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黒水晶は紅(くれない)の涙を流す 15

77


 クレイトンとの聴取を終えて部屋を出たレトは、廊下で立ち止まり、次はどこを訪ねるか思案していた。

 本来、事件が起これば、関係者を一堂に集め、順に事情聴取などするものだが、こうした『当たり前』ができる状況にない。

 起こったのが殺人事件なのだから、捜査にもっと協力を得たいところだが、誰もが忙しいなかにある。それもただの忙しいではない。命に関わる、かなり切迫したものだ。この状況がレトの捜査をやりにくいものにしている。


……もっと冷静になるべきだった。手順、段取り、すべてめちゃくちゃにやって、自分の首を絞めてしまっている……。


 反省すべきところはわかっているが、後悔先に立たずだ。レトは心のなかでため息をついた。


……僕はドニーの死に動揺していたのか? 当たり前の手順が抜け落ちてしまうほどに……。


 認めたくはないが、今朝からのレトの行動は冷静な対応ができていなかった。だからこそ、メルルを怒らせるような『愚行』もしてしまったのだ。


……この失点を取り戻し、自ら招いたまずい状況を覆すことができるか……。

 レトは胸のあたりを抑えながら思った。自分は下手を打った。認めよう。そして、そこからどう行動するかだ。事情聴取を進めることで多少は取り戻したが、関係者すべてに聞き出してようやく、自分本来の立ち位置に戻れるのだ。まだ道は険しい。


 ごとごとと音が聞こえて、レトは音のしたほうへ顔を向けた。そこには、鎧で武装した兵士たちが歩いてくるところだった。


……あれは村で見た……。

 先ほどクルトが村人たちと対話していたとき、村人の周囲を警戒して守っていた男たちだ。

 レトは兵士たちの前に進み出た。


 「何だ?」

 先頭を歩く兵士がにらむような目つきでレトを見下ろした。兜で顔が半分しか見えないが、レトのことを邪魔としか思っていないことがありありと伝わる。


 「すみません、お邪魔して。僕はメリヴェール王立探偵事務所のレト・カーペンターと申します。

 昨夜起きたドニー・メンデス氏殺害事件の捜査を行なっているところです。

 皆さんは西の山へ村人の護衛に行かれるところなのですね?」


 「そうだ。クルト隊長も向かうところだ。

 急に決まったんでな。そこの詰め所にいるクレイトンに事情を説明するために寄ったんだ。何かおかしいか?」


 レトは首を振った。「いいえ。ですが、皆さんが城を出る前に、ほんの少しだけお時間をいただきたいのです。事件が事件です。ご協力お願いできませんか?」


 「協力?」


 「事件当時のことをお聞きしたいのです」


 兵士の陰からひとり顔をのぞかせた。眼鏡がきらりと光っている。

 「今朝の探偵さんですね? まだ何か?」

 オーガスタスだった。


 「いえ、今朝、お話しをいただいた方はかまわないのですが、まだ事情をお聞きできていない方がおられるんです。こちらのお二方とか」

 レトは目の前に立っているふたりの男を順に目をやった。


 「マイロとモートンですか。

 なるほど、ふたりは今朝、馬の当番で早くから部屋にいなかったはずですからね」

 オーガスタスは納得したようにうなずく。

 「じゃあ、俺はいいんだな?」

 オーガスタスの背後から新しい顔がのぞいた。兜と面あてでわかりづらくなっているがエイモスに違いない。面あてのはしから若々しい口ひげがのぞいている。

 「俺も今朝、あんたに証言したからな」


 レトはうなずいた。「ええ」


 エイモスはレトの正面に立っている男に近づくと、その肩を叩いた。

 「クレイトンへの報告は俺とオーガスタスでしておく。その間に、お前はマイロとふたりで、この探偵の相手をしてやりなよ。一応、レイさんが許可してるんだ。協力してやろうぜ」


 「レイさんが許可を……?」

 男は兜をかきながらつぶやいた。頭をかいているつもりらしい。「仕方ないか。じゃあ、報告の件は任せる」


 エイモスとオーガスタスのふたりが詰め所の部屋へ入ると、その場にはふたりの男が残った。このふたりがモートンとマイロなのだろう。


 「で、何が聞きたい? ちなみに、俺はモートンだ。隣に立ってるのはマイロ」

 モートンは同僚を指さしながら尋ねた。大柄で目つきの鋭い男だ。一方、隣のマイロは面あてで表情がわかりにくいものの、柔和な印象を受ける。


 「皆さんに事件当夜の行動をお聞きしているんです。

 おふたりは昨夜11時ころはどうされていましたか?」

 レトの質問にふたりは互いを見合わせた。


 「寝てた」視線を戻したモートンの答えは短かった。


 「何時ごろ就寝されたのですか?」


 「9時だ。ふたりとも。馬の当番だからな」


 「馬を世話する当番って何時からなのです?」


 「4時だ。だから、だいたい3時半には起きている」


 「馬の世話って、具体的に何をされているんですか?」

 「具体的にって……、特に珍しいことはしてねぇな。

 馬の様子を見て、寝ワラの掃除や入れ替え、ボロの後始末とかだな。

 水をやって、飼いつけをやって、それから馬の身体をほぐすために厩舎から出して裏庭をぐるぐる歩かせてやったりするんだよ。寒くなってきたからな。これを丁寧にやらないと、馬ってやつはすぐ走れなくなっちまう。頑丈だが繊細なんだ」

