敵の敵は……
「こんな所までお呼び立てしてごめんなさいね。お子さんは大丈夫かしら?」
「いえいえ! こんな所だなんて! 先日頂いたお弁当もこのホテルの物でしたよね?! すっごく美味しかったです! 今日はクイーン・アリスでしかも個室だなんて感激です! 子供も喜んでいますから食事の間位だったら大丈夫だと思います」
今も、みどりさんの隣では楽しそうにキョロキョロと室内を見回しているお子さんの姿、ふと目があってニッコリされたので、私もちょっと手を振り返す。
海山みどりさんは、シングルマザーで四歳のお子さんを育てながらお仕事をされており、なかなか預ける場所も無さそうだったので。子連れでもOKと聞いたこのレストランの個室を予約して呼び出してみた所、あっという間にOKの返事が届いた。
「お待たせしました」
子供用のお子様ランチと、ランチコースのメニューが揃う、本来ならコースで順に出てくるのだけれど、お願いして一度に出して貰った。食事が届いた後はこちらから声を掛けるまで入って来ないようにも伝えてある。
「では、頂きましょうか。話は食べながらで良いかしら?」
「あまりゆっくりも出来ないので、その方が助かります」
みどりさんは、子供がスプーンを持ってご飯を頬張る姿を見て微笑みながら、自分もサクサクとランチを食べている。普段もこんな感じでゆっくりなんて出来ないのだろう。
差し障りのない範囲でプライベートな事から、仕事の事、そして浦島さんに貰ったアレについて。
「源さんは、アレをどうするおつもりですか?」
こちらが警戒して聞き出そうとしていたのに、急に真面目な顔になって逆に聞かれてしまったので素直に答える。
「もし、浦島さんがアレを作る事によって、寿命を縮めているとしたら貴方ならどうする?」
みどりさんは、キョトンとした顔になって私を見る。
「フフッ、冗談よ。実は……浦島さんには特別な事情があって、記憶喪失とは少し違うのだけれど、現在の記憶が全く無いのよ」
みどりさんも、そう言われると思い当たる節があるのか、納得した顔をして頷いた。
「それだから、アレに付いても本人が意図しない形で流出させている可能性があるの。それがもし、何処かの会社の重要機密に繋がっているとすると。それを研究している貴方の会社にも重大な責任が発生する可能性があるわ、もし機密事項を盗んだなんて事で訴えられたら……ね?」
それを聞いた瞬間、みどりさんの顔がそれこそ緑色に変わった。口に運んだオマール海老が落ちそうになってるわよ。
「なので、浦島さんにはもうアレを作らないように言ってあるわ。時期的にも材料になる植物が枯れてしまっているから作れないってものあるけれど」
みどりさんも全力で頷いている。いや、だからそんなに頭を振ったらソースのワサビが飛んじゃうって!
「と言う事で、みどりさんには貴方の会社の研究を何とか止めて頂きたいの、協力して貰えるかしら?」
「分かりました! 私に何処まで出来るか分かりませんが、精一杯頑張ってみます!」
気合い入ってるけど。ほら! ホッペにデザートのクリームが付いてるから!
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みどりさんと別れ、私は常宿のホテルの部屋に戻ってきた。ベッドに倒れ込み、これからどう話を進めてゆくのか整理する。
「みどりさんは取り敢えず味方……と」
みどりさんからの情報によると、既にドクダミ茶のサンプルは殆ど解析で使い果たしており、手元には残っていない様子。それでも結果を出さなければならない鬼島部長は、もしかすると何か手を打ってくる可能性がある、と言う事だった。
「手を打ってくる可能性……考えられるのは、データを偽装して解析に成功したと上に報告し時間を稼ぐ。その間に、アレの存在を知っている人物にもっと強く交渉、もしくは強行手段を使って入手元を探る。その場合の人物は、間違いなくみどりさんがターゲットになるわね」
鬼島朱里、会社の中で彼女に意見出来る存在、もしくは反発する勢力の中の人物。そんな人物と接触する事が出来れば。そこから研究を辞めさせる話を持って行けば良いけれど。とにかくみどりさんからの情報が無ければ動けない。
焦りは禁物、情報を纏めて然るべき相手に然るべき方法でアプローチして、完膚なきまでに突き落とす。




