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隣に住む女の子の壁越しの生歌に泣けて郵便受けに「リアル投げ銭」してしまいました。  作者: 坂井ひいろ


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4-1 シンガーソングライターってもんは人の感情を食らって育つんや

コンサートと言う一大イベントを無事に終えてみんな笑顔。ただ一人、引きつった顔の浩太を除いて。


と言うことでアパートに戻ると浩太の部屋で二人だけの特別反省会。いや、反省会という名の『大断罪会』。


いつもは穏やかな浩太の目が完璧に血走っている。それはもうブチ切れ寸前。


「音和さん、分かっているよね。この時間の意味」


「いゃー、浩太様のおかげであんなでっかい舞台に立てて、ほんま、感謝やわー。ありがと」


音和さんはチョコンと首を前に倒して笑う。


「音和さん、そうじゃないよね。説明してもらいたいんだけど四曲目。き・い・て・ないんだけど」


「あーれー、そやったか。おかしいなー。『ピテトロ』との直前打ち合わせでちゃんと説明したで。あっ、そやそや。浩太は『映像研』に行っとたんだっけ。さすが東大やな、あんなでっかいLEDディスプレイなんて、超一流シンガーのコンサートでしかみたことないわ。私の顔が、もう、怪獣みたいにでかく映ってて、顔から火が出てもうたで。口から火が出んのが残念やったで」


