1-4 その女の子は年上で、貧乏で、恋多きシンガーソングライターだった
※この作品はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
明るい部屋で確認すると見た目は同年代くらい。いや、下手をすれば未成年。
背筋に冷たい汗が流れる。
「あっ、自己紹介な。大阪の高校卒業してこっち越してきて六年、星野音和っていいます」
ペコリと頭を下げる彼女に唖然としながらも浩太の頭は瞬時に計算を終える。
ってことは二十四歳、えっ、四歳年上。かなり年上……、って、この見た目でかよ。
化粧っけゼロのソバカス顔、爪もナチュラル。おしゃれっ気皆無な上下の赤いジャージ。
細い首に巻かれた本革のチョーカーだけが、ささやかにシンガーソングライターらしさを主張している。
それにしたって田舎の女子高生でももう少しましだよな。
話を聞けば、一切売れることなく、気が付けば引きこもりみたいな生活を六年。
食うものにも困る極貧生活はオシャレを楽しむという思考そのものさえマヒさせたようだ。
肉まんを豪快にほお張り、ビールで流し込んで「このままじゃ婚期も危ういわ」と、本人は笑う。
おっさんかよ。いやいや、結婚とかいう前に、生活が先だろ!って口から出かかった言葉を飲み込む。
「人と話すの久しぶりやなー。って、あっ、ビールもうないわ」
シュンとする彼女の姿にいたたまれず、冷蔵庫から缶ビールを取り出して手渡した。
ついでにポテチの袋を開いて差し出す。
せわしなくポテチを齧る姿が小動物みたで、こんな妹がいたら退屈しないだろうなーなんて思った矢先。
酔いが回ったのか、聞いてもいないのに恋愛遍歴、主に失恋遍歴を話し出す彼女。
シンガーソングライターなのに酒はあまり強くないらしい。
酒癖もかなりひどくて、話があちらこちらにぶっ飛ぶ。
「で、今まで何人と付き合ったんですか?」
音和さんは、ちょっと困った顔をして、天井を見上げた。
「若いころってさ、失敗も練習や思てたんよ」
そう言ってから、指を折りかけて止める。
「……数えるん、やめとこか」
その言い方が、冗談みたいで、でも、どこか終わっていない感じがして。
浩太は、それ以上踏み込めなかった。
自分は高校二年から、ずっと早苗さん一筋。浮気も修羅場も知らない。
それに比べて、音和さんの恋愛遍歴はにぎやかだった。
ミュージシャン志望、役者志望、訳の分からない大人。
「なんで、そんな続かないんですか?」
「自由すぎるんちゃう?」
ケラケラ笑う顔に、後悔はなさそうだった。
顔は悪くない。
歌も、正直メッチャうまい。
それでも関係が壊れる理由を、浩太は考え始める。
野良猫みたいに、気ままで、無防備で。
誰にも縛られない代わりに、誰にも寄りかからない。
いや、寄りかからないじゃなくて、寄りかかれない。きっと。
「ほんま、恋愛の達人やで、うち」と笑う彼女の顔がどこかさみし気に見えた。
「なぁ、浩太、歌お」
音和さんが「今はこいつが最後の彼氏や思ってる、なぁ、相棒」と言ってギター手に取った。
始まったのは、彼女が作ったあの曲。
題名は『スイカ』と言うらしい。
二人で、ぐだぐだになりながら歌い切った。
下手くそで、でも妙に楽しかった。
歌い終わって、少しの沈黙。
浩太は思う。
まだ何も分かっていない。でも、分かりたいと思っている。
それだけは、確かだった。
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<次回予告>
1-5 【歌詞公開】『スイカ』
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浩太です。【歌詞公開】と合わせて、YouTubeで音和さんの生歌が聴けるらしいです。
次回、YouTubeアドレス公開!!動画に音和さんの秘蔵写真が!お楽しみに。
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