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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Mayu
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ディックとマユ

次の日、マユは公園に行った。

あの男の子と出会った公園だ。

マユはつらかった。

家の中にいると心が沈んでくるので、マユはよくこの公園に来ていた。

今日は休日だった。

父は昼過ぎまで寝ている。

母はそんな父とあまり顔を合わせないように自室にこもりっきり。

マユはぼうっとしていた。

日は暖かかった。

そんな時である。

マユは突然、悪寒を感じた。

マユは自分の魂が押しつぶされるような重量感に襲われた。

「な、なに、これ!?」

マユは前を見た。

そこには黒い異形の怪人がいた。

黒い体に、屈強な肉体、そしてしっぽ。

両手の爪は鋭く、脚は太かった。

「何、あれ!?」

異形の存在――グレートデーモンはマユに近づいてきた。

グレートデーモンが近づくたびに重力感は増していく。

「い、いや! 来ないで!」

マユは叫んだ。

しかし、奇跡は起こらない。

グレートデーモンはそれでもなお、マユに近づいてくる。

マユは己の死を感じ取った。

グレートデーモンが息を吸い込む。

口に炎がたくわえられた。

これはファイアブレスだ。

グレートデーモンはファイアブレスをはき出した。

マユは死ぬはずだった。

マユは両目を閉じた。

「よお、また会ったな、ねーちゃん?」

そこに場違いな言葉が振りかかった。

マユは恐る恐る目を開けた。

そこには黒いレイピアを持った、あの男の子がいた。

男の子はファイアブレスを斬ったのだ。

マユには何が起こったのかわからなかった。

「あ、あなたは……いったい!?」

「俺はディック・ディッキンソン。天使だよ」

「え?」

マユにはディックのセリフが聞き取れなかった。

いや、聞き取れなかったのではなく、理解できなかったのだ。

それも「天使だよ」の部分が。

「グレートデーモンか。このねーちゃんの魂が目的か。だが分が悪かったな。おまえはこの俺に倒される」

ディックが消えた。

そして、恐るべきスピードでグレートデーモンを斬りつけた。

グレートデーモンはそれを腕で防いだ。

グレートデーモンは土魔法で腕を硬化させ、ディックのレイピアをガードしたのだ。

「へえ、やるじゃないか……」

ディックが不敵に笑う。

グレートデーモンはもう片方の手で爪を出して、ディックを切り付けた。

ディックはくるりと回転して後退した。

ディックの靴が砂を引きずる。

グレートデーモンは右手を上にかかげた。

グレートデーモンの手から一本の石の槍が形成される。

これは「硬石槍こうせきそう」だった。

グレートデーモンは全力で石の槍をディックに投げつけた。

ディックはレイピアを構えると、突きで硬石槍を迎撃した。

レイピアと石の槍とのあいだにスパークが生じた。

「へっ、そんな攻撃は俺には通じないぜ?」

ディックは不敵な笑みをまた見せる。

ディックの突きの前に石の槍は粉々に砕け散った。

グレートデーモンは両手を上に上げた。

すると、グレートデーモンの手から黒い雷のボールができた。

ディザスターボールだ。

グレートデーモンはディザスターボールを投げた。

ディックはレイピアを横に構えた。

ディックは光の斬撃でディザスターボールを斬り裂いた。

二つに分かれて、ディザスターボールが後方で爆発する。

ドカーンとした音が響いた。

この光景をマユは信じられない思いで見守っていた。

今までこんな戦いは見たことがない。

マユにもこの両者が敵対しているということはわかった。

マユには「天使と悪魔」という二項対立の概念がなかった。

そう、このころはまだ……。

「おまえとの戦いも飽きてきた。一撃で決めさせてもらう! 光閃突こうせんとつ!」

ディックは光の突きをグレートデーモンに放った。

グレートデーモンは口を大きく開け、口をレイピアで貫かれて絶命した。

ディックが言っていた通り、一撃で勝負がついた。

グレートデーモンは倒れると、黒い粒子と化して消滅した。

「まっ、こんなもんか……」

マユは信じられないものを見た。

マユは気が動転していた。

男の子が近づいてくる。

「よお、ねーちゃん、けがはなかったか?」

「あ? え? は、はい!」

「混乱して何が何だかわからないって感じだな?」

「あ、あの……あなたは何者なの?」

「それか……も一度言うぞ? 俺はディック・ディッキンソン。この梅園市に住む『天使』だ」

マユは目を見開いた。

呆然とする。

「で、おまえは?」

「私?」

「自己紹介だろ?」

「あっ、私はマユ。小林 マユ」

「マユ……いい名前だ。で、ねーちゃん。俺はおまえをマユと呼ばせてもらう。いいか?」

「は、はい」

「俺のこともディックと呼んでくれ」

「わかったわ、ディック……」

「マユ、おまえは体がうまく動かないだろ?」

「え? どうしてそれを?」

「それ、治せるぞ、俺ならな」

ディックがまた不敵な笑みを見せた。

「そんな……医者に見せても原因不明だったのに……」

「そりゃそうだ。それはおまえの本性ほんせいから出ているんだよ。おまえの本性ほんせい、おまえ自身……おまえは自分の本性ほんせいを知らねばならないのさ。それが病気から治る第一歩だ。それに苦しみを通して救いへと至るのであってその逆じゃない。おまえは自分にウソをつくことはできない。おまえの本性ほんせい自体が求めていることだ。おまえには選択がある。俺はおまえにある道を示せる。その道に来るか、来ないか、それはおまえが選べ。で、どうする? 来るか? 来ないか? 二つに一つだ」

ディックはマユに手を出した。

マユはディックの言っていることが半分も理解できなかった。

でも分岐点、運命の分かれ道のようなものをマユは感じた。

マユは自ら動いた。

マユはディックの手を取った。

「ようこそ、シベリウス教の世界へ」

「シベリウス教?」

マユは繰り返す。

それはマユにはまだ、未知のものの名前。

「それが道の名だ。別名『聖道せいどう』ともいうがな。まあ、まだ実感はわかないだろう。俺の家に来い。コーヒーをおごってやる」

マユは不安だったが、それでも目の前に現れた救いのために、ディックについていった。

これがマユの道の始まりだった。

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