アシュタルテ
ディックは城の下で魔法陣を描いた。
「よし、これで準備はできた。いつでも行けるぞ」
「では、行くぞ」
サリエルが魔法陣に入った。
「じゃ、行こうか、アニキ」
ミリエルも魔法陣の中に入る。
「出発だ!」
魔法陣から、光が柱となって上がった。
それから光の足場が現れて、三人を上へと運んでいった。
「まるで光のエレベーターね」
三人はエレベーターに運ばれて城へと向かった。
「冷たいな」
ディックは上空の空気に触れて言った。
ほどなくして三人は城へと到着した。
門は開いていた。
「さて、歓迎してくれるかな?」
「怪物どもがな」
「冗談だぞ? よし、行くぞ!」
混沌の女王アシュタルテは玉座の間にいた。
アシュタルテは自らの城に異分子が入り込んだことがわかった。
しかし、アシュタルテにはまったく慌てる様子がない。
「フッ、天使どもが入り込んだか。フフフ、我がしもべどもはすべて出払っている。ゆえに城の主たる、この私が出迎えねばならないな。来るがいい、天使どもよ。悪魔の力を思い知らせてやろう。カオスが地上を、そしてこの世を支配するのだ」
「怪物どもがいないな」
「すべて出払っているんだろう」
ディックがサリエルに言った。
ディックたちは城の中を走っていた。
この城の主のもとへと疾駆する。
階段を登り、上の階へと進む。
ディックたちは大きな扉があるところで立ち止まった。
「この先に、この城の主がいるわね。扉越しに魔力を感じるわ」
ミリエルが言った。
ディックは扉を開けた。
そして中に入った。
玉座の間。
そこではアシュタルテが玉座に傲然と座っていた。
ディックたち三人の到着、侵入にも驚くことがない。
アシュタルテは無表情でディックたちを出迎えた。
「おまえがこの城の主か?」
ディックが尋ねた。
「いかにも。私は混沌の女王アシュタルテ。この世に混沌をもたらす者」
「おまえが地上に怪物どもを送り込んだのか?」
「そうだ。私は我がしもべどもを地上に解き放った」
「いったい何が目的だ?」
「カオスこそ地上のあるべき姿なのだ。私は地上に混沌をもたらす。この国全土が混沌によって支配されるのだ。私は混沌の女王としてこの地上に君臨する」
「人間たちはどうなる?」
「人間どもはすべて奴隷となることで、生きる権利が認められる。地上の人間たちは隷属あるのみだ、それも例外なく平等にな。フフフフ」
アシュタルテは笑った。
「私の支配のもとで、人間どもは歴史上享受したことのない平等が保障される。そこには偏見や差別などない、完全に等価な存在としてな。もっとも私に隷属することによってだが」
「あなたの地上侵攻をこれ以上許しはしないわ!」
ミリエルが武器を構えた。
「おまえが何を考えていようと、倒すことには変わりがない」
サリエルが刀を抜いた。
「これ以上、好きにはやらせはしないぞ! 怪物どもには魔界にお帰り願おう!」
ディックは刀を取った。
アシュタルテは玉座から立ち上がった。
「フッ、我が混沌の力、おまえたちに思い知らせてやろう」
アシュタルテは小さな火球を無数に作り出した。
アシュタルテはその炎をディックに放った。
サリエルが前に進み出た。
サリエルは氷の矢で無数の火球を迎撃した。
しかし、火球の一つがサリエルをかすった。
「ちっ!」
アシュタルテの力がサリエルを上回っていた。
ディックやミリエルにも火球が届いた。
二人とも火球を迎撃した。
ミリエルは剣をアシュタルテに投げつけた。
アシュタルテは涼しい顔でそれをかわした。
アシュタルテは手に炎をともし、炎の弾をミリエルに放った。
アシュタルテの狙いは正確だった。
炎の弾をミリエルは剣でガードした。
炎の弾は当たると爆発した。
「きゃああああ!?」
アシュタルテは一瞬にしてミリエルに接近した。
アシュタルテはミリエルをつかみ上げると、雷を流した。
「ああああああ!?」
ミリエルをアシュタルテは投げ捨てた。
ミリエルは壁に当たって、床に崩れ落ちた。
「ミリエル!」
アシュタルテは大きな火球を上から斜めに降り注がせた。
「ぐっ!?」
「くそ!?」
ディックとサリエルは爆炎に呑まれた。
アシュタルテは左手に魔力を収束させた。
アシュタルテの左手から大きな炎の熱線が放たれた。
ディックはとっさに跳びのいて難を逃れた。
サリエルは熱線が回避不能と悟るや、氷の壁を出してダメージを軽減した。
ディックはアシュタルテに斬りかかった。
アシュタルテは燃え盛る炎の剣を出して、それを防いだ。
アシュタルテはディックの刀を払いのけて、剣で斬り払ってきた。
ディックはアシュタルテの刃に襲われた。
「ちいっ!?」
ディックは体ごと、アシュタルテにはじき飛ばされた。
壁に激突し、崩れ落ちる。
「フッ、所詮はこの程度か。私の混沌の力の前にはただ屈するのみ。我が力にひざまずくがいい」
「さて、そいつはどうかな?」
ディックは膝をついた。
「まだ、終わっていない……」
サリエルが立ち上がった。
「私もまだ戦えるわ」
ミリエルも立ち上がった。
「おまえたちが何をしようと所詮は無駄な悪あがきにすぎん」
アシュタルテは三人のあいだに爆炎を出現させた。
爆炎は爆発し、三人を巻き込んだ。
「うわああああ!?」
「ううっ!?」
「きゃあああ!?」
三人は爆炎に呑まれた。
