木村由紀子
その日木村由紀子は授業で使った教材を片づけていた。
「遅くなっちゃった」
今日はいつもより遅い帰宅になるだろう。
由紀子は廊下を歩きながら、考えていた。
ふと周囲に甘い香りが立ち込めてきた。
「何、これ?」
ふと由紀子を眠気が襲った。
由紀子は眠気に襲われ、ふらっと、廊下に倒れこんだ。
倒れた由紀子のもとに、ローブを着た一人の男が現れた。
男は杖を手にしていた。
「さてと、この娘を使ってイケニエの儀式でも行うとするか」
男は由紀子を連れて、学校から立ち去った。
亜空間。
由紀子は寝台に寝かされていた。
「では、儀式を始めるとするか」
男は魔法陣を展開した。
その時、一本の剣が魔法陣に命中した。
「そうはうまくいかねえな」
「あんたたちの悪だくみなんてお見通しよ!」
空間にまるでガラスが割れたようなヒビが入っていた。
「木村さん!」
「詩音ちゃん、あたしの後ろにいてよ。じゃないと守りきれないから」
「はい」
詩音も亜空間に来ていた。
詩音は天使や悪魔についてもっと知りたいと思っていた。
「木村さんが、悪魔にさらわれた……」
「儀式とやらは俺が潰してやる。その子は返してもらうぜ?」
「フハハハハハ。おもしろいことを言う。この私の儀式の邪魔をするというのか。ではおまえたちはここで死ぬがよい」
「おまえは何者だ?」
「私か? 私は悪魔ゼラキエル(Dzerakiel)。そういうおまえたちは天使か。よほど我々悪魔の邪魔をするのが好きと見える。
さあ、いでよ、我がしもべどもよ!」
ゼラキエルは杖を上に上げた。
すると異形の悪魔がたくさん現れた。
「やれやれ、数だけはたくさんいるな」
「それであたしたちをやれると思っているの? 甘いわね?」
「行くぜ!」
ディックは刀で手前の悪魔を斬りつけた。
一刀両断にした。
ミリエルは剣を投げつけた。
悪魔にミリエルの剣が突き刺さり、吹き飛んだ。
ディックの剣はすさまじく次々と悪魔たちを減らしていった。
「しっかし、これだけいると苦労するな」
ディックは悪魔の攻撃をかわしつつ、どさっと突き刺した。
「フッ、では私は儀式を再開させてもらうぞ。この娘は大悪魔バールゼブル(Baaldzebl)のイケニエになるのだ」
ゼラキエルが再び、魔法陣を展開した。
「どうするの、アニキ! 儀式が始まっちゃうわよ!」
ミリエルが剣で舞いながら答えた。
「ちっ!」
その時、悪魔たちの一群が一瞬にして倒された。
倒れた悪魔の後ろから、サリエルが現れた。
「俺も加勢しよう」
「サリエル!」
サリエルは悪魔に急接近すると、刀で斬り捨てていった。
三人の天使たちはすさまじい勢いで悪魔たちを倒していった。
ディックは横一線で悪魔を斬り殺した。
「これまでだぜ?」
ディックは地に刀を刺し、ゼラキエルの魔法陣を打ち消した。
「きさまらがここまでやるとは思わなかった。我がしもべどもを全滅させるとはな」
「おまえの目的はなんだ?」
サリエルが冷たく尋ねた。
「私の目的は大悪魔バールゼブルを復活させることだ」
「そうはさせないわよ!」
大悪魔バールゼブルとは太古の昔、大勢の天使たちが魔界の奥に封じ込めたという存在である。
「フッ、今日はこれで引き下がるとしよう」
「そう簡単に逃がすかよ!」
ディックはゼラキエルに斬りかかった。
ゼラキエルはディックの刀を、杖で防いだ。
ゼラキエルは後方へと瞬間移動した。
そして、杖をかかげて小隕石を降り注がせた。
ディックとゼラキエルとのあいだに衝撃が起こった。
「さらばだ。勇気ある天使諸君」
ゼラキエルは魔法陣を発動し、姿を消した。
「逃がしちまったか」
ディックは残念そうだった。
「まあ、いいだろう。あの娘が犠牲にされることは避けられた」
サリエルが言った。
「サリエル、協力ありがと。助かっちゃったわ」
「俺は俺の仕事をしたまでだ。では俺も帰る」
サリエルはゲートを開いて、帰っていった。
「じゃあ、俺たちも戻るとするか」
ディックは再び地に刀を突き刺した。
亜空間が崩壊し、ディックたちは洋館に戻ってきた。
「詩音ちゃん、けがはなあい?」
「あ、はい、大丈夫です。ところで木村さんはどうするの?」
「俺が家まで送り届けてやるよ。心配するな」
「心配ってわけじゃ……」
詩音は困った。木村由紀子は詩音にとって顔見知りにすぎなかったからだ。
「まあまあ、今回はその子が犠牲になることは避けられたんだからそれでいいじゃない」
「そうか? 俺はゼラキエルを逃がしたことがおもしろくない」
「でも、あのゼラキエル……まったく本気を出していなかったわね?」
「ああ、ゼラキエルか。後で決着をつけてやるさ。バールゼブルの復活なんて困るからな」