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浦島太郎のリスタート、のんびり浦島さんの現代暮らし。  作者: カジキカジキ


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29/35

事情

「浦島さんがあの女を連れてきたですって!」


 バーン! と入り口のドアを開けて飛び込んで来たのは、やはり織姫さんだった。


 リビングでソファに座って茶を飲んでいる儂らを見て。織姫さんはワン麻呂殿と足柄殿を睨むが、二人はスッと目を逸らした。


 織姫さんが歩いて来て、儂の横の空いている方に腰掛ける。何ぞ近くないか織姫さんや?


「それで? 何が理由であんな事をしてきたの?」


 いきなり本題に踏み込んでくるのお織姫さんや。


 一瞬、体をビクッとさせた彼女だったが。足柄殿の淹れたお茶を飲み、落ち着いたのかポツリポツリと話し始めてくれた。


「それこそ……最近の事なんです。娘のマリから『手が変な感じがする』と相談を受けたのは、普段通りにしているつもりなのに、手が滑って物を落としてしまう。しっかり意識しないと物が掴めない。と言った話をしてくれました」


「私は、目の前が真っ暗になりました。ALSは、感染はしませんが遺伝性はあるんです。家族や親族で発症者がいると同じく発症する可能性が高くなる……」


「えっ!? それじゃあマリさんも?」


 織姫さんも驚いて固まってしもうた、そのALSが何か分からんが、難しい病気だと言う事は先の話しで理解しておるが。


「夫に続いて娘まで同じ病気で亡くすと考えたら、数日は何も手に付きませんでした」


 そんな時だったのです。娘が、友達から美味しいお茶を貰ってきたから一緒に飲もうってお茶を淹れてくれたんです。


 あまり食欲は無かったのですが、お茶の良い香りに誘われて一口飲むと、スーッと体に染み込む感じがしました。そして気がつくと全部飲んでいて。それを見た娘もとても喜んでくれました。私が数日食べていないを気にしてくれていたんでしょう。


 さらに。その日は、本当に久しぶりにグッスリと眠れました。本当に久しぶりに夫の夢を見た気もします。翌朝、洗面台で自分の顔をみてビックリしました。あれ程クマや疲れが出ていた顔がとても若返っている感じがしたのですから。


 そして、その原因があのお茶にあるのではないかと考えた私は、マリから残りのお茶を全て奪って研究に没頭しました。


 けれど、何処をどう調べても何の変哲もない普通のお茶でしかない! そうこうしている内に手持ちのサンプルは殆ど無くなり悩んでいると、他の部署でも何の変哲もない植物の解析データを取っていると噂が流れてきた。そして極め付けが「お茶飲んでキレイになった」、美容部門の新人が他部門の新人と話しをして聞いたと言う事。私はラストチャンスとばかりに上層部に新規開発の申請を無理矢理通し、その他部署から怪しい人物を引き抜いた。


 それでも……全く進展はありませんでした。無理矢理絞り出した予算と、彼女から奪ったサンプルで最後の賭けに出ましたが失敗。


 今日、本部長会議で新規開発は中止と言い渡されました。


「その病気に効く薬はないの?」


「まだ研究も始まったばかりのような病気です。対処療法で進行を遅くする程度はありますが、根本的に治す方法は見つかっていません」


 女性が話し終わると、室内が静かになり誰も会話をしようとしない。


「儂が、儂がそれに協力すれば。あのお茶やこの力があれば……マリ殿の病気も治るのかも知れぬのか?」


「!!」


「おじさん! それに協力するって事は。おじさんの……自分の寿命を縮めるような事なのよ!」


 グッと服を掴んでくる織姫さんの手を取り、ジッと目を見て頷く。


「先日も言うた通り、儂はもう少しこの世で過ごしたい。皆と一緒に暮らしたいと思っとるが、そんなに長生きするつもりでもない。この儂の寿命で、今を生きる若者の命が長らえられるのであれば、儂の力を貸してやっても良いと思うとるよ」


「浦島さん!」


 叫ぶ織姫さんを押し除け、儂の足元に跪き祈るように訴えてくる女性。


「ああっ! お願いです! どんな力が知りませんが、どうか、どうかその力を私に、娘の為にお貸しください!」


「娘さんだけの為ではない、他にも同じ病気で苦しむ人の為にもなるのだろう? その為に協力させて貰うよ」


「ちょっと! ちょっと! おじさんも貴方も勝手に話しを進めないで頂戴! まずはキチンと契約を交わしましょう! 私の専任弁護士を呼びますから、それまで待ってて頂戴!」


 儂と女性の話しを聞いていた織姫さんが、大声を出して話しを遮ってきた。そして続けざまに話し始める。

 

「それから。浦島さんと契約するに当たって、まず最優先されるのは浦島さんの体調です。無理な検査、日程での調査は行わない事。浦島さんの体調に変化があったら直ぐに検査を止めて休ませる事。検査の際は、私か私の代理人が必ず同席させる事。検査結果の公表に当たっては、浦島さんの名前は絶対に出さない事。まだまだありますが、ひとまずこんな所でしょうか?」


「そんな事出来るわけ……」


 織姫さんは、話していた女性の口の前に人差し指を立てると。


「スポンサーとしては当然の権利です。それに貴方、会社からは研究の取りやめを言われたのでしょう? どうやって研究の続きを始めるのかしら? 会社に戻って頭を下げる? そんな面倒な事をするより、スポンサーを見つけてきたと言って研究期間を伸ばして貰いなさい」

 

 そう言って織姫さんは、ポケットから何かを取り出す。


「すみません、申し遅れました。私、こう言うものです」


 その紙を受け取った女性が、それを見た途端に何度も見直す。


「え? うそ!? え、え?」


 驚いて声も出ない女性に、織姫さんはニッコリ笑って。


「『NeuraNest』CEO、源織姫です。よろしくお願いしますね、鬼島朱里さん」


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