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浦島太郎のリスタート、のんびり浦島さんの現代暮らし。  作者: カジキカジキ


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観覧者

「ほおおおおおー!」


 年末も押し迫り、いよいよ今年の終わりの挨拶が飛び交う頃。儂は、ワン麻呂殿に誘われていた引っ越しに同意し、今日は新しい住まいへとやって来ていた。


 一階は他所のお店が入っておるが、二階の半分と三階は全部ワン麻呂殿の住まいだと言う。ワン麻呂殿も貴族様だったのかのお、これだけ立派なビルに住まえる程とは。


「この部屋を浦島さんが使って下さい。リビングを挟んで反対側が僕と足柄の部屋になります。お風呂とトイレはコッチと、向こうにもあります。キッチンも一通り揃っていますし、掃除はハウスキーパーさんを頼む予定ですので簡単に整理だけされていれば、後は自由に使って貰って大丈夫です」


 儂のためにわざわざ畳を敷いてくれた部屋。が、寝床だけはベッドになっておる。儂も此処で生活を始めて、寝床だけは布団よりベッドの方が快適だと理解した。そして何より(かわや)はウォシュレットじゃ!


 ワン麻呂殿が壁に近寄り、ある一部に鍵を差し込むと。


 ガチャ!


 棚になっている一部分が開き、ある物が丁度入るような空間が生まれた。


「ここに玉手箱を入れられるようになっています」


 儂が手に持った玉手箱をその中に収めてみると、正にピッタリで驚いた。

 

「在室中も外に出る時も、いつも玉手箱はココに入れて保管出来ます。カギは浦島さんに渡す一つだけ、私たちも予備は持ちませんので絶対に無くさないようにして下さい」


 儂の大切な物を大事に思ってくれる心使い。嬉しいのお。


 今日は引っ越し祝いの祝宴を開くと言うので、いつもとは違う客人もやってくる事になっておった。その客は、配信で顔を合わせた事もある教授と、ワン麻呂殿や足柄殿が世話になっている人物だと言う。


「おいおい凄いじゃないか! 良くこんな所を借りれたな。あ、これお土産です。お引越しおめでとう」


 やって来て早々、教授は部屋中を見渡して歩き回った。ダイニングには中華街で買ってきた料理がズラッと並んでおる。


 ピンポーン!


 教授について部屋を歩き回っておると、入り口の呼び鈴が鳴った。


「あ、もう一人のゲストが到着したようですね」


 そう言ってワン麻呂殿と足柄殿が入り口へゲストを迎えに行ったんじゃが。暫く待っても二人が一向に帰ってこんので、教授と二人で入り口へと向かうと。


 玄関を開けて固まった二人と、入り口で戸惑って立っている赤いコートを着た客人の姿があった。


「おいおい二人とも何をしておるのじゃ。客人が困っておるではないか、早く中へ案内しなされや」


 声を掛けられた二人がハッとして、客人を中へと案内する。


 女性が赤いコートを脱ぐと、その中には白のシャツに黒いスカートとシンプルな装いながら目を惹かずには居られない輝きを纏っておった。二人が固まってしまっているのも仕方なかろう。現に、横にいた教授も固まって動かなくなっておるからの。


 儂か? 儂は大丈夫じゃ! 何せ乙姫の美貌に見慣れとるからの。乙姫の美しさと言うたら、それはそれは言葉では言い表せない。この世の者とは思えない美しさだったのじゃからな。


 それにしてもこの女性、何処かで会った事があるような……。


「あれ?」


「えっ!」


 皆が驚いた声を出したので気が付いたが、この女性と今の儂の服装が同じだったのじゃ。


 ・

 ・

 ・

 

 源織姫(みなもとのおりひめ)、彼女はそう皆に名乗った。


 暫くすると、皆も源殿(みなもとどの)の姿に慣れたのか。少しずつ話もしてワイワイと和やかな雰囲気になっておった。食事も終わり、リビングへと移動して各々がお酒や飲み物を飲みながら会話を楽しんでおる。


「そうだ皆さん! これから二階を見に行きませんか?」


 そんな時、ワン麻呂殿が皆に二階を見に行こうと呼びかけた。


「二階?」


「そう! 二階には何と! 新しい配信用のスタジオを作っている最中なのですよ!」


「おおー! それは凄いな」


「ほお、見てみたいものじゃな」


 ここで盛り上がっておるのは、主にワン麻呂殿と教授なのだが。儂も此処でお世話になる都合上、家主の意見には従っておかぬとな。


 ガチャリ!


 二階の半分を使ってリフォームしているスタジオへと皆が移動する。部屋のカギを開けて、中へと入ると。


 パチン、パッ! パッ! パッ!


 ワン麻呂殿が部屋の明かりを灯す。


「ほおー」


 一番手前の部屋は、打ち合わせが出来るテーブルが置かれた会議室兼客室。隣に給湯室があり、その奥からはスタジオとなっていた。


 配信用の機材スペースがある編集室に、窓ガラス越しの放送スタジオ。共に防音もバッチリでどんなに大声を出しても外には響かず、かつ外からの音も入らない。


 まだ機材が無いのでガランとしておるが、ここに色々と並べて配信するのだとワン麻呂殿がテンション高く話しておった。


 気分の良いワン麻呂殿の説明を聞きながら、儂らは部屋をグルリと見て回る。


 いつの間にか隣に源殿(みなもとどの)が来ておってドキリとしたが。彼女から漂う香りに、ふとある事を思い出したのじゃった。


◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆


 さすがに気付くわけ無いか……。


 あまりに素っ気ない態度のおじさんに、ちょっとガッカリしながら。新しいスタジオでウキウキ説明しているワン麻呂さんの話しを聞き流す。


「ごめんなさい、そろそろおいとまさせて頂きますね」


 時計を気にするフリをしながら、帰るというアピールをする。


「あっ! すみません話が長くなってしまって。ではそこまでお送りしましょう」


 そうワン麻呂さんが申し出てきた所を。


「あっ、では浦島さんにお願いしても宜しいかしら?」


 皆が驚いて浦島さんを見ている所を、私がそっと袖を引いてお願いする。


「では、浦島さん。源さんを下までお送りして貰えますか?」


 ワン麻呂さんも、本人の申し出を無碍には出来ず。浦島さんにお見送りをお願いしてくれた。


 玄関まではワン麻呂さんの他、皆さんから見送られて浦島さんと一緒に外のエレベーターへと乗り込む。扉が閉じ、エレベーターが動き出す。


「すみません」


 下から見上げるようにして、おじさんの顔を見ると。


 おじさんは、優しく私を見て微笑み。


「お主、竹取の翁じゃろ?」


「!!」


 思わず体が反応してしまう。


「やはり……理由は聞かぬが、あの時は助けてくれてありがとう。儂が今、こうして居られるのは、あの時、お主が手を差し伸べてくれたからじゃ。もし、放っておかれていたら、今頃何処かで冷たくなっておったじゃろう」


「そんな……」


「いや、お主の暖かい手のおかげじゃ」


 エレベーターが一階に止まり、私たちはエレベーターを降りる。


「また、顔を見せて貰えるかい?」


「気が向いたらね」


 お互い笑顔で頷くと。


 私は待たせてあったハイヤーに乗り、いつもの常宿へと帰った。


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