 「それを毎朝ですか?」

 「当たり前だ。馬は生き物なんだぜ。植物みたいに二三日ほっといても大丈夫ってもんじゃない。まぁ、こっちも毎日は大変だから当番を決めて交代でやってるわけだが」


 なるほど。レトは大きくうなずいた。

 「ところで、部屋から厩舎へ向かうのはどこを通るのですか?」


 「俺たちは西の棟に移ってから、そこの階段を降りて厩舎に行っている。

 もし、兵舎棟の階段を降りたら呪術師の遺体を見つけてたのは俺たちかもしれないがな」

 レトの質問の意図を見抜いたらしい。モートンは細かく答えた。


 「兵舎棟の階段から厩舎へ行くには、一度逆方向に回らないといけない。西の棟から行くのが早い」

 これまで無言だったマイロが口を挟んだ。モートンの説明を補足するものだが簡潔な言葉だ。


 「そうですか。では、おふたりは事件のことを知るまでずっと裏庭におられたのですか?」


 ふたたびふたりは互いを見やるとうなずいた。ふたりはレトに視線を戻すと、

 「そうだな。6時ぐらいまではそこにいた。馬を厩舎に戻して食堂へ行ったら、そこで呪術師が死んだって話を聞かされた」

 今度はマイロが答えた。

 「話していたのは?」

 「トーマスだ。

 トーマスはシャーリーに聞かされたそうだ。朝めしの準備で裏の水道に行ったところでシャーリーがうずくまっていたんだと。

 気分でも悪くしたのか声をかけたら、呪術師の遺体を見つけたって話をしたそうだ」

 「シャーリーはなぜそこに?」

 「水を飲んで気持ちを落ち着かせてたそうだ。

 そりゃ、シャーリーでなくても驚くわな。城内の、しかも、けっこう奥まったところで遺体と出くわすなんて予想もできないからな」

 マイロの言い方だと、奥まったところでなかったら驚かないというように聞こえる。

 「城内で死人が出れば誰だって驚くでしょう」

 「たしかに。でも、ここは魔の森のすぐそばにある城なんだぜ。

 魔族の襲撃は想定されるところだし、ひとが殺されるのは2年前にさんざん見ている。

 意外ってことはないんだよなぁ」

 マイロの表情に陰りや憂いは見られず、何か悟ったような達観した様子が見られた。これが、彼に対して柔和な印象を抱いた理由だろうか。レトはマイロの顔を見つめながら思った。


 「誰だって、お前ほど達観はできねぇさ。シャーリーはけっきょくリュックひとつで逃げ出したわけだし」

 モートンはマイロの肩を叩きながら言ったが、レトはその言葉が引っかかった。

 「モートンさん。あなたは城を抜け出すシャーリーを見たのですか?」

 モートンはゆっくりとうなずいた。

 「食堂に向かう前さ。馬を裏庭から厩舎へ帰すときに、シャーリーが眼の前を通ったんだ。リュックなんて背負っているから変だと思ってね。声をかけたら、『お世話になりました。今日で辞めます』って頭を下げたよ」

 「シャーリーはあなたがたの目の前を通って城を出たのですか?」

 「そうさ。急いでいるようだったがコソコソしているわけでもなかったな。

 なにせ、駅馬車の朝の時間をマイロに聞いてたぐらいだからな」

 「シャーリーがマイロさんに声をかけていた……」

 「で、時間を聞くと、一刻もゆっくりしていられないって早足で出て行ったんだ。

 あの時点では事件のことを聞いてなかったから、単に城勤めが嫌になって出て行ったとしか思わなかった。だから、特に止めることもしなかった。事件のことを聞いて、ちょっとマズかったかと思ったが、探偵さん、シャーリーが犯人ってことはないだろ?

 あんな痩せっぽちの女の子に、大人の男を殺せるわけがねぇ。違うか?」

 殺人を犯して逃げるとすれば、シャーリーの行動は大胆過ぎる。誰にも気づかれずに城を抜け出したければ、マイロやモートンたちが裏庭から去るのを待てばいい。ふたりがいなくなれば、悠々と城から出て行けるはずだ。わざわざふたりに見られることをしなくていい。


 「安易に結論するわけにはいきません。

 ですが、さきほどの証言は非常に参考になりました。

 どうもありがとうございます」

 レトが頭を下げると、ちょうどエイモスたちが部屋から出てきた。


 「話は通しておいたぜ」

 エイモスがうなずいてみせると、モートンもエイモスにうなずき返した。

 「よし、じゃあ行くか」

 4人の男たちはガチャガチャ甲冑の音を鳴らしながら歩き出した。レトはその背中に声をかけた。

 「西の山へ行くのは皆さんとヒューズ隊長の5人までですか?

