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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
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怪鳥ザイドリッツ

スズは一人で廊下を歩いていた。

スズは久しぶりに会った友達たちと話をした。

スズには宗教的実存、宗教的在り方などどうでもいいように思われた。

それにスズも普通の日本人だ。

日本人であるがゆえ、スズも宗教には偏見を持っていた。

スズは本質的にはおとなしく、世間の規範に従うタイプだった。

つまり、善良だったわけである。

善良な人間は規範から外れることを恐れる。

強迫観念的に規範に従う。

それが悪いというわけではなかったが、スズにはそれはできないことだったのだ。

スズは頭痛が軽くなったので過信していた。

そのスズの頭にもとの頭痛が戻った。

「いっ、痛い!」

スズは頭を押さえて倒れこんだ。

スズは再び聖ミリアム病院に救急車で運ばれた。


スズはひとまずは一週間ほど入院してから「解放」された。

どうやら、この頭痛は学校にいると痛むらしい。

スズは再びディックのもとを訪れた。

「? どうしたんだ、スズ?」

「また、頭が痛みだしたの」

「再発? おまえまさか……」

「うん、学校に行った」

「そうか……どうやらおまえの実存と本性ほんせいは学校とは相性が悪いようだな。今はどうなんだ?」

ディックがスズの調子を尋ねる。

「うん、ここに来て少し落ち着いてきた」

「少し待ってろ」

ディックは黒いラジカセに近づくと、讃美歌を流した。

この讃美歌は日本語で作詞されている。

スズはソファーに腰かけた。

そして、大きな息をはき出した。

それはどこか霊的な様を思わせた。

「緊急だからな。少しはこれで痛みが和らぐといいんだが……」

スズは深呼吸した。

呼吸が徐々に収まっていく。

「うん……やっぱりあたしは宗教を必要としているのかもしれない……ねえ、ディック?」

「どうした?」

「どうしてあたしはこんなに苦しまなければならないの? 普通の人だって悩みはあるし、傷つくこともあるし、病気にだってなる。でも私の病気は普通じゃない。いえ、普通から逸脱させようとしているの。あたしは怖い。あたしはマイノリティーにはなりたくない……」

スズの目から涙が流れた。

その言葉はスズの本心から出たものだった。

「スズ……おまえは、おまえの本性ほんせいがほかの人と決定的に違う以上、それはできない。これは召命しょうめいだ。神がおまえを宗教の世界に招いているんだ。痛みはそれに反対するから起こるんだよ」

「それじゃあ……」

スズは恐る恐る言った。

「あたしは普通じゃない道を歩まねばならないってこと?」

「そうだ」

ディックが断言した。

これは決定事項だとでも言わんばかりに。

「そんな……ひどい……」

スズはとうとう泣き出してしまった。

「それは見方の問題だ。その頭痛はおまえの実存に問題があるから起こる。それに『召命』でもある。おまえは神から招かれているんだ。おまえの宗教性は日本文化と相いれない。日本文化とおまえの在り方は同じ方向にはない。ゆえに頭痛が起こるんだ。別の方向に行けってな」

「それじゃあ、あたしは友達とも違う方向に行かなきゃいけないの?」

「それは自覚していないが、真のおまえ自身の願いだ」

「……」

「まあいい。再発したんなら、また家で休んでるんだろ? それならここには来たい時に来い。無理に教会に行くこともない」


川上 順子は廊下を歩いていた。

「さよなら、川上先生!」

「さよなら!」

「ええ、さようなら。車には気をつけるのよ?」

川上はほほえましく生徒たちを見送った。

「フフフ、教師の仕事も様になっているじゃないか」

そこに現れたのは黒髪で赤マントの男。

「ブラッツォ様……」

川上があるじの名を口にした。

「フフフ、どうだ、獲物は見つかったか?」

「はい、一人見つけました。竹山 スズという娘です」

ブラッツォはうれしそうに笑みを浮かべる。

「そうか。で、こちら側になびきそうか?」

「そうですね。五分五分だと思われます。彼女には魂の導師ザドキエルが付いているので……」

「フム……では力づくでその娘の魂を奪うとするか。フフフ、フハハハハ!」

ブラッツォの哄笑が廊下に響き渡った。


スズはディックの洋館に行くために歩いていた。

ここは高級住宅地だ。

大きくて、見栄えのいい家が多かった。

スズはディックとの会話を思い出していた。

自分は普通に生きたい。

でもそれはできない。

スズには今の自分と、あるべき自分とのあいだに距離感を感じた。

自分はどうするのが正しいのだろう? 

この頭痛から救ってくれるなら、悪にでも魂を売り渡してしまいそうだ。

そんな事を思っていたスズの上空を一体の何かが通り過ぎた。

「な、何!?」

スズは怖がった。

スズの前に黄色い怪鳥が降り立った。

それは怪鳥ザイドリッツ(Dzeidritz)だった。

ザイドリッツは口に雷の力をたくわえた。

「サンダーブレス」だ。

スズは呆然としてなすすべがなかった。

スズは死を思った。

スズは目を閉じた。

「ふう、危ないところだったな」

その声は魂を導く者の声。

子供の声だ。

「え?」

「大丈夫か、スズ?」

スズは目を開けた。

スズの前にはディックがいた。

雷は強制的にキャンセルされたらしい。

ディックは振り返ると、不敵に笑いかけた。

その顔にスズは安心感を覚える。

ディックは黒い細身の剣を持っていた。

ディックは大きな鳥に向かって鋭い斬りを出した。

ザイドリッツは上昇してこの攻撃を回避する。

ザイドリッツはディックをおもな敵と認識したようだ。

上空を旋回してディックを狙う。

ディックに急降下し、脚の爪でつかもうとするザイドリッツ。

ディックは軽快な運動でこの攻撃をかわした。

「キヤーー!」

ディックはすかさず、レイピアによって突いた。

しかし、ザイドリッツはまたしても上昇してディックの攻撃をかわした。

ザイドリッツは雷を降らせる魔法「雷撃」を出した。

ザイドリッツは上空から一方的にディックをなぶる。

ディックは次々と落ちてくる雷をスマートにかわす。

ディックの回避スピードが上がっていく。

ザイドリッツは一方的になぶっていると思っていたようだが、ディックの回避はしだいに、ザイドリッツを脅かすようになった。

回避はただ良ければいいのではない。

それを反撃につなげるようにしなければならない。

ザイドリッツは再びディックを足の爪でつかもうとした。

もちろんディックは回避する。

ザイドリッツは一つ誤りを犯していた。

それはディックが「飛べない」と思っていたことだ。

ディックは大きくジャンプしてから飛行すると、光の突きを放った。

「光閃突!」

ディックのレイピアがザイドリッツの首に突き刺さった。

「フキヤーー!?」

ザイドリッツは道路上に落ちた。

ザイドリッツは黄色い粒子と化して消滅していった。

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