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浦島太郎のリスタート、のんびり浦島さんの現代暮らし。  作者: カジキカジキ


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玉手箱

「う、う〜ん」


「あっ、気が付きましたか?!」


 目を開けると、すぐ目の前にワン麻呂殿の顔があった。よほど心配してくれていたのだろう、儂が目を覚ました事でホッとした顔をしてくれておる。


 スッと横から水を差し出してくれるでぃれくたー氏。ほんに気の付くお人じゃ。


 儂は、クルマの席を倒した所に横になっておったようじゃ。玉手箱はぎゅっと胸に抱いておった。うん、やはり玉手箱を抱いて寝るとスッキリするのぉ! 疲れが取れたぞ!


「さあワン麻呂殿! 次は何処へ行くのじゃ?」


 驚いた顔をして儂の顔を覗き込む二人。


「いやいや、今日はもう宿に向かいましょう! 無理は禁物です!」


 そう促されて、仕方なく宿へと向かうのじゃった。


◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆


 私たちは島から一旦戻り、三崎港側にある宿へと入りました。


 結構豪華な宿で、浦島さんは貴族の屋敷と勘違いしたり、出迎えた女将さんを「乙姫様?」と呼んで喜ばせたり? ホントは浦島さんは一人部屋でゆっくりと休んで欲しかったのですけれど、せっかくなので皆で過ごしたいと言われて、四人部屋へと変えて貰いました。シーズンでも無いので部屋は空いていたし、先ほどの「乙姫様」呼びで女将の機嫌も良かったのかも知れませんね。


 室内もとても豪華な和風を生かした佇まいで。内風呂もありますが、天然温泉が売りの屋上風呂が相当な自慢らしいく、女将が盛んに勧めてきました。なので、私たち三人は外風呂へと赴き、自慢のお湯を堪能させて貰いました。


「ふーっ、気持ちいいですねぇ」


 気持ちよさそうに風呂の縁に頭を乗せて、空を眺めている浦島さん。


「浦島さん、気分はどうですか? もう何ともありませんか?」


 私は昼間の事が気になって声を掛けてみたのですが、本人はケロッとした感じで「この後の晩飯が楽しみじゃのう」と言っていたので、あれは何だったのでしょう?


 お風呂を上がり、美味しい海の幸を堪能した後は……。


 今回の旅の本命、浦島さんと私の同時生配信です!


 ・

 ・

 ・


「はーい!柿本one麻呂(かきのもとのワンまろ)

 ワン麻呂チャンネルだワン! 今日はゲストと一緒にお送りするのだワン! まずはゲストを紹介する前に、今日の配信はいつもと違う場所からお送りしておりまして『えっ!? Vtuberに場所とか関係あるのか?』。やっぱりテンションは上がるでしょう! 温泉も気持ち良かったですし、何と言っても海の幸が美味しかった! と言う事で、今日は三浦半島の先の城ヶ島まで来ております。三浦と言えば北原白秋、白秋記念館にも行ってきました。そんな三浦の中でも一番を誇る旅館、海の宿(うみのや)からお送りする本日のワン麻呂チャンネルー、スタートです!」


 BGMが流れている間、昼間の映像の中に、私と浦島さんの姿がVtuberキャラ化して登場しているPVが流れている。


 私のマネージャー兼プロデューサー、足柄氏(あしがらし)の作品です。


「これが終わったら、浦島さんの話から始まりますからね」


 ジッと画面を見ている浦島さんに念のため再確認すると。

 

「はっ! ああそうじゃったの、何から話すかの?」


「今回は、竜宮城での暮らしを語って貰えたらと思っています。思い出すのが辛いとかありましたら無理にとは言いませんが、どうでしょうか?」


「まあ、乙姫との暮らしを想い出すのはちと胸が苦しくなるが、先ほどの女将を見て思い出した事もあるし、大丈夫じゃよ」


 横からスッと手が出てきて、五本の指が折り曲げられてゆく。PV明けまで、三、二、一、どうぞ!


