犯人
高島良夫は梅園高等学校に勤める教師である。
生徒たちからはメガネをかけたさわやかな先生という評判だった。
担当科目は社会科である。
高島は廊下を歩いていた。
もう午後の授業はすべて終わった。
生徒たちには放課後だった。
ふと、高島は十人以上集まっている女子生徒に目を止めた。
「君たちはもう下校かい?」
高島は声をかけた。
「はい、そうです」
「そうなんですけど……」
女子生徒たちはみんなで顔を見合わせた。
不安そうな顔をしていた。
「どうかしたのかい?」
「いえ、先生、テレビのニュースで、野獣にかみ殺されたっていう」
「ほら、二件あったじゃないですか?」
「ああ、それならぼくもニュースで知っているよ。野獣にかみ殺されるなんて、怖い事件だよね」
「ですから、私たちみんなで帰ることにしたんです」
「早くや獣が捕らえられるといいですけど」
「そうだね。危険だからみんなで集まって帰りなさい。なるべく、一人にならないように」
「はい、わかりました」
「じゃあ、さようなら」
高島は女子学生たちのそばを通り過ぎた。
詩音は放課後、ディックの洋館を訪れた。
詩音には学校が終わった後、もうここに来る習慣になっている。
「ディックは知ってる? 野獣にかみ殺された事件のこと」
詩音はディックに尋ねた。
「ああ、知っているぜ。実は俺もその事件を調べている」
「ディックが? どうして? 天使が働く仕事なの?」
ディックはイスにもたれかかった。
「現場に行ってきた。現場からは魔力を感じた。
俺は二つの事件両方の現場で同じ魔力を感じた。
同一の獣のしわざと思って間違いない」
「そうなの?」
詩音は家から持参した紅茶を飲んだ。
詩音にはこの洋館にコーヒーしかないことが不満だった。
「けどな、野獣がやったんじゃない」
「え?」
ディックは窓を開けた。
カラスが現れて、窓際に止まった。
「でも、多数のかみ傷があったって」
「魔獣を使役して犯人が襲わせたんだ。この事件には犯人がいる。それも悪魔とかかわりを持っている奴だ」
「犯人は魔獣使いだってこと?」
「そういうことだ。問題は犯人が誰で、どこにいるかだ」
ある夜、再び同一の事件が起きた。
殺されたのはアルバイトから帰宅中の男子高校生だった。
全身にできた無数のかみ傷によって高校生は命を落とした。
三体のヘルハウンドがある男子高校生をかみ殺したのだ。
「もういいぞ」
男はヘルハウンドに命じた。
三体のヘルハウンドは男のもとに戻ってきた。
「おまえたち、いい子だ」
男はヘルハウンドの頭をなでた。
「待て!」
男は呼び止められた。
一人の警察官がいた。
警察官はライトで男の顔を照らした。
「おまえが野獣事件の犯人だな! そこを動くな! 殺人罪で現行犯逮捕だ!」
警察官に顔を見られても男は動揺しなかった。
「おやおや、顔を見られてしまった。では生かしておくにはいかないな」
「待っていろ、今逮捕する!」
「殺せ!」
三体のヘルハウンドが一斉に警官に襲いかかった。
「うわああああああ!?」
ヘルハウンドは鋭い爪と牙で警察官を殺した。
「なんだって?」
「今後はより慎重に行動すべきかと」
悪魔ベルティエ(Bertie)が答えた。
「あなた様は軽率な行動を取っておられます」
「何が軽率なんだ?」
「契約によって手に入れた力を人間に試していることがです」
ベルティエは銀色の長い髪に、ハットをかぶり、黒いコートを着ていた。
「ぼくが力をどう使うかはぼくが決めることだ。警察官だって恐れることはない」
「警官を殺したのはうかつだったのではありませんか? より大きなニュースのなるでしょう」
「なら、警官も殺してしまえばいい。ぼくにはそれだけの力がある」
次の日の朝。
散歩途中の老人によって、男子学生と警官の遺体が見つかった。
老人はすぐさま、警察に通報した。
この事件はすぐにテレビで放送された。
警察官たちが現場を指揮っているさなかに、ディックも訪れた。
ディックは同一の魔力の痕跡を確かめた。
同時にディックは梅園高校で感じた同じ匂いをかぎ取った。
同じ匂いがする。
事件と梅園高校が線でつながった。
犯人は梅園学校にいる人物で間違いない、ディックはそう考えた。