ラーメン屋にて
その日、ディックたちは隣町に来てラーメン屋を訪れていた。
「あっつーい! このスープは熱いわ」
「だから言っただろう。急いで食べようとするからだ。もっと冷ましてから食べろ」
ディックが指摘した。
ディックはラーメンに口をつけた。
そんな二人のやり取りをサリエルは冷めた態度で応じた。
サリエルもラーメンを食べていく。
「それにしてもサリエルがラーメンを食べるなんて以外な感じがするわね」
「フン、悪いか?」
「別にそうじゃないけど、冷めているあなたらしくないってこと」
ディックはそんな二人のやり取りを、ラーメンを食べながら見ていた。
サリエルはきれいにラーメンを食べていく。
ミリエルは熱いラーメン相手に苦戦していた。
どうやら、熱い食べ物は苦手らしい。
「アニキが食べているラーメンは辛いやつでしょう? よくそんなのを食べられるわね。あたしの舌じゃ受け付けないわ」
「まあな。俺は辛い方が好きなんだよ。スパイスが利いていないと食べた感じがしないんだよ」
ディックとミリエルがそんな会話をしているあいだに、サリエルはラーメンを食べ終えた。
サリエルは腕を組み、目を閉じた。
そうこうしているうちに、ディックもラーメンを食べ終えた。
「ごちそうさま。ふう……腹がいっぱいだ。こんな時はアイスコーヒーが欲しいな。ここにないのが残念だ」
ディックはお冷の水に口をつけ、少しずつ飲み干した。
「ふう……冷たいな。ん? どうした、ミリエル? もう食べないのか?」
「ちょっと、もう、無理! これ以上は食べられないわ! あたしも水を飲もうっと!」
ミリエルはコップを手で取り、水を口につけた。
「たまにはこうして隣町に来るのも悪くないな。いつもとは違った気分になれる。もっとも詩音は連れてこれなかったが」
「詩音ちゃんには学校があるんでしょ?」
「確かに、その通りだ。あいつは生徒だからな。学業に打ち込む時期なのさ。もっともこの国の勉強はおもしろくなさそうだが」
「詩音ちゃんは悲しそうね。だってちっとも面白くないことを勉強させられるんでしょ?」
「そうでもないさ。あいつは必要なら手を抜くことも知っている。もっともハギア・ソフィア大学を受けるつもりだから、肝心なところは押さえているようだがな」
「詩音ちゃんは知恵があるわね」
ディックは深くイスに腰かけた。
「知性は能動的なものであって、その真価を発揮するものなのさ。俺には受け身の教育なんてまっぴらごめんだね。それよりも、ウィットやユーモアがないことの方が問題だ。知性の柔軟さを感じない。知性とは探求するものなんだよ」
「まあ、詩音ちゃんなら大丈夫でしょ。それともアニキは詩音ちゃんに何か悪いことでも吹き込んだわけ?」
ミリエルが嫌みな質問をした。
「バカ言え。俺は何も吹き込んでいないぞ。おれはただ、理知的な営みには、ウィットやユーモアが必要だと言っているだけだ。きまじめで堅苦しい知性なんてつまらないだけさ」
ディックはコップの水を全部飲み干した。
「そんなことは大したことではないだろう。もっとほかに話すべきことがあるはずだ」
サリエルは水を飲み干し、コップをテーブルの上に置いた。
「何が言いたいの、サリエル?」
「このあいだの戦いのことだ。このあいだおまえたちが戦った相手のことだ」
「別に忘れていたわけじゃないさ。話すタイミングを待っていただけだ」
「ザドキエル、おまえがこのあいだ戦った相手は異質な相手じゃないのか?」
そう、この世界にとって異質な存在……まるで別の世界からやって来たような、俺はそう感じた。極めて大きな危険と危険性を併せ持つ存在……俺はそう思う」
サリエルの話にディックとミリエルは沈黙した。
「あれらは『異物』だ。本質的に俺たちの世界とは相いれない。奴らは善でも悪でもない。唯一適応できる単語は『敵』だけだ。奴らは必ずしも強いとは言えないが凶悪であることは確かだ。おまえはどう考えている、ザドキエル?」
ディックは真剣な表情をサリエルに向けた。
そこに店員がやってきて三人のお冷を補充した。
「俺はあいつらが冥界からやって来たと思っている」
「冥界?」
ミリエルが聞き直った。
「冥界……暗い深淵の世界さ。ヨミの国とも呼ばれている。別の世界のあの世だ」
「だとしたら、これは大きな脅威だ。俺たち天使は人間を守る、それも使命の一つであり、俺たち天使の存在理由でもある。新たな未知の敵が出現した。それにどう対処するつもりだ、ザドキエル?」
「そうだな。俺は冥界に乗り込んで直接黒幕を叩きたいね。一方的に侵入されるのはおもしろくない。それと、これはこのあいだの戦いの話なんだが……」
「どんな話なの?」
「このあいだの戦いで俺は敵の親玉と戦った。そいつの名はシャフカ。『自称 カミ』の気が狂った奴だったよ。こいつは元人間だったが、冥界の木ザクロの実を食べて冥界の住人になった。確かに力はあった。だが、それより凶悪さが際立っていた。俺は思った、『こいつは危険だ』ってね。だから、俺は自分の剣で『黒曜石の大剣で』シャフカを殺した。俺にはこいつを生かしては置けなかった」
ミリエルとサリエルはディックの話を静かに聞いていた。
「ここで一つの命題が出てくる。つまり天使は人間を殺しうるか?」
ディックはニヤッと笑った。
「その必要があれば、俺は、天使はそうする」
サリエルが冷たく答えた。
「何が言いたいの、アニキ?」
「何、人は悪魔よりも天使を恐れるべきなのさ。天使は峻厳だ。悪魔と違って、冗談が通じないからな」
これが言いたかったとばかり、ディックはニヤリとした。
その時、ディックたちは異質なものの侵入を感じた。
「!? これは!?」
とディック。
「この気配は!?」
とミリエル。
「冥界の怪物か!?」
とサリエル。