 同室の方たちは?」


 「ゲハンは熱を出してますからね。今日一日安静です。

 私の相棒も頭痛で寝込みましたが、あっちは少し休めばすぐ起きられるでしょう。

 ま、城を手薄にするわけにいきませんから、彼は城の守備に就いてもらいます。

 村の方がたは我々で守ってみせますよ!」

 オーガスタスがレトに手を振りながら、元気な声で答えた。それから、いかにも昂っている気持ちを抑えられないようにのっしのっしと力強く歩き去っていく。


 レトは4人が見えなくなるまで見送った。



78


 「入れ……、ってまたあんたか、探偵さん。今度は何だ?」

 部屋に入ってきたレトの姿を見て、クレイトンが呆れた声をあげた。


 「すみません。ひとつお聞きしたいことがありまして」

 「前書きはいい。用件は?」


 「あと数名、事情をお聞きしたい方がいまして。ドノヴァンさん、ランスさん、ディエゴさんに話をお聞きしたいのですが、皆さんは今どこにおられるかご存知ですか?」


 「ドノヴァン、ランス、ディエゴ、か……。ドノヴァンとランスは知らないが、ディエゴなら知ってる。あいつなら教会だよ。

 呪術師の遺体を安置室に運ばせたからな。ガッデスさんと一緒に遺体を清めて荼毘にする準備を進めているはずだぜ」

 「荼毘……。今日行なうのですか?」

 「ま、準備が整い次第ってとこだが。わかるだろ? 教会には屍霊化グールかを抑える術式が施されているが万全じゃねぇってこと。

 いつ屍霊化するかわからんものを、いつまでもそのままにはできねぇよ。

 ただ、結果は出さなかったが姫様のために命を落としたんだ。

 オブライエン候からも丁重に神の御許へお送りするよう言いつかっている。

 ゴミを焼却するみたいにさっさと片づけたりはしないさ」


 「そうですか。ありがとうございます」

 レトは礼を言うと部屋から出た。


 城内に建てられた教会へ向かうには、一度正門のあるあたりまで進まなければならない。

 おそらく、城だけでなく村人にも訪れてもらえるよう正門の近くに設計されたのだ。レトは中庭を通って、門のあたりへと歩を進めた。正門は格子扉が降ろされており、門の前には誰の姿も見えなかった。レトが門の上に視線を向けると、門衛であるアッシュとペインが門の上で槍を手に立っているのが見えた。城はすでに警戒態勢の状態だ。


 ライラプスの動きが怪しくなっているのだから、この対応は当然で自然だ。レトは視線を外すと、門の前を通り過ぎた。


 教会は非常に小さいものだった。レトは故郷の古教会を連想しながら扉を開いた。

 教会のなかは、外で受けた印象に違わず狭いものだった。礼拝者が座れる席は十数人分ほどか。それもゆったり座れるような広さがない。説教台までもが身を縮めているような印象だ。


 レトは教会内を見渡したが誰の姿もない。奥に小さな扉があり、レトはそこだと見当をつけてその扉に向かった。


 扉をノックすると、「どうぞ」の声があり、入ってみればそこに執事服に身を包んだガッデスと、軽装の兵隊服姿の若い男がいた。ふたりはドニーが横たわった台の周りに立っていた。


 「メンデス氏の身を清めていただいていたとか。クレイトンさんからお聞きしました」

 レトがガッデスに向かって言うと、ガッデスは「そうでしたか」と返した。


 「外がずいぶん騒がしい状態になっています。

 こういうことは教会にお勤めされている方がたにお任せしたいのですが、あいにく、ここは無人の教会でして。

 神父様をお呼びするにも日数がかかるので、簡単な葬儀だけ行ない、火葬しているのです。今回は私たちで急ぎ執り行うつもりです」


 「メンデス氏の親族への連絡は?」

 レトはドニーに目をやりながら尋ねた。仰向けに寝かされたドニーは、まるで眠っているような穏やかな死顔だった。清潔な白い装束に着替えさせられており、顔は倒れていたときについていた血がきれいに拭き取られている。


