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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
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ザイドリヒ

消灯時間は10時だった。

各人は各自の部屋で就寝となる。

イズミもまたベッドで横になっていた。

けれど眠れなかった。

その時扉が開いた。

「? 誰?」

イズミは扉を見た。

イズミは当初、医師の誰かが何かを聞きに来たのだろうと思った。

まったく就寝の邪魔をする。

イズミは不機嫌な顔をした。

そして、扉を開けた存在を見た。

そこには赤い縁取りをした。白い鎧の騎士がいた。

「私は悪魔ザイドリヒ。松井 イズミをよ、この私と共に来てもらう」

「ちょ、冗談でしょう?」

イズミは狼狽した。

きっと先生がドッキリをやらかしているに違いない。

「我はザイドリヒ。これは冗談ではない」

「き、きゃああああああああ!?」

イズミの悲鳴が病棟にこだました。

誰かほかの人が起きてきそうだ。

「そうはさせないぜ!」

そこに黒の少年が現れた。

公園であったあの男の子だ。

「来たな、ザドキエル。無駄なことだ。この娘はこの私が連れ去らう。それではさらばだ」

「くっ!」

男の子はイズミに何かを飛ばした。

ザイドリヒはイズミと共に闇の渦に入って消えた。


ディックは病棟の屋上にいた。

ワシの目を起動させる。

ディックはさらわれる前にイズミに印をつけた。

この印は魔力を探知して、位置情報を割り出せる。

ワシの目は上空から俯瞰的に、つまり、ワシのように目で対象をサーチできる。

イズミは公園にいた。

「あのねーちゃんは公園にいるな。よし、今行くぞ!」

ディックは夜の町中を疾駆した。


公園は闇の結界で守られていた。

ディックはその中に侵入した。

その中は地の果てのようなところだった。

「何だ、この中は?」

不意に、ディックに炎の斬撃が浴びせられた。

「!?」

ディックは黒ワシのレイピアでそれを防ぐ。

ディックは「このままでは」太刀打ちできないと判断し、封印を解いた。

「黒ワシ解放!」

ディックの姿が大人になっていく。

銀髪が輝いた。

ディックの武器は黒曜石の大剣となっていた。

「ほう、姿を変えたか。それでこそザドキエルよ」

ザイドリヒの低い声が辺りに響く。

そこにザイドリヒがいた。

ザイドリヒは黒い長剣を持っていた。

「俺はザドキエル。おまえはザイドリヒか?」

「そうだ」

「あの娘はどうした?」

「イズミなら我があるじの手にある」

互いに言葉で応酬を繰り返す。

そこに火花が生じていた。

「救える可能性がある命を俺は見捨てない!」

「ならば、この私を倒してみせるがいい!」

ザドキエルはザイドリヒに斬りかかった。

ザドキエルの大剣をザイドリヒは軽々と受け止める。

「へっ! ずいぶんと力があるな!」

「フン、きさまこそ滑る舌を持っていると見える」

二人が剣撃を相互に繰り出した。

ザドキエルとザイドリヒが斬り結ぶ。

「さすが、ブラッツォの手下だ。やるじゃないか!」

「フン、きさまこそさすがザドキエルだとほめてやろう」

「フッ、うだうだうるさいんだよ!」

「ぐおおおおお!?」

ザイドリヒがうめき声を上げる。

ザドキエルの強力な斬撃がザイドリヒを打撃した。

ザイドリヒは左手で右手を押さえた。

「フン、魔炎剣まえんけん!」

ザイドリヒは炎の剣を出した。

結界の中で炎の剣が周囲をともした。

ザドキエルはそれに対抗して、黒い光の剣「黒光剣」を出す。

「我が炎の魔剣で燃えつきるがいい!」

