むかしむかし
実験は大成功だった!
おじさんが作り出したタンパク質は、筋肉に指令を出さなくなった神経細胞を入れ替え、正常に機能する神経細胞へと作り変える。正に想定していた通りの働きをした。
想定外だったのは、タンパク質だけでなく細胞まで作り出していた事。研究者の二人が最初に驚いたのもその所為で、これによりタンパク質はずっと生み出される事になり、都度おじさんが作らなくても良い事になった。また細胞を増やす事で、もっと多くの患者さんにもタンパク質を投与する事が出来るようになり。ALSの患者さんは劇的に数を減らす事となるだろう。
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実験が終わったあの日、動けなくなっていたおじさんを二人にも手伝って貰いハイヤーに乗せて常宿まで帰った。ホテルでは運転手さんとコンシェルジュさんに手伝って貰いおじさんをベッドに寝かせたけれど。
それから二日間、おじさんは起きて来なかった。
「おはよう」
朝のまだ早い時間。私は夜を明かしておじさんの側で看病をしていたのだけれど、いつの間にか眠っていたようだ。おじさんの「おはよう」の声で目が覚めた。私の寝顔を見られてしまったのか……。
「おはよう!?」
目が覚めて、おじさんの顔を改めて見る……おじさんの顔が……。
「どうしたのじゃ?」
驚いて固まってしまった私におじさんが不思議そうに声を掛けてくる。
「あっ、ごめんなさい。おじさんこそ体調はどうなの? もう大丈夫?」
おじさんは、自分の体をポンポンと触ってみてから。
「少し怠い感じはするが、大丈夫じゃ」
そう言って立ち上がろうとしたので「もう少しだけ寝ておいて」と言って、私は洗面台へと向かった。
ジャーーー!!
バシャバシャと顔を洗い、頭をスッキリさせる。
あれが見間違いで無ければ、おじさんは本当におじさんになってしまった。昨日まで三十七歳と言われても全然そう見えなかったのに、さっき見たおじさんの顔は五十代か六十代にも見えた。
二日間も玉手箱を抱いて寝ていたのに戻っていない。もしかして、玉手箱の力が無くなっている……?
やっぱり実験の時に光っていたのは、力を使い過ぎていたんだ。
玉手箱の力の残りはあとどれ位? あとどの位おじさんと一緒にいられるの?
私は、鏡の前で涙を流さないように一生懸命に耐えながら今後の事を考えた。
暫くして、おじさんのいるベッドルームへと戻ると、おじさんは立ち上がって窓の外を見ていた。
「立ち上がって大丈夫?」
近寄って、そう声を掛けると。
「この景色は凄いのお」
と言って振り向いた時の笑顔は、何となく以前の雰囲気のままだ。
「お茶を淹れたから座って」
ベッドのサイドテーブルにお茶を置いて、おじさんと座る。
「ありがとう。織姫さんの淹れたお茶は美味しいの」
いつまでも優しいおじさん。
「ありがとう」
おじさんの容姿の事はすぐに本人にも分かると思うので、先に教えてあげる事にした。
「ねぇおじさん。コレ見てくれる」
私は、洗面台から持ってきた手鏡をおじさんに向けて顔を見てもらう。
「おお、鏡か。どうしたのじゃ?!」
おじさんも鏡に映った自分の顔を見て気がついたようだ、明らかに三日前とは違う自分の姿。
「分かる? おじさんの顔が歳を取っているの、顔だけでなく手や、肌も」
おじさんはジッと鏡を見た後、自分の手や腕を見ている。
「あの実験が終わった後にも感じたの、だけど、いつもだったら玉手箱を抱いて一日も寝ていれば元に戻っていたから、今回も大丈夫だと思っていたのだけれど」
おじさんはもう一度鏡を見ると。
「おとうの顔じゃ、昔見たおとうの顔になっとる。ずっと若いままの姿じゃったが、やっと歳を取ったのじゃな」
「!!」
そうか、竜宮にいた十四年間、現代までの千四百年。おじさんはずっと歳を取らずに生きてきた。
それは、竜宮にいた事とこの玉手箱の力のおかげだったのだろうけど、その力が弱まってきて、ついにおじさんは歳をとり始めたのだ。
これが。日に日に進むのか、ある程度で止まるのか分からないけれど、おじさんの寿命に関係してくる事はわかる。
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おじさんは、あのビルでワン麻呂さん達との生活を続けていた、今まで通りの生活を希望したから。
私たちは出来るだけおじさんに力を使わせないように、無理はさせないでいたのだけれど、これだけはと言って料理だけは時々作っていた。
その度に呼ばれてご相伴に預かるのだけれど、その料理はとても美味しくて、今の私の記憶にずっと残っている。
私は、ちょくちょくおじさんの元にやって来るようになっていた。
旅行にも行った。
映画を見て、ご飯を食べて、他愛無いお喋りを楽しんで。
そんな楽しい時間が三年も過ぎた頃、突然に終わりを迎えた。どんなに玉手箱を抱いて寝ても、老化が止まらなくなったのだ。
日に日に歳を取っていく浦島さん。最後はベッドからも起き上がれなくなり。私の手を取って「ありがとう、楽しかったよ」と言って息を引き取った。
お葬式の後の四十九日、今日はあの人のお墓を用意してお骨を納めて貰った。
「おじちゃん、ちんじゃったの?」
「そうよ、しんじゃった……ねえ、ママ引っ越ししようかと思っているんだけど」
「おしっこし?」
「そう、おひっこし。此処にいるとね、たくさん楽しかった事が思い出されて、ばぁーっと溢れでてしまって直ぐに忘れてしまいそうなの。知らない町に行けば、楽しかった思い出を少しずつ思い出して、長く思い出として覚えていられるかなって思うの……いいかな?」
「わたちは、ママといっしょだとだいじょうぶ!」
娘はそう言ってギュッと抱きしめてくれた。
「ありがとう、おとひめ」
おわり
最後まで読んで頂きありがとうございます。
これで「儂の名前は浦島太郎。竜宮城で乙姫と14年暮らして戻ってきたら2025年の現代日本だったので、過去の知識を使ってのんびり過ごしてみたのじゃ」は終わりになります。
現代物はどうかな? と思って書き始めたのですが、思ったより書いていて楽しめました。
かなり自分勝手な内容になっているかと思いますし、タイトル詐欺だとも思いますが、優しい目で見て貰えると嬉しいです。
自作はまた異世界物語となります。
現在、頑張って書いていますので公開まで暫くお待ち下さい。
読んで頂きありがとうございました。
ーーカジキカジキーー