 「すぐは難しいですな。ですが、身の回りのものはすべてお返しできるようまとめてございます」

 ガッデスは台に置かれた木箱を示した。

 「ご遺族の方のお問い合わせがあれば、すぐにお返しできるよう整えています」


 「そうですか」

 レトは若者に視線を移した。「あなたはディエゴさんですか?」


 若者は金髪でそばかすがうっすら浮かんでいた。顔つきの若々しさから十代ではないかと思われた。

 レトに話しかけられた若者は戸惑った表情を浮かべながらうなずいた。「ええ、私がディエゴです」


 レトも名乗り、事件の捜査を行なっていることを伝えると、ディエゴはますます困惑した表情になった。

 「で、私に何をお尋ねしたいと?」


 「昨夜11時からの行動を教えていただきたいのです」


 「昨夜11時……。その時間ならもう寝ていましたね。昨日は一日中ライラプスを追い回していましたからとても疲れて……」

 「朝まで起きることもなく?」

 「ええ」

 「同室者はドノヴァンさんですね? ドノヴァンさんも?」


 「ええ。先輩は10時には床に就いてました。

 明日……、つまり今日のことですが討ち漏らしたライラプスを仕留めるために早く休むんだと言って……」

 「討ち漏らしたライラプスを仕留めるのに、早く休む必要があるのですか?」

 「私もそうですが、今朝の先駆けを志願していたんです。

 今朝の事件がなければ、私たちは7時には城を出るつもりだったんです」

 「そうでしたか……」

 レトは今朝、ドノヴァンやディエゴが不在だった理由がわかった。


 「でも、先輩と厩舎に向かおうと廊下を歩いていたら、若い女中が走ってきて誰かが死んでるって蒼い顔して騒いで……。

 それで1階の廊下まで降りて、このひとを見つけたんです」

 ディエゴはドニーにちらりと視線を向けた。


 「私は先輩の指示でブルースさんの部屋へ行き、事態を報告し、もう一度現場に戻りました。そのとき、女中の具合が悪そうだったので、私が医務室まで連れて行って、胃薬を飲ませました。胃液がおかしな状態になっているようだったので。おそらく、恐怖心にとらわれて体調がすぐれなくなったのでしょう」


 ディエゴの説明は簡潔で明快だった。おかげで今朝の状況がだいぶわかってきた。


 「遺体のそばにはドノヴァンさんがひとりだけついていたのですか?」

 「いいえ。ホプトとネッドもいました。あの女中は、中庭で当番をしていたふたりに報せたあと、ネッドに言われて応援を呼ぶために私たちのもとへ走ってきたのです」


 「遺体には誰も近づいた形跡はありませんでした。

 ドニーの死亡を誰も確かめなかったのですか?」


 「あのとき、先輩がこのひとに近づいて死んでいるか確認しようとしました。ですが、そこへガッデスさんがやって来て、触らないほうがいいとおっしゃいました。このことは専門の方に調べてもらうべきだと。そこで私がメルルさんへ報せに走ったんです」

 レトはケガ人だと聞いていたのだろう。レトが今朝、ディエゴに会わなかったのは、彼が遠慮していたせいだったのだ。

 「そのあと、あなたは?」

 「メルルさんへ報せるほかに、オブライエン候にも報告いたしました。

 そのとき、オブライエン候に長時間問い詰められて身動きできませんでした」

 「なるほどですね」

 レトはガッデスに顔を向けた。

 「ドノヴァンさんに忠告されたというのは本当ですか?」

 ガッデスは恭しく頭を下げた。「事実にございます」

 「現場を触らないほうがいいという判断はどこから?」

 「これという理由はございません。

 ただ、この城には事件捜査を専門にされている方がおられる。その方がたに調べていただくのが上策だと考えたまででございます」

 ガッデスはそう答えたが、そのおかげで現場の保存状況がよく、レトの調査もはかどった。ガッデスの功績と言えるだろう。


 「ありがとうございました。ガッデスさんの判断のおかげで捜査がやりやすくなりました」

 レトは素直に頭を下げた。

 「ついでと言っては何ですが、ガッデスさんにも昨夜の行動についてお聞きしても?」


 「かまいません。私は昨夜、お嬢様の隣の部屋で控えておりました。ロッタと交代でお嬢様のお身体に急なことがあった場合に備えておりました」


 「昨夜はずっとその部屋に?」


 「ええ。0時にロッタが来まして、私と交代しました。私の部屋はお嬢様のお部屋がある東棟の1階にございます。

 私は自室に戻ると、朝4時までお休みをいただき、また、4時からロッタと交代したのです」


 レトはすばやくフロレッタの部屋からガッデスの部屋がある1階までの道筋を頭のなかで描いた。3階と2階で別々の階段を使用しなければならないが、ドニーの倒れていた1階の廊下を通ることはない。

 「ところで、そのロッタさんは今どこに?」


 「彼女は今朝7時よりお嬢様のそばについています。

 本日は『あのこと』でお嬢様が体調を崩されていますので、本日はずっとつきっきりでございます」

 フロレッタが正門に現れたとき、ロッタもそばにいたことをレトは思い出した。

 「そうでしたね」


 ロッタの住まいは中庭のはずれにある小屋だ。夫である庭師ガルドと暮らしているとのことだった。フロレッタの部屋へ向かうには、中庭を通り、中庭の番をしているホプトとネッドの前を通って城へ入り……、