三人は床に倒れた。
ディックは再び立ち上がった。
「ほう、あの爆炎を受けてもなお立ち上がれるとはな」
「はあ、はあ、はあ……」
ディックは帽子をかぶりなおした。
「ひざまずき、許しを請うがいい」
「誰がそんなことするか!」
ディックは刀でアシュタルテに斬りかかった。
今度はディックがアシュタルテの炎の剣を押していく。
ディックは力でアシュタルテを攻めた。
ディックに攻められても、アシュタルテは氷のように無表情だった。
アシュタルテは剣の炎でディックを攻撃した。
ディックは後ろに跳びのいてかわした。
そこにサリエルが氷の刃でアシュタルテを攻撃した。
炎と氷が互いに相殺し合う。
「ちっ!」
サリエルはうめき声を出した。
明らかにアシュタルテの炎の方がサリエルの氷より上だった。
サリエルの氷が退けられる。
「私の炎の方が上のようだな」
アシュタルテは炎の剣を振るってサリエルを攻撃した。
アシュタルテの炎の剣は燃え盛り、サリエルを呑み込んだ。
「うぐっ!?」
サリエルは倒れた。
その時、ミリエルが剣でアシュタルテに攻め込んだ。
アシュタルテが持つ炎の剣の熱が、ミリエルに伝わる。
「フン!」
アシュタルテはミリエルの剣を受け流し、かわした。
ミリエルの剣が空を切った。
アシュタルテはミリエルに爆炎を放った。
「きゃああああ!?」
ミリエルは吹き飛ばされ、床に転がった。
ディックは霊気の刃を伸ばして、アシュタルテを突き刺した。
だが、アシュタルテは剣でガードした。
ディックは刃を伸縮させて、霊気の刃で薙ぎ払った。
これも、アシュタルテはガードした。
「しぶとい奴だ。いいだろう。我が真の力を、思い知らせてやろう」
アシュタルテの手から炎の剣が消え、代わりにハルバードが現れた。
「なん、だと!?」
「フフフ、これが私の本当の武器だ」
アシュタルテはハルバードでディックを攻撃した。
アシュタルテはハルバードで薙ぎ払い、さらに連続で突き刺してくる。
「くうっ!?」
アシュタルテの猛攻はすさまじかった。
ディックはハルバードの後端で弾き飛ばされた。
ディックはくるりと回転して着地した。
そこにサリエルとミリエルが立って現れた。
「大丈夫か、おまえたち?」
「俺はまだ、戦える!」
「まだいけるわよ、アニキ!」
「フン、何匹集まったところで無駄な悪あがきだ。圧倒的な力の差を思い知るがいい!」
アシュタルテは爆炎をまとったハルバードで攻撃を仕掛けてきた。
「ぐあっ!?」
ディックはハルバードの一撃で吹き飛ばされた。
「うううっ!?」
サリエルはハルバードの突きを受け止めたものの、爆炎によって吹き飛んだ。
荒れ狂うハルバードの爆炎はミリエルを壁に激突させた。
「ああああ!?」
アシュタルテは三人の様子を見わたした。
アシュタルテはディックら三人を圧倒した。
「圧倒的ではないか、この私は。三人がかりでこの程度とはな。む?」
ディックが立ち上がった。
「無駄なことを。なおも立ち上がるか。あきらめの悪さだけはほめてやろう。だが!」
アシュタルテは左手を高くかかげた。
上方に巨大な剣が現れた。
「あれは!?」
「いい加減に終わりにさせてもらおう! ドゥンケル・シュヴェーアト(Dunkelschwert)!」
巨大な闇の剣が発射された。
剣はディックたちめがけて迫ってきた。
剣が床に当たった。
「ぐううううう!?」
「くっ!?」
「ああっ!?」
すさまじい衝撃が三人を襲った。
三人は剣の衝撃によって吹き飛ばされた。
三人とも床に倒れた。
「へへっ、まだ行けるぜ?」
ディックはよろよろと立ち上がった。
「バカな……あの剣の攻撃を受けてなお、立ち上がれるのか?」
アシュタルテは無情な表情をディックに向けた。
「フン、爆炎よ!」
アシュタルテはディックがいた地点を爆破した。
ディックはすばやくそれを回避し、アシュタルテに斬りかかった。
ディックの刀とアシュタルテのハルバードがぶつかる白兵戦となった。
アシュタルテの攻撃は恐ろしいほどすさまじい。
アシュタルテはハルバードで薙ぎ払った。
ディックはそれをかわして刀でアシュタルテを斬りつける。
「な、に!?」
さらにディックはアシュタルテを刀で貫いた。
「ぐはっ!?」
ディックは刀を引き抜いた。
「バカな……この私が……混沌の女王が敗れるというのか」
アシュタルテはよろめき、後ろに歩いた後、仰向けに倒れた。
「ふう……なんとか倒せたな。混沌の女王アシュタルテ……強かった」
その時、ゴゴゴと城に震動が走った。
「アシュタルテが死んだから、この城が消えようとしているのか」
詩音は空に浮かぶ城を見た。
城がゴゴゴと轟音を立てていた。
「いったい、何が起こっているの?」
詩音は洋館の外に出た。
怪物たちが消えていく。
怪物たちは町全体から姿を消した。
「あっ、怪物がいなくなってる。勝ったのね、ディックが」
城は消失した。
「よう、、俺たちの出迎えか?」
ディックたちが詩音の前に現れた。
「ディック!」
ディックたちは姿がボロボロだった。
相当ひどくやられたらしい。
「みんな、ボロボロじゃない。相当手ごわい相手だったのね。おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
ディックは笑顔で答えた。




