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浦島太郎のリスタート、のんびり浦島さんの現代暮らし。  作者: カジキカジキ


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潜入調査

 一月某日、午前九時。目的の建物に侵入、これより調査を開始する。


「ふふふふっ、自分が勤める会社に出社しただけなのに、スパイ気分が味わえるなんて、何だか楽しくなってきちゃった」


 いつも通りに子供を保育園に預けたあと、電車に乗り換えて会社まで来たのだけれど、何故だかテンションが上がって来ました。


「おはようございます」


 現在(いま)の私が所属するバイオ研究開発部門の研究室へと入る。


「おはようございます主任」


「おはよう、佐藤君」


「おはようございます、鬼島部長」


 部長の席の前へ二人とも並ぶ、これから朝のミーティングが始まるのだ。そして、この研究室のメンバーはこれで全員、鬼島部長が無理矢理立ち上げた部署なので予算もメンバーも最低限に絞られてしまっている。


「おはよう緑川さん、佐藤君。早速だけど、今日の解析は取り止めにします。今日は、今までの解析データをもう一度見直して、数値の変化に見落としが無かったか全て再確認して下さい」


「えっ!? 全てですか?」


 佐藤君が驚いて声を上げるが、確かに昨日までの解析データを全て見直すとなると結構な手間だ、PCに入った解析データとレポート、他の大学機関で公表されている遺伝子情報等とも比較し直すとなると一日では終わらないだろう。


「分かりました。佐藤君、さっそく取り掛かるわよ」


 挨拶をして部長の席を離れ、自分たちの席に座るとPCの電源を入れる。ふと、お茶を買ってくるのを忘れていた事を思い出してもう一度席を立つ。


「何処行くんですか?」


 すかさず佐藤君が引き止めようとするが、「ちょっと」と言って部屋を出た。


 ピッ! ガタン!


 スパイ気分が一気に現実に戻ってしまった……。


 飲み物を持って研究室へと戻っていると。


「みどりさーん」


 後ろから呼び止められた、この会社で私を名前で呼ぶのは。


 田螺法子(たにしのりこ)、三十九歳、総務部なのだが色々な所で顔が知られている社内の有名人。


「ネンレイノセツメイハイラナイヨ?」


「何ですか? 法子さん」


「たった一コ違いでしょうが!」


「確かに昨日私が誕生日で一コ違いになりましたけど、明日は先輩の誕生日で二コ違いに戻りますよね? あっ四十歳のお誕生日おめでとうございます!」


「だから歳は言うな!」


 クスクスッ。


 すれ違う女性社員たちが笑いながら通り過ぎてゆく。


「何だか機嫌がいいみたいだな? 何か良い事でもあったのか?」


 んー、昨日の出来事をちょっと思い出す。


「昨日は、横浜ベイホテル東急で誕生日ランチだったんですよ、んふ」


 法子先輩は、目を剥かんばかりに見開いて!「何だ! 新しい男が出来たのか?!」と聞いてきた。


「ちょっと声が大きいです! けど、違います。年下ですけど素敵な女性と一緒でした」


 先輩は、だったら私ともデートしろと言って来たが、「クイーン・アリスの個室を予約出来るなら行きますよ」と言うと、「どんだけセレブなんだソイツは」と言われるので秘密だと言っておいた。


 などと話しながら歩いていると研究室までたどり着いたので、先輩と別れようとしたら先輩がICカードで入り口のロックを開けて先に入って行ってしまった。


「先輩?」


 部屋に入った先輩は、ズンズンと進んで鬼島部長の前へと行くと。


「鬼島部長、本部長会で呼び出しですので、今すぐ第一会議室までお越し下さい」


 鬼島部長は田螺先輩をジッと見て、「何で貴方が?」と問いかけると。


「単なるお使いです」とふざけた答えが返ってきた。


 鬼島部長は席を立つと「貴方達はデータの見直しをやっておくように!」と言って数歩進んだ所で立ち止まり、「貴方は行かないの?」と田螺先輩を見る。


 田螺先輩は「私はお使いだから、会議には呼ばれていませんので、部長だけどうぞ」と言って手を振って追い出す。


 一瞬怒った顔を見せた鬼島部長だったけど、ため息を吐くと研究室を出て行った。


「「ふぅ」」


 緊張した空気が霧散する。


「で、貴方ちちは何を調べているの?」


 興味深そうにPCの画面を覗く田螺先輩。


「ダメですよ! まだ機密扱いなんですから!」


 画面を隠されて、しぶしぶ顔を離した先輩が。


「ケチねえ、でも知ってるのよ。貴方達があるルートから持ち込んだ植物の解析をしているって、でも全然進んでないんでしょ? あの人が呼ばれたのもそのせいだから」


 何て情報の早い人だ、機密情報だったし部署が出来て一ヶ月も経っていないと言うのに……。


「先輩は、何故鬼島部長がこんなに急いでいるのか理由を知っていますか?」


 私の問いに、田螺先輩は真面目な顔をして。


「知っているけど私の口からは言えないかな。もしみどりちゃんがこの研究の本当の目的を教えてくれたら、話してあげても良いけれど」


 私はチラッと隣の佐藤君を見る。


 すると、田螺先輩が佐藤君の方へと向かい。


「ねぇ佐藤君。(きみ)、少しだけ席を離しててくれないかなぁ、ほんの三十分でも良いんだけど」


 そう言って、なけなしのボディを佐藤君にすり寄せながら交渉すると。


「ダメですよ! 僕はこの解析データを全て見直さなければならないんですから!」


「大丈夫よ、鬼島部長は午前中は帰って来れないし。それとも、私たち二人のイケナイ関係をそこで見てるつもり?」


 そう言って今度は私にそのボディを押し付けて来た!


「「!!」」


 私も驚いて声が出せないでいたら、佐藤君は真っ赤な顔をして飛び出して行った。


「ちょっと法子先輩! 彼が勘違いしちゃったらどうするんですか!」


 先輩はイタズラが成功して楽しいのか、クスッと鼻を鳴らして。


「いいじゃない勘違いさせて、それともホントノコトにしちゃう?」


 そう言って指をスススッと胸に沿わせてきた。


「しません!」


 ペチッ!!


 先輩の手を叩き落とす。


 私は椅子に深く座り直すと。


「で、話して下さいよ鬼島部長が急いでる理由。その為に彼を追い出したんでしょ?」

 

 法子先輩は「バレてたか」と舌を出すと、さっき私が買ってきたお茶を飲み。


 佐藤君の席に座って話し始めた。


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