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隣に住む女の子の壁越しの生歌に泣けて郵便受けに「リアル投げ銭」してしまいました。  作者: 坂井ひいろ


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3-3 第三話 幸せの形はハピーエンドだけやない。笑って死ねるかや

『ピテトロ』のリーダー『大将』こと松原と夢野佳菜恵ゆめの かなえとの出会いはありきたりだった。


昭和アイドルを目指す新人、夢野佳菜恵。既に頭角を現しつつあったロックバンド『ピテトロ』。


当時は各局で沢山あった音楽番組で二人は出会う。


「顔も悪くないし、歌もうまいんだけどなー。正直、アイドル志望としては歳がね」


ステージ裏でプロデューサーがデレクターに話しかける。


「そうですね。お色気とかに転向できないのか」


話を振られたマネージャーはうつ向いてしどろもどろ。


「それは、うーん、もうちょっと、見極めが」


表のステージから何も知らない夢野の歌声が響いている。


たまたま通りかかった『ピテトロ』の松原は芸能界ではよくある話。


蹴落とし、成り上がる貪欲さがなければ、この世界では生きていけない。


その後、収録が順調でステージがはけた後に出演者を集めて飲みに行かないかという話が持ち上がる。


「たまには松原さんも参加してくださいよ」


後輩から声をかけられた松原は少し悩む。しかし、売れ始めたとは言え、まだまだ『ピテトロ』はひよっ子、付き合いも大切だ。


松原は『ピテトロ』のメンバーを引き連れて打ち上げに参加した。


「私、松原さんのことを尊敬してるんですよ。バンドメンバーのリーダーなんて凄いです」


居酒屋でたまたま隣になった夢野佳菜恵の愁いを帯びだ声に惹かれた。同世代と言うこともあり思いのほか盛り上がる。


バンドマンなんて女にもてたくてなるようなもんだしな。


メンバーを見渡す。


サングラスとひげがトレードマークの『ピテトロ』のボーカル、オクやんを見ると女子に囲まれてでき上っていた。


けんちゃんとヒサ嬢は絶賛口喧嘩中。犬猿の仲に見えるがバント公認の恋人同士。


孤高のギターリスト、ナガシは師匠と飲み屋街へ営業。ちなみに『ナガシ』は『流し』と言う大昔にあった職業に由来する。


「佳菜恵ちゃん、プロデューサーさんがお酌して欲しいって呼んでるよ」


デレクターが夢野佳菜恵の肩に手を置いてニヤニヤしている。横のマネージャーはうつ向くばかり。


松原の中で『ロック』が弾ける。


「出よう」


デレクターの腕を払うと、佳菜恵の手を握って走り出した。


一人になった夢野佳菜恵は思いのほか饒舌で、二人は終電がなくなるまで別の店で飲んだ。


その後の話は、音和さんが歌った『マンネリごっこ』の通りだった。


「なるほどなー」


夢野佳菜恵ゆめの かなえの自叙伝『ふみだい』の内容を聞いた浩太の感想である。


「でも最終的に悪いのは、煮え切らなかった『大将』なんだろ」


「浩太は子供やな」


音和さんがぽつりとつぶやく。その目はどこか遠かった。


「あの後、バンドブームはあっさり終わってもうて。きっと『大将』かて『ピテトロ』を維持するのに必死やったと思うで」


「だからって佳菜恵さんをほっとくとか…」


「『マンネリごっこ』はなあ、夢野佳菜恵の自叙伝や。浩太が『大将』の立場だったらどないしとる」


「嘘だろ。じゃ『大将』は佳菜恵さんが悪者にならないように自分から嫌われ役になったと」


「多分なー。『大将』を見限った夢野佳菜恵は、めっちゃ強なって昭和の大スターにまで駆け上がり、実業家と結婚して幸せな人生を勝ち取った」


「その原動力となったのが『大将』との暮らしかぁ…。ロックやな」


浩太の頭の中に『マンネリごっこ』が鳴り響く。自叙伝『ふみだい』、心の中に何かがストンとはまり込んだ。


「せやで。幸せの形はハピーエンドだけやない。笑って死ねるかや。人生はロックやで」


音和さんは静かに締めくくった。


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<次回予告>

3-4 音和ロック、若者文化の象徴、安田講堂に令和ロックな『熱』を灯すんや

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