……兵舎棟とは逆の道に進んで階段を昇ることになる。

 事件現場の近くを通ることはない。レトはそう考えた。


 「ありがとうございます。参考になりました」

 「お役に立てば幸いにございます」

 ガッデスはふたたび恭しく頭を下げる。


 「ところで、ランスさんがどちらにおられるか、おふたりはご存知ないですか?」

 レトの質問に、ガッデスは首を横に振った。「あいにく、存じ上げません」


 「ランスさんなら、ひょっとしたら……」

 ディエゴは腕を組みながら天井を見上げた。「教練室かも」


 「教練室、ですか?」


 「ランスさんは練習の鬼みたいなところがあって、時間があればずっと槍の稽古をしてるんです。今日は見回りが中止になったから、警備の任務に就いてなければ教練室にこもっているかもしれませんね」

 騎馬隊は本来、領内を馬で巡回しているはずだったが、今朝の事件とライラプスの動きによる城への警備のため巡回を中止していた。クルトがアーネストに反抗して部下数名を連れて城を出てしまっているが、ほかの者はそれぞれ城の警備に就いていると思っていた。しかし、クルトの離反は、城内の指揮系統に狂いをもたらしているかもしれない。


 「ヒューズ隊長からは何も指示されていないのですか?」


 「もちろん、巡回担当の者は警備任務に就くよう言われています。

 ですが、ランスさんは今日、非番ですからね」

 「そうですか」

 しかし、朝からランスの姿は見ていない。早朝からすでに稽古を始めていたのか?

 いや、今朝、兵舎棟で証言を集めていたとき、レトはメルルと教練室の前まで行っていたが、そこにひとの気配はなかった。そのとき、教練室には誰もいなかったのだ。だが、今はどうか?


 「わかりました。教えていただいた通り、僕は教練室に行ってみます。

 ご協力ありがとうございました」

 レトは頭を下げると、

 「ところで、ドニーの葬儀はいつ行なう予定ですか?

 できればメルルも同席させてあげたいのですが」

 ふと尋ねてみた。


 「お嬢様もそのように申されてまして、体調が回復されれば今夜にでもと考えております。もちろん、メルル様の同席がかなうようにいたします」

 「ありがとうございます。

 フロレッタさんのご容態は?」


 「苦しそうにされていますが、臥せってしまうほどではございません。

 たしかとは申せませんが、今夜には城内を歩けるぐらいには回復されると思います」

 ガッデスはそう答えたが、おそらく似たような状態になったことがあったのだろう。ガッデスが確信しているような口ぶりにレトはそう感じた。


 「そうですか。では、改めて失礼いたします」

 レトは頭を下げると部屋を出て行った。去っていくレトの背中に向かって、ガッデスは恭しく頭を下げた。



79


 教練室まで戻ってみると、今朝とは違って室内にひとの気配があった。

 キュッ、キュッ、と床をこすれる音が聞こえ、時おりズン、と何かが当たる音も聞こえる。


 レトはノックすると扉を開いた。

 室内には長身の若者がひとり、槍を手に的と対峙していた。ディエゴが推測したように、この若者がランスなのだろう。

 若者は額に汗の浮かんだ顔をレトに向けた。澄んだ青い瞳だ。


 レトが名乗ると、若者も「ランスだ」と短く名乗った。


 「今日はずっとここで練習を?」

 レトが尋ねると、ランスは槍をくるくる回しながら、

 「ずっとってわけじゃないさ」

 と答えた。

 「今日は非番だが、じっとしてられない性質たちでね。

 朝食のあとは城の屋上で走り込みをしていたのさ。城の屋上はぐるりと周回できるんでね。雨や雪が降らなきゃ、そこで走っている。

 槍の訓練は昼からだ」


 午前中に鐘楼の塔を訪れている。その窓からあたりをうかがえば走っているランスを見つけられたかもしれなかった。


 「そうでしたか。

 ところで、いつもどんな訓練をされているのですか?」

 レトは的に目を向けながら尋ねた。的は藁の束の丸い断面に、同心円の的が描かれた布がかぶせられたものだ。ランスにめった刺しにされて、布はすでにズタズタにされている。


 「簡単に言えば、カンを鈍らせない訓練だ。

 槍ってのは意外と重くて扱いが難しんだ。離れた位置から敵を攻撃できる利点はあるが、これをうまく操るには日ごろの鍛錬は不可欠なんだよ」

 ランスは槍を構えると、ヒュッと音を立てて宙に繰り出した。槍はまっすぐに伸び、ぴたりと止まる。

 「槍の重さに振り回されると、この一撃が決まらないんだ。的になかなか当たらないんだ。傍からじゃ、棒をまっすぐ伸ばすだけと思うだろうがな」

 「いいえ。僕は先の戦争で戦っていましたが、槍がうまく扱えず、もっぱら剣だけで戦っていましたから」

 「あんた、討伐戦争の従軍者か。

 じゃあ、わかるよな。この程度の間合いでも、槍先が正確に的を射貫くことの難しさが」

 ランスは3メルテ先の的を槍で刺しながら言った。レトはゆっくりとうなずく。「ええ」


 「的を正確に射貫くには、槍がブレないようしっかり持つための腕力、筋力が必要だが、それだけじゃ足りない。どうしても勘ってものが必要になる。まぐれ当たりなんて戦場で期待するのは早死にするだけだ。