「あ、あー、ごほん! 浦島太郎じゃ。リスナーの皆、今日はよろしゅうな」


 画面の中では、浦島太郎さんをデフォルメしたVtuberキャラが動いています。今まではリアルの姿で出演して貰っていましたが、浦島さんの容姿があまりにもアレなので、女性リスナーや一部界隈の方々からの反応が激しく、今回からVtuberキャラにさせて頂きました。


『御尊顔が?!』『キャラ作ったんか』『888888〜』『いも子残念』『ワン麻呂!浦島氏のキャラ外しなさいよ!』

 

 やはり一部リスナーの反応が激しいですね、まあこの程度は想定内です。問題はSNSの反応ですが、そちらも気にしなければ良いだけの事です。


「今日は、浦島太郎さんが十四年過ごしたと言う竜宮城での生活について話して頂きたいと思っております。まず浦島さん、竜宮城では具体的にどんな事をしていたのですか?」


 ふっ、と浦島さんは竜宮城での生活を思い出しているのか、遠い目をして語り始めました。


「初めて竜宮城に到着した日から暫くは、その豪華な建物と、タイやヒラメが煌びやかに舞い踊る姿に目を奪われたものじゃった。料理もとても美味しくての、数日は持て成されて過ごしたのじゃ」


『まさに昔話の通り』『わくわく』『いいお声』


「それから何日も過ごした後、さすがにタイやヒラメの舞い踊りにも少しばかり飽きてきた頃に、乙姫から何かしたい事が無いのかと聞かれての。儂は歌や物語が好きで、何か聞かせてくれないかとお願いしたのじゃ」


「それからじゃった。二人で歌を詠い合ったり、歌について語り合って過ごし、何とも幸せな時を過ごしたのじゃ」


 乙姫さんと過ごした時間を思い出したのか、浦島さんの目には薄らと光るものが見えます。


「そう言えば、竜宮城の中で月日の流れとかはどうやって知ったのですか?」


 私は、乙姫さんとの思い出から少し話題を変えようと話を振ってみたのですが。


「竜宮城の中では、季節と言うのが分からなくての。それでは風情が無いと言う事で、季節の間と言うのがあって春・夏・秋・冬と季節が分かる飾りがされた部屋があったのじゃ。それと、年の明けた正月には特別な料理と、なにやら団子を一つ食べさせて貰ったな。あの団子が甘くて美味しゅうて、ある年にもう一つと言うてみた事があるのじゃが「これは年毎に一つと決まっております」と言われて断られた事があったな」


「その様な風習があって季節を理解していたのですね。十四年の間はずっとお二人だったのですか?」


「竜宮城の中には、様々な海の中の生き物が一緒に住んでおったよ。ただ、人の姿をしているのは乙姫だけじゃったな」


「その海の中の生き物はどんな姿をしていたのですか?」


「なんと説明したらよいか。体つきは元の魚や蛸や蟹の姿なのだが、手足が付いて歩くし、食事を持って運んだりしておったぞ」


『マーマン?』『マーマンは下半身魚だろ』『どちらかと言うとディープワンズ?』『?』『ググってみ』


 配信を見ているリスナーさん達が、竜宮城の住人の姿にワイワイ言っていると。浦島さんから爆弾発言が投げ込まれました。


「それから、時には客人が来る事もあってだな。その様な時には何日にも渡って語り合ったものじゃ」


「えっ!? 竜宮城に別の人も来ていたのですか?」


「そうじゃ、そう言えばワン麻呂殿に似た名前の御仁も来た事があったぞ。確か柿本人麻呂と言うておったか?」


『ガタン!』『マジで?』『詳しく』

 

「それは! 前回、教授に来て頂いた時にも言っていた仮説が正しいと言う事ですか?!」


「教授? ああ! 【昔話の浦島太郎】を聞かせてくれた御仁か! 確かにそんな事を言うておうたな。じゃが、あの時は儂には難しくてよく分からなかんだ」


「その柿本人麻呂以外では、どなたと話されたりしたのですか!?」


 浦島さんは、また昔の記憶を思い出すように遠くを見る感じで腕を組んで。

 

「額田王、山上憶良、大伴旅人、大伴家持との話は楽しかったのお」


『キター!』『萬葉の有名どころばかり』『羨まし過ぎる』『イケボ』


 万葉集の要とも言える人々と直接会って話せていたなんて……羨まし過ぎる。それぞれの人達は数日から十日程で帰って行ったそうですが、それでも教授の仮説的に言うと、地上では二、三年は過ぎている筈なので立派に神隠しと騒がれていた事でしょう。


 そんな機会もあって、浦島さんは万葉集への理解を深め、歌の世界へどっぷりとハマって行ったと言う事でした。


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