玉手箱2
「はぁー、凄い話だったなあ」
配信が終わり、浦島さんは緊張と疲れからか直ぐに眠られてしまい、私と金城氏は二人で温泉に浸かっていました。
「話も凄かったですが、昼間の浦島さんの様子には驚かされましたね」
金城氏言っているのは、浦島さんと昼間に灯台まで歩きに行った帰り道。急に歩けなくなるほど疲れてしまい、クルマに乗った途端に気を失ってしまった時の事でしょう。
浦島さんは、気を失う直前に「玉手箱」と言って意識を手放し。私が玉手箱を浦島さんのお腹に乗せると、浦島さんは無意識でも玉手箱を大事そうにギュッと抱えていました。
最初は乙姫様から貰った大事な玉手箱ですものね、と思いましたが、暫くすると不思議な光景が目に飛び込んできたのです。
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「えっ! 桃ちゃん! これ、これ見て!」
「足柄氏ー、本名はダメだよ。っ!!」
助手席から浦島さんを寝かせた後ろの席を見ると。浦島さんが抱いている玉手箱から、小さな光の粒が漏れ出していました。ふわふわと漂う光の粒が浦島さんの体にくっ付くと、フッと吸い込まれるように消えていく光景が目に飛び込んできました。
その光景に目を奪われていると、それまで苦しそうにしていた浦島さんの顔が、少しずつ和らいでいるのが分かりました。
「何でしょうね?」
足柄氏が一粒だけ漂っている光の粒に、恐る恐る指先を伸ばして触れる。
フッと光の粒が吸い込まれて消えた跡をジッと見ている足柄氏。
「!」
「どうしました?」
急に驚いた顔になった足柄氏に声を掛ける。
「昨日、不注意で切ってしまった指先の怪我が無くなっているんです」
見せて貰った指先には、怪我らしき跡は見当たらず。
「違う指だったのでは?」
と、他の指も確認しましたが、やはり怪我の跡はありませんでした。
それからも不思議な光景が続いていましたが、暫くすると光の粒が減ってゆき、無くなったかと思うと浦島さんは静かな寝息で安心した顔で眠っていました。
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足柄氏と私は露天風呂に浸かって、満点の星空を眺めていました。最近はグッと冷え込んできているので、お湯の|温かさが心地よいですね。
「あれは……玉手箱なんですよね?」
足柄氏が聞いてくる、当然気になる部分でしょう。
「そうですね。浦島さんもそう呼んでいましたし……けれど、私たちが昔話で知っている玉手箱とは、ちょっと様子が違いましたよね」
足柄氏も頷いて。
「ですよね、蓋……は開けていませんが、年を取ってお爺さんになってしまう。と言うより、回復させていたと言うか」
「若返っていたのかも知れません……」
浦島さんが歩けなくなり、私が肩を貸した時です。肩に回した浦島さんの腕が細く、頼りない感じに思えて浦島さんの顔を見ると。あの年を感じさせない、見た人を魅了するお顔が、急に年を取っていたように見えたのです。
最初は慌てていたので見間違いかと思いましたが、クルマに戻り、倒したシートに寝かせた時も、明らかに年を感じさせるお顔になっていました。
それが……あの玉手箱から出た光の粒を吸収している間に、浦島さんのお顔も元に戻っていたのです。
「間違いなく、他に知られたら良くない気がしますね」
何ともなく呟いたこの言葉でしたが、足柄氏も真面目な顔で頷いて、お互いに顔を見合わせていたのでした。
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「いやぁ、楽しかった! ワン麻呂殿もでぃれくたー氏もありがとう!」
翌朝、目を覚ますと浦島さんもいつも通りの姿で起きてきて、三人で朝食を済ませると宿を後にしました。宿の女将さんや中居さん達に見送られて出発し、横浜までの帰路につきます。
窓の外を眺める浦島さんは、とても気分が良さそうです。
そして、私は昨晩考えた事を浦島さんに聞いてみる事にしました。
「浦島さん、最近は夜も冷えるようになってきているので、今のウィークリーマンションは引き払ってウチに来ませんか?」
そう。以前、出演交渉した際に泊まる場所を提案したところ、すぐに了解頂けたので夜はウィークリーマンションに泊まって頂いていたのですが、やっぱり不便ですしセキュリティにも難があります。特に昨日のアレを知ってしまったからには放置なんてしておけません。
「ワン麻呂殿の?」
不思議そうな顔をして見てくる浦島さん。
「そうです。昨日のように急に体調を崩されたりすると、誰も知っている人が居ないなんて不安でしょう? それでしたら。今度、私の事務所を引っ越す事になったのですよ。上は住居にもなっていますし、常に人が居る状況でもありますから。遠慮はしなくて大丈夫ですよ! 実は、彼……ディレクターの足柄氏も一緒に住む予定でいるのですが。昨日、彼とも話して同じ意見でしたので、どうか検討して貰えませんか?」
そこまで一気に話すと、私は言葉を切って運転に集中しました。後は、浦島さんが答えを出してくれるでしょう。




