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隣に住む女の子の壁越しの生歌に泣けて郵便受けに「リアル投げ銭」してしまいました。  作者: 坂井ひいろ


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4-4 浩太VS早苗。『安っぽいカーテン』の後半が未来を暗示しているんや

五月祭が終わって数日が過ぎた。普通なら夏休み前の学期末試験に向けて猛勉強を開始するのだが今年に限って何もする気がおきない。


浩太はスマホにヘッドフォンのジャックを刺して五月祭で音和さんが歌った『安っぽいカーテン』を繰り返し聞いていた。


なぜ、自室でヘッドフォンかって?答えは簡単である。


ズズ、ズル、ズルー。


六月が始まっているのに石油ストーブの前に陣取って、浩太の非常食であるカップラーメンをすする赤ジャージの物体。


「あー、幸せやわー。他人のモンってどうしてこんなに美味いんやろ」


五月祭の『大断罪会』の晩から毎日押しかけてはダラケまくる自称シンガーソングライター、24歳フリーターかつ引きこもりの星野音和ほしの とわさん。


イヤフォンの中の音和さんが曲の後半部を歌っている。


『いつかの背伸びが

私をここまで連れてきたんや

ちょっと背中曲げたけど

今はちゃんと立ててる気がする


「このカーテン、春にね」って

いつか誰かに話せたらええな

…笑わんといてや』


早苗さんは愛想を()かして別の彼氏を見つけたってことだろうか。


二年前の早苗さんの気持ちは『安っぽいカーテン』の前半でものすごくよく分かった。


自分の愚かさがしみて、耳をふさぎたくなる気持ちがあったが、今は向き合えている。


しかし、生真面目な浩太には後半部が理解できないと前に踏み出す勇気が出なかった。


「音和さん、一つ教えてほしいことがあるんですが」


「なんや、カタツムリ。私になんかようか」


「カタツムリって…」


「のろのろってしとって、ヌターってヌメって、すぐからン中、もぐっちうやろ。そっくりやで」


「くっ、一回、襲ったろか」


「言うようになったな。浩太のクセに」


両手の爪を折り曲げて前に向け、猫の引っ掻きポーズで威嚇する音和さん。怖いどころか可愛さが立ってしまう。


「もういいよ。どうせはぐらすんだろ」


「なんや、早苗ちゃんの件やろ。顔に出とるわ。で、浩太の結論は出たんか」


「早苗さんのことを一番に考えたいんだ。大切だって気づいたから」


「まったく、男ってやつは。どうしようもないグズやな」


「男は最初の女、女は最後の男。これが私の持論や」


「……」


「はっきり言うで。男は最初の女を引きずって生きるけど、女は最後の男以外は全部忘れんねん」


「……」


「浩太はなー、早苗ちゃんの最初で最後の男にならん限り終わりってことや」


「……」


「仮に浩太が高二の時、早苗ちゃんの気持ちを軽々しく受けていなかったら、あの子、美人やし違った人生歩んでたで」


「軽々しくなんて……」


「ほんまか、ほんまにそうなんか。『くっ。モテ期か。しかもこんな美人』なんて浮かれんのが男のさがなんやで」


「……」


「まっ、私も人のこと偉そうに言える立場やないんやけどな」


音和さんは遠くを見るような目で、窓の外を眺める。風が雲を運んでいる。


「あのなー、浩太。コンサートの時、早苗ちゃん、観客席にいたんやで」


「えっ……」


「私は『来ても来なくてもどっちでもいいで』って言ったんやけどな」


「……」


「『安っぽいカーテン』ができたんが四月初め、コンサートが五月末。一月半もあれば、あんな美人ほっとく男がいると思うか」


「そんな……」


「女はなー、別れた後が一番世界が広がるもんなんや。強なって、優しくなるんや」


言い終わるタイミングでアパートのチャイムが鳴った。


ピン、ポン。


昭和の忘れ形見みたいな木造二階建ての古いアパート。


錆びた階段の先にある二階の角部屋の隣ドアの前に宮脇早苗みやわき さなえは立っていた。


前回訪れたのがまるで遠い昔のように思える。


早苗は振り向いて階段の下に立つ男に小声て伝える。


「じゃ、行ってくるね」


男は小さく頷いて先を促す。早苗は浩太アパートのチャイムを押した。


出迎えてくれたのは音和さんだった。


「そろそろ来る頃や思ったわ」


「あのー、浩太さんは」


「あー、カタツムリな、おるで。おぉーい、浩太、早苗ちゃんやで」


浩太が顔を出すと、早苗は彼に一冊の本を手渡す。


「浩太。今まで返せなくてごめんなさい」


泣くつもりなんてなかったが、目じりに涙が溜まっていく。


「早苗さん……」


浩太が彼女の肩に手をかけようとしたとき、早苗は廊下まで下がって階段下に顔を向けてから、


かれを待たせているから」


そう言ってドアは閉じられた。


古い階段を駆け下りる足音、バタンと閉じる車のドア音、去っていくエンジン音がドア越しに聞こえる。


手渡された本にかかる重力が一瞬ましたように感じる。


ゆっくりとそれを開くと、最後のページに『今まで、ありがとう』と一言、書き加えられていた。


浩太の頭の中で、


『いつかの背伸びが

私をここまで連れてきたんや

ちょっと背中曲げたけど

今はちゃんと立ててる気がする


「このカーテン、春にね」って

いつか誰かに話せたらええな

…笑わんといてや』


『安っぽいカーテン』のフレーズが何度も何度も繰り返された。


後ろで浩太を見つめながら音和は悲しそうにつぶやく。


「最後まで『早苗さん』呼びやったか……」



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<次回予告>

4-5【歌詞公開】『安っぽいカーテン』

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浩太です。【歌詞公開】と合わせて、YouTubeで音和さんの生歌が聞けます。

次回、YouTubeアドレス公開!!写真撮るとフリーズする音和さん、なんかスマホのカメラを向けた時の猫そっくりなんだよなー。

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音和セカンドアルバム『SOU 蒼・颯・創』収録予定曲から本日の「おまけ」です。

音和(TOWA) - ボタンをとめて

YouTubeアドレス:https://youtu.be/9-GKZHM41oc

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