「くっ、わざと俺のいないところで……」


音和さん、とぼけとうせると思っているのか。


「そやけどなー。浩太やて私に隠していることあるやん」


「なんだよそれ。そんなもの絶対にない」


「そうか。ほんま、そうか。ほんま、ほんまにそう断言するんやな」


なっ、なんだ。その勝ち誇った顔。


「ほな、これは何かな」


音和さんはジャージのポケットから一枚の写真を取り出す。


「ほれ、ほれ、ほれ。これは何かな、何んやろなぁー」


浩太の目を覆うかのようにどんどん押し付けてくる。


くっ、音和さんの寝顔。完全無防備ですやすやと眠る子猫みたいな寝顔。メチャ可愛い。です。


「知ってんで。この写真バラまいて『映像研』の連中を抱き込んだんやろ」


「しっ、仕方ないじゃないか。時間も金もなかったんだから。減るもんじゃないし……」


『大断罪会』の矛先がブーメランのように戻ってきて浩太はシドロモドロ。


「やらしい男やな。乙女を男の一人部屋に監禁して、酒のまして眠らせて」


そっ、その言い方。俺に犯罪者の烙印をおすのだけは。やめてくれー。


「浩太が突然飲み会しようって優しい声をかけてき瞬間からあやしいと思ってたんや。この変態」


もはや浩太には返す言葉がない。


肖像権、プライバシー権などの人格権侵害、侮辱罪、名誉毀損罪。


現役東大生の優秀な頭脳は火花を散らしてショートした。


「……」


「まあ、ええわ。しかし、この写真、やっぱ私、かわええなー」


音和さんは自分写真を見つめながらニアニア、ニタニタが止まらない。


すっかり定位置となった浩太のベッドから立ち上がりテーブルの所へと歩く。


ちなみに浩太の定位置は畳の上に敷いたロールフローリングに直座りである。


「浩太の部屋にも一枚飾らんとだな。あっ、この合鍵の場所なんかどや」


浩太が引っ越しを終えて当時彼女だった宮脇早苗みやわき さなえに渡すつもりだった合鍵。


渡したその場で返却された合鍵。フラれた記憶の象徴。しまい込むこともできず、触ることさえなんかできなかった合鍵。


「この鍵なー。初めて浩太の部屋に来た日から一ミリも動いてないんやで。鍵がこんな目の付く場所に置きっぱなんて、浩太、案外に不用心やなー」


「……」


名探偵さながらの推理。メチャ、鋭い。音和さん、目の前にいるのは本当に音和さんなのか。音和さんの皮をかぶった小悪魔とか。


「ピーンって来たんや。女の感はするどいで」


「……」


「ほら。四月の初めころ。桜が凍える様な寒か日、あったやろ。私の部屋ストーブないから、あったまりに来たやん。たぶん、浩太がこの写真撮った日やな」


「……」


「浩太がコンサートの打ち合わせで、私をほっぽといて大学とアパートを行ったり来たりして不在の時に早苗ちゃんが訪ねてきたって話しな」


「はちあったのか。ここで……、早苗さんと……」


「せや、神がかり的な修羅場やで。元彼女とアパートに住みつく『か・わ・い・い』見知らぬ女。できすぎ過ぎてワロタわ」


音和さんのニヤニヤが止まらない。


「忘れていった本返しに来ただけだって言い張る早苗ちゃんを招き入れて、浩太との『なれそれ』をのろけたろって、ちごた『友人関係』をな説明したんや」


くっ、音和さん、小悪魔通り越して大悪魔。問答無用で早苗さんを部屋に引きずりこむ姿が目に浮かぶ。


「早苗ちゃん目がなー。チラチラこの合鍵を見るんや。それでピンときたよ。もう、ほんま、青いなーって」


浩太の頭にこびりつく早苗さんの別れの言葉『そろそろ私たち、別れない?』が返された合鍵にまとわりついている。


「大学別々やけど、一緒に住んでたんやってな。二人で東京出てきた時、ちょっとだけ。浩太の部屋が決まるまで」


不動産屋の手違いで、アパートがキャンセルになり、頼れる人は早苗さんだけだった。


「浩太はな。頭いいけど鈍感なんや。早苗ちゃんの気持ちなんてこれっぽちもさっしてあげとらん」


早苗さんの最後の別れの言葉『察してよ。そういうとこなんだよね』が思い出されて、心の真ん中あたりがズキズキする。


「浩太、あん歌の出だし『安っぽい青のカーテン』のフレーズで悟ったやろ。あれは早苗ちゃんの曲や」


そんな、あの歌詞の内容はこっちきて直ぐの話、それから二年も付き合ってたのに。そんなに前から早苗さんは……。


「愚かやな。フラれたんちゃうわ。早苗ちゃんからしてみたら、とっくに浩太にフラれとったんや」


「いや、でも……」


「言い訳なんか通用せえへん。思い当たるやろ」


早苗さんの別れの言葉『そろそろ私たち、別れない?』に対して浩太が返した言葉『え……『そろそろ』って、どういう……』


「さてと、私は『そろそろ』帰るわ。この鍵、どうするかは浩太次第やで」


三か月間動かなかった合鍵を浩太に投げる。


受け取りそびれた合鍵は床に落ちて、カラン、と乾いた音を鳴らした。


音和さんはその合図を聞き、玄関に向かって歩き出す。


音和さんはドアノブを握って振り向き様に、


『あっ、そや。あの寒かった日、浩太が『映像研』向けに私の資料写真を撮りに戻ってくるもんやから、早苗ちゃん、そこの押し入れン中、隠れていたんやで』


と言い残して去っていった。


外に出た音和はドアに背中を預けて青葉が生い茂る桜の木を見つめてつぶやいた。


「残酷やな、ほんま」


一陣の風が青々と茂る桜の葉を揺らしていく。


「なあ、浩太。シンガーソングライターってもんは人の感情を食らって育つんや」


だけど心ン中がちょっとチリッってなって、何やろなーって音和は胸を押さえた。



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<次回予告>

4-2 恋バナはロックなんやで。正々堂々、向き合って殴り合ってみんかい!

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音和セカンドアルバム『SOU 蒼・颯・創』収録予定曲から本日の「おまけ」です。

音和(TOWA) - 風と共に

YouTubeアドレス:https://youtu.be/Y1lVuuU2lmg

音和(TOWA) - うーん、なんだろ

YouTubeアドレス:https://youtu.be/3p6xw7haZDI

音和(TOWA) - 無重力ポケット

YouTubeアドレス:https://youtu.be/HEAe3OPUCU8

「こういう気持ちになることあるよね!」ってのを詩にしたものです。

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