 俺たちは、勘ってものを日々磨いているのさ。『まぐれ』なんてものに頼らず済むようにな」

 ランスはそう言いながら、数歩斜めに歩いて槍を構えた。的を正面ではなく斜めから狙う位置だ。


 「ふんっ!」

 ランスが槍を突き出すと、槍先は正確に的の中心を貫いた。

 「魔獣も人間と同じように急所ってのがあるが、それはこの的の中心のように小さく、狭い。一撃必殺を狙うには、やつらの急所を正確に狙える技術は必須なのさ」

 ランスは槍を抜きながら説明した。槍が的から抜けると、何本かの藁が床にはらはらと落ちた。


 「ライラプスの急所はどこですか?」

 「ほかの生き物と変わらねぇよ。喉と心臓、それに肺さ。頭は固い頭蓋骨で守られているから、槍では倒しにくい。貫通しないんだよ、頭は。頭に当たっても、槍先が頭蓋骨の丸い部分で流されてしまうからな。まぁ、どの生き物も脳をやられちゃおしまいだから、何よりもガードが固くて当然なんだが。

 その点、心臓、肺はあばら骨で守られているといってもすき間がある。そこを正確に貫けば一撃で倒せるってわけだ」

 「なるほど」

 「ライラプスはでかいからな。力も強い。一撃目で倒せなかったらじゃあ次ってなかなかいかない。下手すりゃ反撃の一撃目でこっちがやられちまう。一撃必殺は生き残るために必要なことなのさ」

 「そうですね……」

 レトはふたたび的に目を向けながらつぶやいた。思っていたより、槍は技術がいる。レトはランスに背を向けると尋ねた。


 「もし、あなたが僕を背後から狙う場合、どこを狙いますか?」


 ランスは目を丸くした。「俺が、あんたを?」


 「たとえばの話です」


 「たとえばって……、そうだなぁ……。一撃必殺を狙うなら、左脇下部ってところか」

 「理由は?」

 「頭部はさっき言ったように案外狙いにくいんだ。首は的が細く、前後左右に動くから勝手にいなされることもある。だから、そこも狙わない。

 心臓や肺は、背後からだと肩甲骨が邪魔だ。もともと、背後からの攻撃を防ぐものでもあるからな。

 狙いやすく、かつ、致命傷を負わせられるのは、すい臓、脾臓、その他もろもろの重要臓器を抱えた腹になる。特に下腹部左側はそれらが集中しているからな。俺はそこを狙う」


 「狙いやすいということは、多少槍が扱えれば、誰でも狙えますか?」


 「言うはやすしって言葉があるだろ?

 臓器が集中しているところって、この的の中心点、つまり図星と同じぐらいの大きさしかない。そこを正確に狙えるかってことなら難しいぜ、実際。

 槍って、しなるからよ。しなりを抑えて一気に突き出さなければ正確に貫けられない。身体に当てるだけなら今日明日に覚えた素人でもできるだろうが、その一点を狙うとなれば話は別だ」

 「偶然、そこを貫けるってことはないですか?」

 「偶然だの、可能性だのって話になれば、誰だってできるさ。ただ、それこそ10回に1回、百回に1回とか数やらなきゃ当たらんと思うがね」

 「今日明日覚えた程度では難しいですか」

 「まず、ひとを刺せるかが問題だ。槍って一気に繰り出さなきゃ、刺すのも難しいんだ。下手くそだと相手を突き飛ばす程度にしかならない。つまり、刺さらないんだ。

 だからこそ、俺はこうして鍛錬してるのさ。

 槍の腕前は油断するとすぐ落ちてしまう」

 レト自身、剣の腕前も日々の鍛錬によって維持されることを理解している。レトはゆっくりとうなずいた。

 「そうですね」


 ここで本題に入るか。


 「昨夜もここで鍛錬を?」

 「昨夜?