「そっちこそ黒い光で貫かれろ!」

一進一退の攻防が繰り返された。

ザイドリヒの魔炎剣は強力だった。

ザドキエルとザイドリヒは互角の勝負を繰り広げた。

ザドキエルの斬撃がザイドリヒを斬りつけた。

「ぐううううう!?」

ザイドリヒは後退した。

ザドキエルとザイドリヒのあいだに間合いができる。

「ククク……」

「? どうした? 気でも狂ったか?」

ザドキエルがけげんに思った。

相互の衝突がいったんやむ。

「ククク! 楽しいのだ! 私は楽しいのだ! これほど楽しめるとは思っていなかった! それに敬意を表して、ザドキエルよ、おまえに我が真の力を見せてやろう!」

ザイドリヒは炎の剣を燃え上がらせた。

ザイドリヒの長剣全体を炎が覆う。

それは赤々と燃えていた。

「くらうがいい! 魔炎破斬まえんはざん!」

ザイドリヒが炎の斬撃をザドキエルに放った。

「くっ!?」

ザドキエルは魔炎の斬撃をガードしようとした。

しかし、魔炎の斬撃はザドキエルの力を上回った。

ザドキエルは、魔炎に吞み込まれた。

「ククク、死んだか?」

「残念だったな。そうはいかないようだぜ?」

不敵な声が響き渡った。

そこに不敵な笑みを浮かべたザドキエルが炎を斬り裂いて、現れた。

「我が斬撃を受けて生きているとはな……だが、もう一撃を耐える力は残っていまい! これで終わりにしてくれる!」

ザイドリヒは魔炎破斬の構えを取った。

ザドキエルは上昇した。

翼をはばたかせて飛翔する。

「こちらも最強の技を出させてもらおう! 漆黒光突しっこくこうとつ!」

ザドキエルは大剣を構えて突撃した。

ザイドリヒの魔炎破斬と漆黒光突がぶつかり合った。

二つの技はスパークを巻き起こしてはじけ飛ぶ。

優劣はザドキエルの勝利だった。

「なっ、何!?」

ザドキエルは漆黒の光を放つ大剣でザイドリヒを貫いた。

「ぐっ、がはっ!? バカな……この、私が、死ぬだと……」

ザイドリヒは倒れる。

ザイドリヒの体は赤い粒子と化して消えていった。

ザドキエルの黒曜石の大剣が残された。

そこにパチパチと拍手が送られた。

「さすがだ、ザドキエル。我が右腕のザイドリヒを倒してしまうとはな」

そこに赤いマントに黒い服の男が現れた。

話しからすると、彼はザドキエルのことを知っているらしい。

「おまえは?」

ザドキエルが尋ねた。

「私はブラッツォ。悪魔ブラッツォだ。初めまして、ザドキエル」

ザドキエルはブラッツォからすさまじい魔力を感じた。

この男は強い。

かつて戦ったゼラキエルに匹敵する力を持っている。

「おまえが黒幕か? おまえの目的は何だ?」

「我はあるかたに仕えている。そのかたのために私は活動している。そのかたは宗教的な人間の魂を求めているのでな」

ブラッツォはニイッと笑った。

どうやらブラッツォは黒幕の名は出す気がないらしい。

「フフフ、ザドキエル……君と会えて私は正直うれしい。私はこの日が来ることをずっと楽しみにしていた。我が好敵手よ」

「あの子はどこだ?」

ザドキエルはブラッツォをにらみつけた。

あの子とはもちろんイズミのことである。

「フフフ、ここだ」

ブラッツォは右手から、縄で縛られたイズミを出した。

「ちょっと! あんたらなんなのよ! 人を巻き込まないでよ! 殺し合いなら勝手にやって!」

ザドキエルはため息を出した。

イズミはこの期に及んでまだ現実を認めないらしい。

だがそれも仕方がないのかもしれない。

常識や普通にこだわればわからなくなるものだ。

そして松井 イズミという人間にとって普通こそ疑われるべきでない価値なのだから。

「やめろ!」

ザドキエルはブラッツォの意図を察した。

「フフフフ……こうさせてもらおうか!」

ブラッツォの腕がイズミの胸を貫いた。

