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浦島太郎のリスタート、のんびり浦島さんの現代暮らし。  作者: カジキカジキ


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研究者

「新人ちゃん。例のブツ、手に入れたわよ」


 翌日の朝、研究室のロッカーでそのやり取りは秘密裏に行われていた。


「手に入ったんですねっ! さすが先輩!」


「しっ、声が大きい」


「すみません。で、お幾らですか?」


「それがね、受け取って貰えなかったのよ」


「その人、これの凄さが分かっていないんですね」


「とにかく、今回も量は少ないから大切に飲んでね。それと、くれぐれも他の人に話さないで、特に化粧品部門の人にはバレないようにね」


 新人ちゃんは、チャッとオデコに揃えた指を当てると「了解です!」と言って、紙袋をバッグにしまい込んだ。


 その日、私はまた幸せな日々を過ごす事が出来ると夢見て仕事を済ませた。帰り道には新人ちゃんと謎の使命感にも似た運命を感じながら。

 

 しかし、その平穏は次の日に突然、破れ去るのでした。


「海山さん、少しお時間宜しいかしら?」


 次の日の朝。ご機嫌な気分で出勤した私の心は、一瞬で最悪な気分へと変わった。


 研究室の入り口前に立ち塞がる化粧品部門の所長、Ms.鬼島(おにしま)。その後ろで済まなさそうに小さくなっている新人ちゃん。


鬼島(おにしま)部長、何か?」


「要件は分かっている筈よ、ついて来なさい」


 さっさと歩き出そうとする鬼島部長。

 

「あ、でも所長に一言断ってから」


「既に話は付けてあります」


 そう言うと、着いてこいとばかりに顎をしゃくって歩き始めた。


 部長の後ろをついて行きながら、新人ちゃんと小声で話す。


「どう言う事よ? 絶対バレないように言ったでしょ?!」


「ごめんなさい。ポロッと同期の子に話してしまって……」


「なっ!? にしてもどうして化粧品部門にバレるのよ?」


「……なんです」


「何?」


「その子、化粧品部門の子なんです……」


「まったく……」


 私たちはそれ以上会話をせず、黙って鬼島部長の後をついて行った。


 化粧品部門のある新館ビル。ヒールの音が響かない絨毯の敷かれた廊下を歩き。ある部屋の前に辿り着くと躊躇(ちゅうちょ)なくドアを開き中に入ってゆく鬼島部長。


 ずんずんと入ってゆく部長に対し、私たちが外で戸惑っていると。それに気付いた鬼島部長が振り返って入室を促す。


「失礼……します」


 そっと室内を見回しながら、恐る恐る入ってゆく私と新人ちゃん。


 鬼島部長が室内にあるテーブルの前で止まり。そこに並んだ書類を手にして、私たちに見えるように上げると。


「これが何か、貴方たちは知っているわよね?」


 書類に並ぶ数値を見る。


「えっ? これって……」


 部長が手にしている書類は、数週間前に私たちが成分検査したドクダミの葉とドクダミ茶の結果リストだった。


「貴方たち生薬部門が検査した、ある植物の解析結果。確かに試験体AとBの数値に差は見られませんが、注釈に書いてあるメモが私にはどうしても気になったのです」


 注釈に書いてあったのは、患部に数分貼り付けただけで新生表皮まで再生する再生能力。お湯で抽出し飲用するだけで肌のハリと艶が大幅に改善が見られた。と言うメモというか走り書き程度のもの。確かに事実ではあるが、他人からすれば眉唾物の胡散臭い話し、化粧品や薬品にしては良くある宣伝文句とも思える内容だ。それを、気になったと言うだけで資料を持ち出し、私達の所まで訪れて来るだなんて。


「このメモの部分、貴方の知見よね?」


 グッと前に出て来られ、そのクールな瞳と迫力のある振る舞いで迫られると萎縮してしまい何も言えなくなる。それを黙秘と取られたのか分からないが、フッと笑って目の前から離れると。


「まあいいわ、現物で確認すれば良いのだから……」


 いつの間に入って来ていたのか。化粧品部門のスタッフが私達の横にいて、持っていたバッグを取り上げた。


「あ、ちょっと!」


「やめて下さい!」


 勝手にバッグを開けて、中を確認する化粧品部門のスタッフ。バッグの中からある物を見つけ出して鬼島部長へと差し出す。


「コレね」


 部長の手には、ティーパックに包まれたあのドクダミ茶。


「返して下さい!」


「酷い!」


 鬼島部長は満足そうに頷くと。


「貴方達、もう戻っていいわよ」


 そう言って、もう私達には興味無さそうにティーパックを眺めていた。


 私は、つっ立っているスタッフからバッグを奪い返し「この件は、所長を通して正式にクレーム入れさせて頂きますから」と言い飛ばして、回れ右して部屋を出た。


「あっ、先輩待って下さいよー」


 バタン!!


 ・

 ・

 ・


「ふふっ、ふふふふっ」


 ズカズカと歩いても足音のしない廊下を進んでいるが、思わず笑い声が漏れてしまう。


「先輩?」


 不思議そうに顔を眺めてくる新人ちゃん。


「鬼島部長、あれで本物と信用してくれるかしら」


 そう、私が奪われたティーパックのお茶は、その辺のドラッグストアでも売っているドクダミ茶を移し替えたもの。どれだけ解析しようが市販品と変わらないし、効果も同じだ。部長が自分で飲んで試したとしても結果は変わらないので、きっとそれで諦めてくれるだろう。


 と、言う話を新人ちゃんにすると。


 急に立ち止まり、真っ青な顔した新人ちゃん。


「私……私のドクダミ茶、先輩から貰ったお茶で……す」


 あーーーっ!


「お〜ま〜え〜は〜!」


 私は思わず新人ちゃんの頭をグリグリしてしまった。


「いたたた、先輩いたいですー」


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