 ああ。そうしようと思ったんだがな」

 「しなかった?」

 「正確には『できなかった』だ。

 何時ごろだったかな。夕食を摂って、しばらくひと息ついてからここに来たんだが、部屋にカギがかかっていた」

 「カギが掛かって入れなかった」

 「ああ。珍しいと思ったよ。普段、ここにカギを掛けるなんてないんだ。

 ここのカギは1階の事務室にあるから取りに行ったら、そこにカギがないときた。

 仕方がないから昨夜は早めに寝ることにしたよ」

 「カギは事務所のどこに保管されてるんですか?」

 「扉を開けたすぐ脇の壁にカギを収めた箱がある。ただ、そこに入ってなかった」

 「カギはけっきょく無くなってしまったんですか?」

 「そうなってたら今日、俺がここで鍛錬できるわけないじゃないか。

 今朝、確かめたら戻されていたよ。昨夜のうちに誰かが返してたようだ」

 「クレイトンさんは誰が返しに来たとか見てなかったんでしょうか?」

 「クレイトン? いや、彼にも聞いたが知らんって答えてたよ。

 まぁ、あのカギは誰が勝手に使ってもいいからな。そんなに気にすることもないだろ? 事件はここで起こったわけじゃないわけだし」

 「そのとおりです」

 レトはうなずいてみせたが、ランスはじっとレトの顔を見つめている。


 「あんた、このことが事件と関係あるって考えてるのか?」


 「あくまで参考のひとつにしているだけです」

 レトは頭を下げて向きを変えた。

 ランスはしばらく無言だったが、部屋を出て行こうとするレトの背中に声をかけた。「おい、あんた」


 「何ですか」

 レトが振り返ると、ランスが槍の底で床をコツコツつつきながら

 「俺たち騎士団に人殺しはいねぇぜ」

 と言った。


 「根拠はあるのですか?」


 「俺たちに先代や姫様を裏切る理由がない」


 「そう言い切れるのですか、あなたに?」


 「俺は仲間を信じている。戦争が終わってから入団した者もいるが、それでも苦楽をともにしてきたんだ。いいやつかわるいやつかの区別はつく。この騎士団に人殺しのクソッたれ野郎はいない」


 「残念ですが」

 レトは首を振った。

 「ひとを殺すのはクソッたれ野郎だけとは限らないんです。

 善人が善人であるがゆえにひとを殺すこともあるんです」


 レトは部屋を出て行った。今度はランスが引き止めることはなかった。



80


 教練室を出たレトは廊下の左側に目をやった。行き止まりの壁が立ちふさがり、太い柱が外の窓を隠している。


……あの証言で確信できた。犯人はあの柱の陰で僕たちを監視していた。そこを誰かに見られたら困るので、この部屋が出入りできないようにして誰も近づかないようにした。誰かというよりランスを、か。この場合、ランスが犯人でなければという条件がつくわけだが……。


 レトは考えながらその場を立ち去りかけたが、急に立ち止まった。くるりと向きを変え、ふたたび教練室の扉を叩く。


 「今度は何だ?」

 ランスはさすがに不快の表情を浮かべていた。


 「お聞きしたいことができました。

 この部屋にカギが掛かっていたのは昨夜だけのことですか?」

 レトは扉から顔だけを突き出した格好でランスに尋ねた。


 「どういう意味だ?」


 「あなたは毎晩、この教練室で鍛錬していたわけですよね?」

 「まぁ、そうだが」


 「あなたがこの部屋を使用できなかったのは昨夜だけのことだったんですか?」


 ランスはうなずいた。「ああ、そうだよ」


 「ご協力ありがとうございます」

 レトは困惑顔のランスをそのままに扉を閉めた。


 考えながら歩くと、間もなく階段に着いた。階段からは冷気が静かにレトの身体を撫でて通り過ぎていく。体温が一気に下がりそうな冷たさだ。


 しかし、レトは寒いと感じていなかった。むしろ、額に汗が浮かび、顔が紅潮している。


……まさか、そういうことか……。


 レトは顔をあげると走り出した。目の前の階段を一気に駆け下り、1階の回廊も走り抜けると中庭へ飛び出す。


 レトは速度を緩めることなく正門の裏を走っていく。レトの足音に気づいて、門の上からアッシュとペインが顔をのぞかせたが、レトはふたりには目もくれずそこも走り抜けた。

 レトを見送ったふたりは、不思議そうな表情で互いを見やった。


 レトが向かったのは教会だった。


 ガッデスとディエゴのふたりは部屋の片づけをしているところだったが、慌ただしく飛び込んできたレトの姿に動きを止めた。


 「どうかされましたか、カーペンター様」

 ガッデスは落ち着いた声で尋ねた。


 レトは息を切らしながらガッデスの前に立った。


 「はぁ、はぁ。あ、あの、ガッデスさん。

 ドニーの遺品を見せてもらえませんか?」


 「遺品、ですか?」

 「ええ。彼が身に着けていたものなど一式をまとめてましたよね?」


 「これのことですか?」

 ディエゴが木箱を持ち上げてみせた。


 レトはすがりつきそうな勢いでディエゴに近づいた。「そう! それです!」


 レトは困惑顔のディエゴから箱を受け取ると、横たわっているドニーのそばへ近づいた。


 「ドニー。申し訳ないけど、ちょっと君のものを調べさせてもらうよ」

 レトはドニーに断るとふたを開け、中身をドニーとは別の台の上に広げた。そこはもともとドニーの身体を清めるための道具が置いてあったのだが、片づけられてそこには何もなかったのだ。