「あ!?」

イズミの体にブラッツォの手が入った。

イズミは大きく目を見開いた。

ブラッツォは。

「ククク、クハハハハハ! ハーハッハッハッハ! この娘の魂、確かにもらった!」

ブラッツォがイズミから手を引き抜いた。

イズミが地面に転がる。

ブラッツォの手には炎のような灯火が握られていた。

イズミの魂だ。

「では、ザドキエル。今回はここまでとさせていただく。今回の戦いは私の勝利だな。おまえはこの娘を救うことができなかった。ザドキエル、おまえはここまで拒絶されてもなお、日本人の魂を救おうとするのか? それは無駄なことではないか? 当の日本人が望まないなら、その魂は悪魔の手に入るだけだ。日本人……非宗教的な民……そんな民のためにおまえがもたらす宗教的な救いなどどんな意味がある?」

ザドキエルは正面からブラッツォを見据えた。

ザドキエルの救済に意味があるのか? 

ブラッツォはそう言いたいのだ。

日本人は宗教など望んでいない。

宗教的な救いなど求めていない。

それでもなおザドキエルは救おうとするのか?

「俺は救いうる可能性があるのならその人間を守る」

「フハハハハ! これは滑稽な話だ。おまえは日本人には何もできんよ。日本人自身が拒絶するのであればなおさらな。宗教とは日本人が発明できなかった概念だ。日本語の宗教とは哲学のように外来の言葉を翻訳するためにできた。日本人はこの概念を消化できていない。この概念が分からないのも当然と言える。『宗派』という言葉はあった。だが、総合的な意味での宗教はなかった言葉だ。我ら宗教的存在は日本人にとって未知の存在なのだよ。日本人自身が救済を求めていないのにどうしてそれができる?」

「そうかな? すべての日本人がそうとは限らないぜ?」

「クフフフフ!」

ブラッツォはそれを鼻で笑った。

ブラッツォからすれば滑稽なことに見えるのだろう。

「日本人の中にも魂の救済を望む者たちはいる。俺は彼らを見捨てない」

「フッ、まあいい。ぞれではザドキエル、さらばだ」

そう言うとブラッツォはイズミの魂を持って、黒い闇の渦に消えた。

イズミの肉体が冷たく横たわっていた。


ディックはイズミの墓を訪れた。

さすがのディックもイズミは救えなかった。

イズミは言った、普通でありたいと。

イズミには普通の在りかたが強迫観念と化していた。

イズミは普通にこだわりそして死んだ。

ディックにイズミは救えなかった。

ディックは缶コーヒーを取り出すと、それを墓に捧げた。

ディックは思った。

イズミにとって普通こそあるべき在りかただった。

だが、普通とはそれほど高尚なものであろうか?

それほど墨守しなければいけないものであろうか?

普通の人間は多かれ少なかれその在りかたから逸脱することはない。

それはそれで正しいし、間違っていない。

普通の人間たちは過去からそう生きてきたし、現在もそうであり、未来においてもそうであるだろう。

だが、人間の中には普通の価値感に適応できない者もいるし、中には拒絶する者もいる。

「選ばれた」人は普通からの逸脱を余儀なくされる。

そういう人はそれが可能な素質があるのだ。

ディックも日本で宗教的な救いなどほとんど意味をなさないことも知っている。

神道と仏教にはない概念がある。

それは「魂の救済」である。

魂がうずくのならそれは本物だ。

魂は救済されることを求める。

今の日本で宗教的な在りかたは少数派だろう。

それでもイズミの悲劇は自分で自身の本性ほんせいを否定したことから起きた。

悪魔は善良ではない。

イズミは最後まで普通に殉じた。

それは「殉教」と呼べるものだった。


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