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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
56/60

ブラッツォの陰謀

マユが再びディックのもとにやって来た。

「ディック、久しぶり」

「ああ、聖ソフィア修道会はどうだ?」

ディックがマユの近況を尋ねる。

「ええ、信仰の生活を送っているわ。最近はよく『アヴェシュタ』を読んでいるの」

今マユは修道服を着ている。

青い地に白い襟もとだ。

「体調はどうだ?」

ディックはマユが体調不良で苦しんできたことを知っている。

「ええ、体調は安定しているわ。なんであんなに体が動かなかったか、わからないくらいよ。やっぱり、聖なる生活がいいのかもしれないわ。結局、私のたましいの問題だと思うのだけれど」

ディックが肘掛イスにもたれかかった。

「なあ、マユ?」

「どうしたの、ディック?」

「今度海に行かないか?」

「海に?」

「そうだ。海は地上の生物の故郷だ。そこに行くことに大きな意味がある」

「そうね。海なんて久しぶり。私も今度の休みに海に行くことにするわ」

マユは今「働いている」。

マユの仕事は『祈り』と『労働』だ。

Ora et labora.(祈りかつ、働け)

マユは聖ソフィア修道会に入った。

聖ソフィア修道会とはシベリウス教系の修道院である。

祈りや、『アヴェシュタ』の読書、さらに畑で農作物を育てている。

畑で取れた作物は食事の材料になるだけでなく、近くのスーパーで販売している。

育てているのはジャガイモ、玉ねぎ、にんじんなどだった。

回収した利潤は修道会の運営資金になるのだ。


ディックとマユは海にやって来た。

「わああ……海が広い!」

マユは海を見て感激した。

「海からすべての生物は生まれた。海は人がいつでも帰ってくるふるさとなんだ」

ディックがポケットに手を突っ込みながら言った。

海には人を引き付ける魅力がある。

港には大型客船が停泊していた。

「なあ、マユ。俺の話を聞いてくれるか?」

「何?」

「人間には宗教が必要だと思うんだ。今は宗教的な人間だけが求めているだけだが……」

「うん、私もそう思うよ。少し前ならそう考えなかったと思う。でも今は違う。私は宗教は人を救ってくれるものだと思うから」

「そうだ。宗教の本質はそこにある。宗教は人を癒し、助け、救い、導くものだ。宗教は方向性を与える。進むべき道を指し示す。なにより、善と悪を分かつ。罪と罰をもたらす。俺は思うんだ。有史以来、日本人は本当の宗教をもっていなかったんだと」

「それはどういうこと?」

「宗教には思想が必要だ。それにい俺が思うのは日本語で書かれた宗教作品、宗教文学がどれだけあるか、ということだ。日本人に影響を与えた宗教は、神道、仏教、キリスト教だが、どれも果たして消化できたのか?」

「消化?」

「つまり、日本人自身が自分たちの宗教性を何らかの形で作品にしてきたのかということだ。作品を作る営み……どうも、日本人は西洋のマネをするだけで、翻訳するだけで、日本人にはそれができなかったんじゃないかと……。日本人はなぜ宗教的作品を作らなかったのか? それは日本人自身が自覚的宗教性を持っていなかったからじゃないだろうか? それは日本人の関心に宗教がなかったということであり、日本人お得意の模倣が通じなかったからではないか?」

「『アヴェシュタ』は日本語で書かれているよね?」

「そうだが、あれの言語は日本語の一系統『月州語』というのが正確な表現だ。預言者シベリウスはだから、『日本語』で作品を書いた。これはビジネスで言えばプラットフォームの構築をしたということだ。オリジナルは日本製。他はすべて翻訳にすぎなく、それ自体を知ろうとすれば日本語の作品を参照する必要がある。これはクルアーンが『アラビア語』で書かれているのといっしょだ。ムスリムは必ず、アラビア語を学ぶ。アラビア語でクルアーンは書かれているからだ。それと同じ強みをシベリウス教は持っている。シベリウス教について本質的に学ぶためには日本語を学ばねばならない。これは圧倒的言語アドバンテージだ。これは日本語が『聖なる言語』になったということだ。シベリウスは日本語で宗教的作品を残したことで日本人の共同体に計り知れない貢献をした。これは一個人のレベルを越えている。これはシベリウスの『遺産』だ。シベリウスが残していった日本人のための誇りだ」

「『アヴェシュタ』が日本語で書かれているから、私たちはそのまま読めるのね」

「ああ、簡単に言えばそういうことだ。さて、もう十分海は堪能したし、そろそろ帰るとしよう」


悪魔公ブラッツォの部屋にて。

ブラッツォは暗い、黒い空に忌々し気な視線を送る。

「やれやれ、まったく部下どもは使えない。ザドキエル一人にいったい何匹倒されれば気がすむのだ? まあいい。エキドナ様の復活はもうしばらく時間がかかる。そして、エキドナ様の復活のためにあの娘をイケニエにしなければなるまい。そのためには奴らの連携を阻害する必要がある」

ブラッツォはまるで小さな玉座に座っているかのように腰かけていた。

ブラッツォはワイングラスを手に取った。

しばらく、それを揺らして、それを楽しむ。

それからおもおむろにワインに口をつける。

ブラッツォは『公爵』である。

悪魔には階級があって高い順から、『王』、『公爵』、『侯爵』、『伯』、『子爵』、『男爵』となっている。

ブラッツォの階級は上から二番目に当たる。

ちなみに『王』の階級にあるあくまで代表的なのは『サタン』だ。

この部屋はブラッツォしかいない。

ブラッツォは平然と部下を切り捨てることができる男だ。

そのせいで、部下たちはディックに倒され、使い捨てにされた。

ブラッツォにとって、部下たちは『使い捨て』であり、『消耗品』にすぎないのだ。

ブラッツォはそう考えていた。

ブラッツォはワイングラスを離し、再びワインをかたむけて液体を揺れ動かせる。

「あの三人の動きを封じるとしよう。そのためには同時襲撃をしなければならないな。そのあいだに私の手であの娘をさらうとしよう」

ブラッツォが魔法陣を起動させる。

ブラッツォは魔法陣から闇を放出させる。

「さて、アフォロン(Afolon)、ボルボロス(Borboros)、ガルブレヒト(Galbrecht)、各個に奴らのもとに向かえ。そして奴らを足止めするのだ。この私はあの娘を捉える。おまえたちへの命令は三人の足止めだ。それでは、散れ」

ブラッツォは命令を伝えると、三体の悪魔はそれぞれ敵のもとに向かった。


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