 レトは血の跡の残る衣服、革袋――おそらく財布だろう――、いくつかの装身具らしいものなどを台に並べた。


 「メンデス様の私物に何かございましたか?」

 ガッデスはレトに声をかけたが、レトは答えなかった。真剣な表情でそれらを見つめている。


 やがて――、


 「そういうことか……」

 レトから小さな声が漏れた。何かに納得したような響きだ。「そういうことだったんだ」


 レトはガッデスに顔を向けた。

 「ご協力ありがとうございます。ようやく、僕の頭も仕事を始めたようです」


 「それは何よりでございます」

 おそらく、レトが何に興奮しているのかわからないはずだが、ガッデスは落ち着いた姿勢を崩さずに応じた。

 一方、ディエゴの表情は困惑したままだ。


 「これで僕たちは次の一手を打つことができる」

 レトは力強い声で言うと、顔だけでなく身体ごとガッデスに向けた。

 「フロレッタさんの呪いを解きましょう」


 「何ですと?」この言葉にはガッデスの落ち着いた表情も変わった。


 「フロレッタさんの呪いを解くんです」

 レトは繰り返した。「ガッデスさん。お手伝いをお願いできますか?」


 「も、もちろんでございます。

 で、ですがどうやって解くんですか? 頼みのメンデス様はこうしてお亡くなりに……」

 「ドニーが準備してくれた解呪の儀式を受け継ぐんです」

 レトは短く答えた。

 「そ、そんなことが……」

 「できます」レトは力強くうなずいた。

 「ドニーはメルルに儀式の手順を話していました。

 メルルは今、儀式に必要な準備で出かけています。彼女が戻れば儀式を行なうことができるんです。

 実のところ、それを行なうのに不安な要素があったのですが、たった今、それが解決しました。

 フロレッタさんを確実に呪いから解放する道筋が見えたのです」


 「お、お嬢さまが助かるのですね……?」

 ガッデスの声は震えていた。この部屋も暖炉の温もりが欲しくなるような寒さだったが、ガッデスの額には汗の粒が浮かんでいる。


 「助かる、ではありません。助けるんです。僕やメルルだけでなく、あなたも。いえ、あなたがたも」

 レトはガッデスとディエゴに自分の顔を順に向けた。その顔は自信に満ちていた。


 さすがのガッデスも困惑の表情を隠すことができない。かたわらのディエゴと何か言いたげに互いを見やるだけだ。


 レトはドニーの遺品を元どおり箱にしまうと、「ドニーありがとう。でも、君はひどいやつだ。つくづく」口もとに笑みを浮かべながらドニーに声をかけた。


 「儀式はメルルが戻り、フロレッタさんが起きたらすぐ行ないます。

 今夜にケリをつけましょう」

 レトはきびきびした調子で声を出している。さすがにガッデスたちふたりは置いてきぼりを喰らっているような感じになった。

 「あ、あのカーペンター様。

 少し、ゆっくりとお話し願えませんか?

 わたくしどもは何をどうすればいいか、まったく見当もついていないのです」


 「そうですね。失礼しました」レトは素直に詫びた。

 「皆さんとは会議室で打ち合わせを行ないたいと思います。儀式の最中に障害となることを防いでもらうため、騎士団の皆さんの協力が必要です。

 ガッデスさんやロッタさんにはフロレッタさんのそばについていただき、儀式の場所まで支えていただきます。最悪、担いでもらうかもしれませんが」

 「お嬢様をお抱えするなど雑作もないことです。その程度のことでお嬢様が助かるのであればいくらでも!」

 ガッデスも力強い声で応じたが、

 「ところで、儀式の場所とは?」


 その問いにレトは首を振った。

 「申し訳ありません。それを今、ここでお話しすることはできません。

 先ほどお話しした障害につながるかもしれないからです。

 ですが、直前にはお伝えします。心配なさらないでください」

 「承知いたしました」


 「ディエゴさん。

 あなたにも申し訳ないのですが、クレイトンさんやブルースさんに儀式の件を伝えていただき、騎士団の皆さんが会議室に集まってもらうようにしてもらえませんか?

 城外の見張りについているアッシュさんやペインさんには引き続き門衛任務を担っていただきたいので、おふたりはお呼びしなくてけっこうです」

 「了解しました」

 ディエゴは小さくうなずいた。


 行動の方針も決まり、さぁ、これから動き出そうと3人が扉に向かおうとすると、急に外が騒がしくなった。誰かの怒声が彼らのもとにも届いたのだ。


 「何だろう?」

 ディエゴが不安そうに眉をひそめる。レトの表情が険しくなった。「まさか」


 教会を飛び出すと、さっきの怒声が大きくなった。城壁の上からアッシュが叫んでいるのだ。


 「クソッ! こっちにもいやがる! なんて数だ!」


 「まさか、もう攻めてきたのか!」

 ディエゴも状況を察して蒼ざめた。


 門の上ではペインも叫んでいた。


 「警報! 警報! ライラプス襲撃! ライラプスが群れになって攻め寄せてきてる!」

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