激震
「本年もよろしくお願いします」
正月休みが終わり、気怠い気分で出社した私はPCの電源を入れた。社内専用のネットワークに繋がったシステムなので持ち出し厳禁、もし見つかったら厳重処分が待っている。
久しぶりに立ち上がったPCのメールを見ると。数通の業務連絡の中に、重要マークの付いたメールがあった。
「えっと、なになに?」
カチカチッ。
「!!」
顔色が悪くなった私をみて、新人ちゃんがPCの画面を覗き込む。
「えっ!? 新規バイオ研究開発部門の発足。総責任者が鬼島部長で、開発主任が先輩!? えっ? 先輩いつの間にこんな話しが来ていたんですか?」
「知らない……私だってこんな話聞いてない! 所長! 所長は知ってたんですか!?」
席に座っている所長の姿は、とても小さくなっていた。
「お正月に、プライベートのスマホに連絡が来てね。既に決定事項だからと、一方的に通告されて切られたよ」
私と新人ちゃんが顔を見合わせていると、研究室の扉がノックされてある人物が入ってきた。
「来てるじゃない、ほらさっさと来なさい。今からメンバーの顔合わせがあるんだから」
鬼島部長だ、部長はズカズカと室内に入ってくると。私の腕を掴んで引っ張り、外へと連れ出した。
「新人ちゃんごめん! 後で荷物取りに来るから!」
引っ張られるままに連れて行かれるのを嫌って、腕を振り解く。
「あら?」
「自分で歩けますから!」
そう言って、部長の前を歩き出す。
「どこの部屋だか分かるのかしら?」
歩き出した足を止め、ジッと部長が動き出すのを待つ私。
「ふん」
勝ち誇った顔で私を見て、悠々と歩き始める鬼島部長。
くやしー! 絶対成果なんて出すものか! あの人に迷惑はかけられないのよ!
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
どうもワン麻呂です。
今年は正月早々にも嬉しい出来事があり、さらに十日ほど過ぎたある日。ついに新しいスタジオからの初配信の日を迎えました。
「はーい!柿本one麻呂の
ワン麻呂チャンネルだワン! 今日は、遂に新しいスタジオからの初・配・信! どう? ワン麻呂もカッコよく映ってるかな?」
『あんたVtuberでしょ』『音は良い気がする!』『まさか!』『何々?』『マジか! 4K対応になってる!』
「リスナーの皆も分かったかな? ワン麻呂チャンネルは機材も一新! 4Kにも対応しましたー! 拍手!」
『88888888』『8888……』
「これからは。より高画質、高音声にて配信して行きます。リスナーの皆さんも、今後とも宜しくねー」
『もうキャラ忘れてる……』
「ワン!」
『ちょっと待って! と言う事は浦島氏のお顔がもっと綺麗に見られるの!?』
「あ、申し訳けないワン。今後はゲストも完全Vtuberキャラのみで登場となります」
『なんでよ!!』『いも子残念』『いも子』『いも子』
「それでは早速、今回のゲストにも登場して貰うワン! 浦島太郎さんですー、拍手」
『888888』『キャー!』『8888888』
「こんばんは、浦島太郎です。明けましておめでとう御座います」
『あふん』『イケボ』『声も4K』
今回の配信は、新機材のテストも兼ねていたので内容は薄く、リスナーとの雑談でほぼ進んでいました。それでもリスナーの反応を聞く限り、悪く無いと感じていたところ。
『こんばんは、突然割り込んでしまって申し訳ありません。こちらの浦島太郎さんと内密なお話しをさせて頂きたいのですが。お時間取って頂けないでしょうか?』
『何?』『誰?』『何々?』『私を置いて浦島氏と何を話そうと言うの!?』
突然、変なメッセージが入り込んできた。ワン麻呂チャンネルは限定では無いので誰でも見る事が出来る。が、今日のこのタイミングは告知期間が短く、ヘビーリスナー位しか入っていない。誰だろうか?
「儂と話がしたいのか?」
『浦島氏! 相手しちゃダメよ!』『ノー!』
『初めまして浦島太郎様。私は、今は名乗れませんが、決して浦島様に不利益になる話しをするつもりはありません。是非、私共と会って話しを聞いて頂きたいのです』
「何の話しじゃ?」
『詳しくは申せませんが、ドクダミ……とだけ』
『ドクダミ?』『ドクダミ……』
「どなたか存じませんが、勝手に話しを進めないで頂きたい。此処は我々の趣味の場で、営業の場では無いのですから」
『失礼致しました……では、ワン麻呂様の事務所宛のメールアドレスに連絡を入れさせて頂きますので、後ほどご確認下さい。では、良いお返事をお待ちしております』
そう言って、そのメッセージの主はログアウトしてしまった。
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
私が、今日のワン麻呂チャンネルを視聴していると、突然変なメッセージが入り込んできた。直ぐに手元のスマホを操作して電話を掛ける。
「もしもし! 今すぐこの書き込みのIPを辿って持ち主を特定して!」
何なのこの書き込みは! 何が内密に話しをしたいよ! ふざけんじゃないわよ!
こないだのあの女だって、おじさんて女たらしなの? 色々と考え事をしているうちに、メッセージの主がログアウトしてしまった。
「こうしちゃいられないわ」
私は、服を着替えながらフロントへ繋がる電話の受話器を上げる。
「もしもしフロント? 私だけど、いつものハイヤーを至急呼んでちょうだい!」
そして、スマホだけ持って一階へと降りて行った。




