激震2
「何だったんださっきの?」
本日の配信は急遽終了として、私たちはメールを確認する為に三階の部屋へと移動していた。
独特の起動音がするPCを立ち上げ、画面が出てくるのを待っていると、こんな遅い時間なのにインターホンが鳴る。
私が立ち上がってリビングのモニターを確認すると、そこには織姫さんが映っていた。
「こんばんは、夜分遅くに申し訳ありません。ですが、至急の要件でお伺いしました。入れて頂けませんか?」
私が何と返事をすれば良いか戸惑っていると。
「すぐに開けます、お待ちください」
足柄氏が出てきて、勝手にロックを解除する。
「えっ、桃ちゃん?」
「すまん、金ちゃん。今は源様が先だ」
そう言って、玄関に向かう足柄氏。
そして、少しして織姫さんを連れた足柄氏が戻ってきたが。
「そのPCに連絡が来ているのですね」
そう言って、一番にPCへ向かう織姫さん。
「え?! 何を?」
止めようとする私に、さっと手を出して私を止める足柄氏。
「ごめん金ちゃん。黙って見てて、説明は後でするから」
「桃ちゃん?」
「あー、すまんがさっきから金ちゃん、桃ちゃんとは誰の事じゃ?」
そこで、さっきから黙って見ていた浦島さんが聞いてきたのは……。
「ほおー、ワン麻呂殿の本当の名前は岡山桃太郎で、足柄殿は足柄金太郎であったか!?」
話が聞こえたのか、織姫さんの耳もピクリと反応する。
その時、織姫さんの持つスマホが振動し着信を知らせた。
「もしもし? ええ、ええ。分かったわ、ありがとう。あとはコレに送っておいて、お願いね」
電話を切ると、PCに向かっていた織姫さんが顔を上げて自分たちを見る。
「ちょっと興味深い話しも聞こえてきてたけれど。今はそれよりメールの件をお話ししましょう」
金ちゃんがお茶を入れて戻ってくると、全員が椅子に座って織姫さんが話し始めるのを待つ。
「えっと、私が話し始める前に。何故私が此処に来たのか、私が誰なのか、足柄さん。紹介して貰えるかしら」
私と浦島さんが驚いて金ちゃんの顔を見ると、金ちゃんも申し訳なさそうに頭を一回下げてから。
「此方にいる、源織姫さんですが。実は『NeuraNest』のCEOでいらっしゃいまして。我々ワン麻呂カンパニーの資金援助者。そして、このビルのオーナーでもいらっしゃる方です」
「『NeuraNest』!? それってリンゴの会社にも匹敵する、今一番成長しているITベンチャーの?!」
紹介されて、織姫さんが名刺を差し出してくる。肩書きにCEOと書かれた写真入り名刺。写っているのは、間違いなく織姫さんだ。
浦島さんは、さっぱり分からず何時もの笑顔で織姫さんを見ている。
「紹介が終わった所で、先ほどの配信に突然現れたメッセージの相手。仮にDとしましょうか」
ここで、浦島さんがスッと手を上げる。
「何かしら?、おじ……浦島さん」
「Dとは、何の事じゃ?」
浦島氏の質問に、柔らかな笑顔で微笑む織姫さん。
「このDは、ドクダミの頭文字のDね」
「ドクダミの頭文字のD……頭文字はド、じゃないのか?」
「ふふっ」
織姫さんの、思わずと言った感じで笑い声が漏れる。
「そうですね、それではこのメッセージの相手は仮に『ド』としましょう」
今度は浦島さんも納得したのか、うんと頷いている。
「このメッセージには。浦島太郎氏とある植物の取引に対して、独占の契約をする準備がある。可能ならば、直接お会いして契約を結びたい。とあります」
「ある植物の取引で契約?」
「先ほどの配信の中で『ド』はドクダミと言っていましたが、浦島さんは何か心当たりはありませんか?」
皆の顔が浦島さんに集まる。浦島さんは、ぐるりと皆の顔を見回して。
「儂が、山下公園で集めていたドクダミがあるが、それの事じゃろうか?」
「それ! 今もありますか?」
「ちょっと待ってておくれ」
そう言って立ち上がり、自分の部屋へと向かった浦島さん。
「これじゃ」
手にした紙袋から、カサカサになった何かの葉っぱらしき物を取り出して見せる。皆も手に取ってクルクル回したり手のひらに乗せてジッと見ていると。
「ドクダミの葉や茎を洗って乾燥させた物じゃな。儂が山下公園で暇をしている時に作っていた物じゃ。これを細かくすり潰して茶にして飲むんじゃよ」
乾燥させたドクダミをジッとみていた織姫さんが、スマホで何かを調べたと思うと。浦島さんに質問をする。
「コレにどんな効果があるのか、ご存知ですか?」
「そうじゃな、儂が知っているのは滋養と腹下し。あとは女子が好む、肌が若くなる。と言う事かのお」
ガタン!!
「それよ!!」
勢いよく椅子から立ち上がり、叫ぶ織姫さん。いや、でもドクダミですよ? 肌が若くなるとか、もうとっくの昔に研究とかされ尽くして……。
ふと、浦島さんを連れて城ヶ島へ行った時のことを思い出す。浦島さんが倒れた時に見たあの現象、浦島さんの肌が若くなり。光の粒に触れた桃ちゃんの指先の怪我が治っていた事。
「そのドクダミは、浦島さんが持っている分だけですか? 他の誰かに譲ったりとか?」
浦島さんは人差し指を立て、天井を見ながら何かを数えていたが。
「三人じゃな。だが、渡した先で誰が誰に渡したかまでは分からんぞ?」
「三人! それは、何処の誰か分かりますか?」
浦島さんは、少し考えてから。
「二人は分かる。が、もう一人は何処におるか分からんな、申し訳ない」
「浦島さんが謝る必要はありません。では、その二人の居場所を教えて頂けますか?」
「まず一人は……」
「では、浦島さんがドクダミ茶を渡した相手は。一人目が神奈川近代文学館の職員の女性で「中川あかね」さん。二人目は、フリス女学院高校の生徒さんで「あおい」さん。三人目は、たまたま山下公園で出会った女性で名前は分からない。小さな子供を連れていて、何度か山下公園で会った事はあると……」
「すまんな、儂がちゃんと名前を聞いておれば良かったのじゃが」
「いえ、大丈夫です。彼女の居場所と名前は此方で分かっていますから」
「「えっ!?」」
浦島さんが山下公園で会っただけで、名前も分からない女性なのに。何故織姫さんが知っているのですか? 思わず声に出しかけたけれど、ITのエキスパートからすれば、それも可能かも知れないと思い、声には出さなかった。




