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浦島太郎のリスタート、のんびり浦島さんの現代暮らし。  作者: カジキカジキ


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玉手箱の秘密

「久しぶりな気がするのお」


 年が明けて、ワン麻呂殿も仕事が始まって忙しいのかバタバタしており。部屋におっても何もする事がないので出て来たんじゃが。


 山下公園もまた、いつもより人が少なく静かな感じじゃった。


 ブラブラと、公園内を懐かしく思いながら歩く。


 夏の終わりに、あそこから陸へと上がり亀と別れた儂は、日本語とも分からぬ言葉を使う若者達に驚き。あの植え込みの影から声を掛けてきた「竹取の翁」と中華街を駆け抜けたんじゃったな。夜は夜で散々な目におうたが、今はこんなにも良い人々に出会えておる。


 千四百年も昔から来ておるのに、僅か数ヶ月前の事を懐かしいと思うのは、色々な体験をしたからかのう。


「いにしへの 事よりも近く 過ぎし日の 笑顔の残響(なごり) 心に寄す」(風ノ歌)


 パチパチパチパチ。


 急に手を叩く音が聞こえ、驚いて振り返ると。あの日出会った時の格好の織姫殿が立っておった。


「おお! 今日は……竹取の翁殿、久しぶりじゃの」


 こっちの呼び名の方が良い気がして、呼んでみたのじゃが。


「浦島太郎さん、お元気でしたか?」


 うん、合っておったようじゃ。


「おかげさんで、あれからも縁が通じて良い人達に出会えておる。今は立派な屋根のついた寝床で眠れておるぞ。そうじゃ、厠にもウォシュレットがついておるんじゃ、あれは良いじつに良い」


「ふふふ、それは良かった」


 笑った顔はほんに織姫殿じゃが。


「翁殿は、今日は何をしに此処へ?」


「頭の痛い問題の考え事をしていたら疲れたので、少し散歩に出て来ました」


「それは良い、では少し歩きませぬか?」


「良いですね」


 我らは、公園を何をするともなく歩いて回った。並んでも肩が触れることも無く、特に何か話すわけでも無い。ただただ歩いて、冬の陽の暖かさを感じていたのじゃ。

 

 ピピピピピ、ピピピピピ。


 突然、織姫殿の上着からアラームの音が響いた。


「ごめんなさい」


 そう言うて、上着からスマホを取り出し画面を見る織姫殿。


「はあ、帰らなきゃ。もう少しゆっくりしたかったけど……じゃあねおじさん」


「織姫殿に戻っとるぞ、また顔を見せておくれな」


 その時じゃ、織姫殿のすぐ側を自転車がぶつかりそうな勢いで通り過ぎて行った。


「きゃっ」


「あぶねえだろ!」


 罵声を上げて過ぎ去って行く自転車の男。


「痛ッ!」


「どうしたのじゃ?!」


「さっきので、指を切ってしまったみたい」


 織姫殿が押さえている指を見ると、血が滲んでおるではないか!

 

「おおお! これはいかん! 何か押さえるもの、あああ! 今はドクダミも無いし、どうしようかのう」


「大丈夫よおじさん、少し押さえていたら血も止まるから」


「いやいやいかん、ちょっと見せてみなされ」


 儂は、むりやり織姫殿の手を取り、怪我をした指をキュッと握りしめた。


「治れ、治れ、治れ……」


「おじさん?」


◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆


 ほんの少し怪我をしただけなのに、おじさんは顔を青くして狼狽えて私の指を押さえると、何かブツブツと言い出した。


「大丈夫だから」と言っても一生懸命に何かを祈るように呟いている。


 暫くすると、「もう大丈夫じゃ」と言って、そっと手を離してくれたけれど。


「えっ?」


 怪我をしていた筈の指の怪我が無くなっている……いえ、よく見ると薄っすらと怪我の跡が見えるけれど、こんなのは怪我をして数日経たなければならないはず……。


「おじさん……何を、えっ!」


 おじさんに何をしてのか聞こうと思ったら、おじさんが急にしゃがみ込んで苦しそうにゼイゼイと息をし始めた。


「おじさん! 大丈夫!?」


 おじさんの背中をさすりながら、顔色を伺うと。さっきまでとは違う。老け込んだ、老人のような顔をしたおじさんがそこにはいた。


「とにかく、歩ける? 歩けるならワン麻呂さんの事務所まで行きましょう!」


 ここから、ワン麻呂さんの事務所までは約二百m、何とか私が肩を貸せば歩けない距離では無い。私はおじさんに肩を貸して歩きながら、ワン麻呂さんへ電話を繋いだ。


 ・

 ・

 ・

 

 私がおじさんに肩を貸して歩き始めて直ぐ、前方から大慌てで走ってくる男性が二人。


「源さん! 大丈夫ですか?!」


 ワン麻呂さんと足柄さんの二人は、駆け寄ってくると直ぐにおじさんを支え、代わってくれた。


「何があったんですか?」


 訝しげに私の顔を見ながら聞いてくるワン麻呂さん。


「桃ちゃん! それよりも部屋に運んでアレを持たせるのが先!」


 隣で足柄さんが急いで運ぶようにと叫ぶ。アレと言うのが分からなかったが、男性二人で抱えてくれたので直ぐにビルへと辿り着いた。


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