表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
37/60

初めての教会

そしてコーラスは解散した。

そのうち、長身で金髪の女性が近づいてくる。

「はあい、アニキ! 元気にしてる?」

「ああ今日はとても機嫌がいい。新しい信徒予備群を連れてきた」

「アニキ? どういうこと?」

マユが疑問を抱く。

「まあ、そう思うわよね? 姉と弟に見えるでしょ? アニキのこの体は本当の姿じゃないのよ」

「え? え?」

マユが目をぱちくりさせる。

理解が追い付かないという感じだ。

「まあ、そういうことだ。俺はあえて自分の真の姿を封印している。そのため、地上では子供の姿をしているというわけだ。それよりも、自己紹介でもしたらどうだ?」

「初めまして。私はアニキ……ディック・ディッキンソンの妹でミリエルというの。あなたの名前は?」

ミリエルがにこやかにほほえみかける。

それはまるで太陽のような笑顔だった。

「はい、私は小林 マユです」

「マユちゃんね。あなたはどこまで知っているのかしら?」

「え?」

マユは困惑した。

これには何かしらの真実が含まれているような気がマユにはした。

「こいつは俺が天使だということは知っている」

「そう、なら私も言うわね。私も天使なの。ただ地上では修道女という姿をしているけどね。マユちゃん、あなたの職業は?」

「あっ、えっと……」

マユは表情を曇らせた。

「あの……無職です……」

「そうなの……失礼なことを聞いたかしら?」

「えっと、前はアイドルをやっていました」

「何い?」

「え!?」

ディックとミリエルが共に驚いた。

こんなところはよく似ている。

二人は改めて兄妹なんだとマユは思った。

「それは初耳だぞ。マユ、おまえはアイドルだったのか?」

確かにマユは整った顔に、プロポーションをしている。

「う、うん。もう引退しているけどね。その時の理由も体調不良だったの……」

「そう……今でも体は悪いの?」

「いえ、前ほどでもありません。シベリウス教のことを知ってからは体が前よりよくなりました」

「こいつは宗教的人間だ。だから俺はこいつをここに連れてきた」

「そういうことね。マユちゃん、今、あなたは働かなくていいのよ。あなたにはそれよりももっと大事なことがあるの。それがあなたにとってはそれが宗教なんだと思うわ」

「そう言ってくれたのはミリエルさんだけです……あれ?」

マユのほおから一筋の涙がこぼれた。

マユは心のどこかで働かなくてはいけないと思っていた。

それは擬似宗教的呪縛であった。

働くことよりも上位に位置することがあるとは考えなかった。

ミリエルの言葉でそれが壊れた。

マユにとって宗教はファーストだったのだ。

ミリエルは働くことよりも大切なことがあると言ってくれた。

マユは誰かからそう言ってほしかったのだ。

「俺も同感だ、マユ。今のおまえは働く必要はない。日本人にとっては働くことこそが真の宗教なんだ。マユ、おまえが新しい宗教に触れたとき、対立を引き起こしていると感じたなら、それは宗教的だということだ。働くことも日本人の宗教性の一部ということだろう。おまえは今、真実の扉の前にいる。旧い在り方を克服して、新しい在り方へと移行する時なんだ」

その時、昼の十二時を告げる鐘が鳴った。

「大変! 昼の祈りだわ! アニキ、マユちゃんを借りていい?」

「ああ、いいぞ。むしろそのために連れてきたんだからな」

「マユちゃん、みんなのところに行きましょう!」

「は、はい!」

マユは恐る恐るミリエルの後についていった。

「これはこれは。新しく来られたかたですね?」

そこに切っ先を整えた、ベージュの長い髪をしていた女性がやって来た。

その人は青い戦闘服に、黒いブーツといういで立ちだった。

「私はカリナ(Karina)。この教会の牧師です」

カリナがあいさつしてきた。

非情に好意的だ。

「あ、はい。小林 マユです」

カリナは握手を求めてきた。

マユは握手をした。

「あなたは聖なる道に来たいと望んでいますか?」

マユは表情を曇らせた。

「それは……まだわかりません」

「そうですか」

カリナ牧師はマユを安心させるように。

「ここはあなたのように何か問題を抱えた女性がやってきます。シベリウス教では朝、昼、夕、夜と四回祈ります。今は昼の祈りです。どうですか、いっしょに祈ってみませんか?」

カリナが優しく促す。

「そ、その……」

マユは困惑しているようだ。

「?」

「私は、何を祈ればいいかわかりません……」

「そうなんですね。あなたの育った環境には祈るという習慣がなかったのでしょう。安心してください。初めはそういう信徒もいますから。そうですね。まずは神に何かお願いしてみてはどうですか?」

「お願い事、ですか?」

「最初のうちはそれでもかまいません。まずはやってみましょう」

女性の牧師が先導した。

ちなみにシベリウス教では女性の聖職者もいる。

女性特有の悩みは女性牧師に相談される傾向がある。

マユはほかの女性と同じようにひざまずいた。

そして、左手を握りしめて右手を添えた。

マユは心から求めていることを祈った。

(神様、私の体がよくなりますように……私の体調不良が治りますように)

マユは心から祈った。

マユは自分の心に何かすとんと落ちるのを感じた。

それは何か足りなかった部品が埋め込まれたようだった。

「ねえ、マユちゃん、ちょっといいかしら?」

「何ですか、ミリエルさん?」

「シベリウス教会には体験入会という制度があってね。つまり、入会のお試し期間なのよ。もしよかったら、それを受けてみない?」

「それは……」

マユは困惑した。

マユは普通の仕事につけるように願っていたからだ。

「別に無理にとは言わないわ。あくまであなたの意思を尊重するわ。どう?」

「……少し、考えさせてください。私にはまだ分からないんです。シベリウス教の『信者』になるのが……」

マユは信者と言った。

それにミリエルが反応する。

「マユちゃん、私たちは『信者しんじゃ』とは言わないの。『信徒しんと』と呼ぶのよ」

「あっ、ごめんなさい」

マユは悪いことを言ってしまったと思った。

ミリエルが訂正する。

「気にしないで。信者という言葉にはダーティーなイメージがあるから、シベリウス教では使わないのよ。『信徒』とか『教徒』とか呼ぶの」

この時、ディックたちの様子を陰からのぞいている男がいた。

ディックはその視線に気づいた。

ディックは窓に近づき、視線をワシの目……俯瞰的に上空から眺める目――であぶり出す。

ディックはワシが上空から眺めているようにその対象を捉えた。

「あそこか……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