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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
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光村 イノリ

「イノリ先生、さよなら!」

生徒たちがイノリにあいさつしてくる。

イノリはそれに優しく応える。

「ええ、さようなら。気をつけて帰ってね」

イノリはほほえみながら手を振る。

これはいつも生徒たちとやり取りしていることだ。

イノリは廊下を歩く。

最近、アカリが変わった。

明らかに宗教的になった。

アカリは銀のアンクをつけていた。

これがシベリウス教の象徴であることをイノリは知っていた。

イノリは宗教学の視点から、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、神道、仏教、ヒンドゥー教などいくつもの宗教のことを知識として、知っていた。

もちろん、シベリウス教のことも……。

イノリは理知的だったので、自然に理知的なアプローチをとる。

光村みつむら イノリ。

25歳。

アカツキ高校の教師。

専門は宗教学。

前髪をかき分けて、長い髪を垂らしていた。

そしてロングスカートをはいていた。

アカツキ高校は私立校なので、宗教を教えても憲法に接触しない。

イノリは空を眺めた。

実のところ、イノリも心に空虚感を持っていた。

イノリは自分の胸の中心に手を当てた。

イノリは自身が求めているもの、自分の心の穴の正体を知っていた。

理知的であるがゆえに、イノリはそれに気づいた。

イノリが求めているもの……それは宗教であり、信仰だった。

イノリの体には異常は現れなかったが、心が虚しさで支配されていたのだ。

これは宗教を理知的に知っているだけではだめだということだ。

イノリはアカリを思い浮かべる。

イノリはアカリのことがうらやましかった。

イノリはアカリのほうが先に行っている気がした。

イノリは考える。

現代は宗教の受難の時代であると。

こんな時代に宗教を求めるなんて、どうかしているか、バカげているか、いずれにしてもいい評価は得られまい。

だが、イノリは自身が宗教的なタイプであるということも自覚していた。

そもそも、イノリが宗教を学んだのは自分に合う宗教を見つけるためであった。

イノリは自分が求めているのは何かと自問した。

それは魂の救済だった。

「ふう……私もいい加減に自分が所属する宗教を見つけないとね……」

イノリは静かに歩き出した。


イノリの帰り、夜。

イノリは夜の校舎を歩いていた。

校舎には電気がついている。

あまり、遅くまで学校にいるわけにはいかない。

周辺の住民からクレームが来るのだ。

教師の残業は問題視されていた。

アカツキ高校では事務は事務員がするので、その分、教師の負担は少ない。

「おや、こんな時間まで仕事ですか?」

「宮本先生……そちらこそ」

イノリは廊下で社会科教師の宮本と出会った。

宮本は既婚者らしく、あまり残業をしないようにしていた。

もっとも、家に仕事を持ち帰っているようだったが……。

「珍しいですね。宮本先生がこんな時間にまで学校にいるなんて……ご家族から何か言われないんですか?」

「ええ、ですからそろそろ帰るつもりだったんですよ。光村先生もこれ以上学校にいるのはまずいですよ。周辺の住民から何を言われるのかわかりませんからね」

「そうですね……それでは失礼します」

イノリは一礼して、その場を後にした。

宮本のメガネが光ったような気がした。

イノリは帰り支度を済ませた。

電気を消して校舎の外に出る。

イノリは夜の道を歩いた。

その時である。

イノリは自分の周囲に何か異質なものが現れたことに気づいた。

「な、なに!?」

イノリは後ずさる。

イノリの体から冷や汗が出る。

イノリは恐怖した。

それはそれらの異質な存在をイノリが見たことがなかったからだ。

茶色の体を持つ異質な存在……。

それは悪魔だった。

下級悪魔の群れがイノリの前にいた。

イノリは壁際まで追いつめられた。

その瞬間、一本の剣がイノリの前に落ちてきた。

一本の剣は下級悪魔の動き止めるのに十分だった。

イノリは目の前で起きたことが信じられなかった。

そこに上空から一人の黒い服の男の子が降りてきた。

イノリは直感的に思った。

天使? と。

「下級悪魔か……この女のたましいは渡さないぜ? 行くぞ! 黒光陣こっこうじん!」

男の子――ディックはレイピアに黒い光をまとわせると、下級悪魔の群れの中に斬りこんでいった。

足元に黒い陣ができて下級悪魔を一気に吹き飛ばす。

その威力は下級悪魔なら一撃で戦闘不能にできるほど。

元来この技はザコ敵の掃討のためにあった。

それに黒光陣だけでは下級悪魔を処分しきれない。

ディックはさらに下級悪魔に斬りつけていった。

下級とは言え、悪魔の皮膚は硬い。

ディックの力とレイピアでは下級悪魔を斬るなんて芸当はできない。

それができているのは、黒光をレイピアとドッキングし、強度と切れ味を増しているためである。

黒い光はディックの光だ。

この光は『高貴さ』を示す。

ディックの色であり、黒ワシの色だ。

ディックは下級悪魔たちを次々と狩っていく。

その有様は無双のよう。

物の数分で下級悪魔の死骸が築かれる。

最後の悪魔がディックに向かって駆けてきた。

ディックは突きの構えを取った。

ディックは悪魔が射程距離に入ると、頭を狙って技を出した。

「光閃突!」

ディックの光の突きが悪魔の頭蓋を爆散させる。

悪魔たちは全滅した。

悪魔たちは茶色い粒子と化して消えていった。

茶色い粒子と化したのはおそらく土属性に特化した悪魔だったのだろう。

「ふう……けがはないか?」

「え?」

イノリは一瞬戸惑った。

「だ、か、ら、けがはしていないかと聞いているんだ」

「え、ええ」

イノリにはそれしか答えられなかった。

イノリには眼前で起きたことが理解できなかった。

だが、このことはイノリにとって強烈な宗教体験になった。

それは後日にわかるのだが……。

今はまだ、そこまで理解が追い付かなかった。

「俺はディック。ディック・ディッキンソンだ。おまえは?」

「私は光村 イノリよ」

「そうか。じゃあ、イノリ。俺はおまえを保護する。俺の洋館まで来てもらうぞ」

「え、ええ……」


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