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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
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スズと教会

ディックはスズを聖ソフィア教会に連れて行った。

「どこに向かっているの?」

スズは後姿を見せて先導するディックに声をかけた。

「教会だ」

「教会? なんで教会に行くの?」

スズは少し不安になってきた。

これは変な勧誘だろうか?

「それはおまえが求めているものを知るためだ」

「私が求めているもの?」

ディックは振り返らない。

そのままスズの前を歩いていく。

「ああ、おまえは自覚していないがな」

ディックは教会の扉を開けた。

その中には多くの人がいた。

割合的には女性が多いようだ。

教会の中では何かの朗読が行われているようだった。

ディックはスズを長いすへと導いた。

スズは長いすに座った。

ディックもその隣に腰かける。

スズは教会の中に入ってその時、自分の魂の琴線に触れる気がした。

スズはすぐさまその場に引き込まれた。

それをディックはほほえましく見ていた。

「今朗読しているのは『アヴェシュタ』というんだ」

「『アヴェシュタ』?」

「そうだ。シベリウス教の聖典アヴェシュタだ。シベリウス著作集ともいうがな」

「シベリウス?」

「ああ、そうだ。ここはシベリウス教の教会だ。シベリウス教とはシベリウスの宗教という意味で、シベリウスとは人の名前。この宗教の創始者の名だ」

「シベリウス……」

スズは感慨深そうにつぶやいた。

それは将来スズを導き、救う人の名前。

まだ、この時のスズはそれを知らない。

スズは祭壇の後ろにいる人を眺めた。

その人は女性だった。

教会での儀礼を主導しているようだ。

スズには聖職者という概念がまだなかった。

神社の神主や巫女、寺の僧侶は見たことがあったが、聖職者は初めてだった。

その女性にスズは興味を持った。

「あの女性は?」

スズがディックに尋ねる。

「あの人はカリナ牧師。シベリウス教では女性も聖職者になれるんだ」

やがてカリナ牧師の朗読が終わり、皆は散開し始めた。

カリナ牧師はディックに気づくと、ディックのもとにやって来た。

「ごきげんよう、ディック様」

「ああ、カリナ」

スズはひそかに驚いた。

スズの目からは大人のカリナ牧師が子供のディックに「様」をつけていたからだ。

それに立場的にもディックのほうが上のようだった。

カリナは笑顔で迎える。

「こちらのかたは?」

「宗教的なものを求めている子だ」

「あら、そうですの。ごきげんよう」

カリナがにこやかにスズにあいさつしてきた。

カリナは友好的だ。

「あっ、はい、こんにちは」

スズは礼をする。

スズは宗教の聖職者と話をして緊張した。

「教会に来るのは今日が初めてですか?」

「はい、そうです」

「そうですか。教会はあなたの気に入りましたか?」

「はい、聖なるものが分かったような気がします」

スズは緊張で体をこわばらせていた。

そんなスズに助け舟を出すかのように、カリナは優しく話した。

カリナの顔には笑みがあった。

きっと、始めてくる人と話せてうれしいのだろう。

「それなら、もしよろしければまた来てください。何かまた新しい発見があるかもしれません」

「は、はい」

「うふふふふ。最初は緊張しますよね。私もそれはわかります。もしかしてあなたもどこか体が悪いのですか?」

「こいつは頭痛がするそうだ」

ディックが割り込む。

「あなたのお名前は?」

「はい、竹山 スズです」

「私は牧師のカリナと申します。実は私もディック様に救ってもらった一人なんですよ?」

「え?」

「意外ですか? ディック様は魂の導師です。魂の病にある人は放っておくことなどありえません。それではまた再会できるといいですね。失礼します」

そう言うとカリナは去っていった。

