4-2 恋バナはロックなんやで。正々堂々、向き合って殴り合ってみんかい!
山本浩太に別れを告げた日、宮脇早苗は自分のアパートで一人膝を抱えて二人掛けソファーの上に座っていた。
高校二年から始まった付き合。受験も、合格も、上京も。ずっと励まし合った。
最初の告白は自分からだった。がり勉でクラスではあまり人気がなかったが私は高校に入学した時から密かに浩太に憧れていた。
校内テストの順位が貼りだされるたびに、自分の順位より浩太の順位が気になり、彼の名前が常に一番に輝いているのを誇りに思った。
高二になってクラスが一緒になり、隣の席になり、挨拶を交わすようになり、日直当番をそろってやり、二人で出かけるようになり。
縮まっていく距離がまるで神様の贈り物みたいで、告白は私にとって必然だった。
浩太と付き合うことで、私の学力は信じられないくらい伸びた。
たとえ勉強でも、一緒にいる時間が幸せだった。
「それでも、届かなかったなー」
机の上に飾られている写真、東大入学式の浩太の横に私の姿はなかった。
みつめる先は西日ですっかり色の抜けた青色のカーテン。
二人で買った初めての買い物。女の子の部屋にはちょっと不釣り合いなシンプルさ。
「本当はピンクの花柄とか、憧れてたんだけどな」
一人でつぶやく。
浩太が「勝利の記念品」と言ってふざけてドレスのように私の体に巻き付けてきた思い出が心を締め付ける。
二人掛けのソファーの横。浩太の定位置。浩太が忘れていった本が彼の代わりに置かれている。
早苗はそれを手に取って話しかける。
「浩太……。ごめんね。浩太の部屋…。不動産屋にキャンセルの電話したのは私なんだよ」
ぽつりと一筋の涙が頬を伝って落ちる。
「だって、浩太が離れていくんじゃないかって、不安で、心細くて」
あのまま一緒に暮らしていけたらきっと違った未来が待っていたのかもしれない。
でも、結局。自分の部屋を見つけ出して浩太は出ていった。
浩太にとって私の部屋は、クリーニング店の針金ハンガーが絡まってできたカラスの巣みたいなものだったのかもしれない。
周りに同棲してるみたいに見られたら困るだろとか、お金を出している親に申し訳ないとか、部屋が狭くなって迷惑だろうとか。
世間体も、親への配慮も、私への気遣も、全部、言い訳にしか聞こえなかった。
「もう、限界だったんだから。だから……」
あの時、浩太にもうフラれたんだなと察した。
「頑張ったのに。頑張って、頑張って、頑張って、必死で浩太ついていこうとしたのに」
心の奥にため込んでいた早苗の感情は独り言のたびに高まっていく。
「私と一緒に選んだメガネはどこやったのよ。ねぇ、浩太。どこやったのよ」
「どうして、LIENの既読だけで終わらせるのよ。ねぇ、浩太。どうして返事くれないのよ」
本に向かってむせび泣く。
「たまに会ったって、話しかけるのは私ばっかりだったじゃない」
「いつも私が話題を探して」
「いつも私から連絡して」
「いつも私が帰りを切り出して」
「ねぇ…、浩太。どうしてなの」
「ねぇ……、どうして、私と付き合ったりしたの」
「ねぇ………、残酷だよ」
大粒の涙がポトポトと止めどなく本を濡らす。
本に八つ当たりしたって意味ないことは分かっているけど、悔しくて、悔しくて…、憎くて。
私は浩太の本を返すために、彼のアパートに向かった。
『浩太を想う気持ち』と『浩太を否定する気持ち』
剝き出しの感情が早苗の中で殴り合っている。
決着のゴングを求めて。
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<次回予告>
4-3 吐き出した気持ちは歌となって、復讐の『のろし』が上がる
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音和セカンドアルバム『SOU 蒼・颯・創』収録予定曲から本日の「おまけ」です。
音和(TOWA) - 空の青と僕の青
YouTubeアドレス:https://youtu.be/lgJJmC8Xmhk
音和(TOWA) - 夢とか聞かないで
YouTubeアドレス:https://youtu.be/PMvono1kqxk
「甘くてほろ苦い柑橘系のお酒に合う」詩を作ってみました。




