたウインナー。
冷凍から揚げもチャーハンも、きれいさっぱり消え失せた。
まあ、作るのは好きだと言っていたが、洗い物は苦手らしい。かなりわかりやすい性格だなと思う。
「そういや、あのつまみ、全部お弁当のおかずだよな」
彼女の性格を考えれば高校時代に自分の弁当なんて作っているとは思えない。さては当時の彼氏の弁当だな!
面倒見の良い世話好きな女の子を演じている姿が瞼に浮かんで笑ってしまった。
制服姿の小動物系の音和さんが上目づかいで「あのぉ、お弁当作ったんよ」なんてモジモジしている姿。
なんか、蕁麻疹でも出てきそうだ。
あんな童顔のおチビさんでも、一応は四歳年上の大先輩だ。
ちょっと失礼かなと思ったが、暴風女子が残した痕跡に思い直して声に出して笑った。
フラれた翌日にこうやって笑えるんだから掃除の手間はチャラだなと思い直す。
彼女の持ち歌『スイカ』を口ずさみながら片づけを開始した。
「そういや早苗さんの弁当、食べたことなかったな。お互い受験だったし、まあ、致し方……」
床掃除をしていると丸まったティッシュの中にシワシワの名刺サイズのカードが落ちていた。
手を止めてつまみ上げ、広げる。
シンガーソングライター
星野音和
聞いていただけたら嬉しいです!
感想の書き込みよろしくなのです!!
横にアドレスを示すQRコード
「路上ライブをやってたときに配ってたやつかな。ちゃんと活動してたんだ、えらい、えらい」
スマホでQRコードを読み込む。画面に現れたのはどこかの駅前に立つ昔の音和さん。
あんまり変わり映えしないが、どこか初々しい。
相変わらずのソバカスを隠さないノーメイク、上下の赤いジャージ、首に巻かれた本革のチョーカーだけがシンガーソングライターっぽい。
『えっと、次の曲は『キミ依存症』です。聞いてください』
深々と頭を下げて曲が始まる。
「くっ…」
曲は悪くない。ちょっとハスキーな彼女の声が生きている。だけど……。
『病院でも~ 占いのおばちゃんでも~
「これは治らんわ」って白旗あげて~
眠れへん夜をフラフラ歩きながら~
薬も祈りも ぜんぶ空振りやった~』
メチャ、重たい。食堂で大盛ラーメンを食べた後に、彼女が弁当を差し出してくるような重さって言うか。
『…ねぇ 本当はキミも
うちに依存してたんちゃうの?』
「えっ…」
最後がこれかよ。微笑ましくてささやかな青春ぽさが微塵もない。
シンガーソングライター星野音和。
六年前から、何一つ変わっていない。創作なら、きっとこのフレーズは癖になる。個性になる。
だけどこれはきっと彼女の素の人生だ。なんとなくだけど確信めいたものがぬぐい切れない。
それだけの力が言葉一つ一つに感じられる。
不器用だけど心地よい生き方。
『察してよ。そういうとこなんだよね』
元カノ、宮脇早苗が残した最後の言葉。
世間の枠に収まった軽さ。
山本浩太二十歳、愛という名の『デジタルタトゥー』を踏み抜いた瞬間だった。
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<次回予告>
2-2 音和ワールド全開!ロックな人生に一塊の悔いも残さへんで
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