スズはとてもふしぎだったが、頭の痛みが和らいだような気がした。


スズは頭痛が和らいだため、久しぶりに学校に行くことにした。

スズは学校に行くと、クラスのみんなから驚かれた。

そこには友人のサトコがいた。

「スズちゃん、おはよう! どうしたの? 頭痛は取れた?」

「うん、まだ痛いけど、和らいだからまた学校に来てみたんだ。なんだか制服にも久しぶりに袖を通した気がするよ」

「へえ……そうなんだ。あたしはね、スズちゃんの病気が治るように神社に行ってお祈りをしてきたんだよ」

「そうなの?」

スズはドキッとした。

スズは教会に行ったことをどこか後ろめたく感じていたからだ。

普通の日本人は一生教会には通わないだろう。

スズもあれは自分にとって例外的なできごとだと思っていた。

「竹山さん?」

「川上先生?」

そこに一人の女性教師がやって来た。

ショートボブの髪に、白いスーツ、ズボンを着用した女性だ。

「竹山さん、頭痛はどうですか?」

「はい、頭痛も和らいだので今日は通学してきました」

「そうですか。よかったですね。私も心配していたんですよ? 竹山さんは本当に残念でしたね。貴重な青春を無駄にしてしまって……それでは失礼しますね」

川上先生は去っていった。

川上先生の舌先が唇をなめたことを、スズは知らなかった。


ディックは一人で音楽を聴いていた。

聴いていたのは日本語の讃美歌だった。

これもシベリウス教聖道会のビジネスだった。

シベリウス教はその共同体を「聖道会せいどうかい」と呼んでいる。

聖道会は牧師と事務員によって運営されている。

シベリウス教徒になると聖道会に登録される。

また所属教会も登録される。

ドアをノックする音がした。

もちろん、このドアも黒だ。

「入るぞ」

それは懐かしい声。

ディックの親友の声だ。

「入るぞ?」

ドアの向こうからサリエルが現れた。

「サリエル……久しぶりだな。最近俺のところに顔を見せなくなったな? 何かあったのか?」

「ああ、別の地区に配置が変わった。今は桜山市の守護天使だ。おまえの

ほうはどうなんだ、ザドキエル?」

ディックは組んだ手に顔を乗せて。

「ああ。子羊の魂を救済しているよ。今回はうまくいきそうだ。このまま行けば、信徒になってくれるような感じでね」

サリエルは真剣な顔で。

「悪魔ブラッツォ……この名を知っているか?」

ディックは口元を吊り上げる。

「ああ、知っているとも。そのブラッツォがどうかしたのか?」

「この男、宗教的な人間の魂を求めているようだ。それを何に使うかは知らんが、気をつけたほうがいい。この町はおまえとブラッツォとのあいだで縄張り争いをしているようだな。今はおまえが優勢だがブラッツォが本気を出したら、梅園市を失う可能性がある。梅園市は天使と悪魔の最前線だ。ここを破られたら、ほかの戦線でも影響が出るだろう。それにしても、ブラッツォの目的は何だ?」

ディックは目をしばらく閉じた後。

「そいつは俺にもわからないな。どうやら、ブラッツォはより上位の別の誰かに仕えているらしい。そいつが何者かはわからないが……」

サリエルは腕を組んだ。

サリエルは冷静で沈着だ。

そして論理的かつ、合理的に思考する。

その分、感情が抑圧されがちになるのだが……。

「ただ一つわかっていることがある」

ディックが口を開いた。

「それは何だ?」

「この男は宗教的な人間の魂を集めているらしい。何に使うつもりなのかね?」

「ザドキエル、俺は一時的に梅園市に援軍としてやって来た。しばらくはこの地区に留まるつもりだ」

「おっ、それはありがたいね」

ディックはコーヒーカップに口をつけた。

「おまえもコーヒーを飲むか?」

「いらん。よくそんなものが飲めるな」

「ははは。コーヒーが飲めないとはおまえも哀れな奴だな」

ディックは声を上げて笑った。

ディックはうれしかった。

サリエルという心強い援軍が来たからだ。

ディックはコーヒーで乾杯すると、サリエルに見せびらかすようにコーヒーを飲んだ。

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