アシェラとの対決
バールゼフォンを倒したディックたちは洋館に戻った。
ただサリエルは不愛想に一人で去った。
「あのミリエルさん、話しをしたいんだけど今、いい?」
「何、詩音ちゃん?」
詩音が廊下でミリエルに尋ねていた。
詩音は真剣な表情をしていた。
ミリエルはそれを見ると、いつもの軽いノリをやめて真剣に応じた。
「私、今回の事件で思い知らされたの。自分がいかに無力か」
「今回はアニキが同意して、連れてきてくれたんでしょう? 別に詩音ちゃんは悪くないわよ」
「私は少なくとも、自分を守れるようになりたい。ミリエルさん、私に身の守り方を教えて」
どうやら詩音は本気のようだ。
「わかったわ。悪魔から自分の身を守れるすべを、私が詩音ちゃんに教えてあげる」
一方、ディックは逃げたアシェラの行方を追っていた。
ディックはアシェラが逃げる前に印をつけておいた。
つまるところ、発信機を取り付けたのである。
ディックはこのままアシェラを放っておく気はなかった。
ディックはアシェラを追って魔界(Pandaimonion)に来ていた。
周囲には砂漠が広がっている。
空は紫色だった。
砂漠の中に一つの宮殿が見えた。
あれがアシェラの居城らしい。
ディックは宮殿を見つめると、トレードマークの帽子をかぶりなおした。
「行くぜ!」
ディックは不敵な笑みを浮かべた。
アシェラは宮殿の一室に戻ってきた。
「はあ……疲れたわあ。あの人あんなに強いんだもの。私、強い人と戦うのって嫌いなのよねえ」
アシェラは玉座に座った。
アシェラはこの宮殿ミラージュパレスの主人だった。
「それにしても残念ねえ。せっかくあそこまでいったのに……清純な信徒たちが互いに殺し合い、血を流してくれると思ったのに。とんだ邪魔が入ったものだわあ。次はどうしてくれようかしら? 仲のいい夫婦を殺し合わせるか、恋人同士を憎み合わせるか、生徒に教師を殺させるか……う~ん、どうしましょう」
その時、ある気配が宮殿に侵入した。
アシェラはそれをすぐ悟った。
「あらあ、おかしいわねえ。誰かが侵入したみたい。ここは普通の悪魔にも目に見えない場所なのに」
アシェラの前に怪物の陰が進み出た。
「まあ、いいわ。侵入者を八つ裂きにしてしまいなさい」
怪物はアシェラに命じられた通りに、侵入者の抹殺に向かった。
ディックは宮殿の中に侵入した。
階段を走り抜け、廊下を駆けた。
すると正面に広く四角い部屋があった。
「奴はどこにいる?」
ディックは周囲を見わたした。
ディックは何か敵意を感じた。
反射的に左側に跳びのいた。
ディックがいたところは怪物の爪で粉砕された。
怪物は鋭い爪を振りかざし、ディックを襲った。
「こいつは悪魔パズズ(Paszuzu)か」
悪魔パズズとはライオンの顔と胴、そしてサソリの尾を持つ怪物である。
屈強な上半身を持ち、二本足で立っていた。
背中にはコウモリのような翼があった。
パズズはディックに鋭い爪で襲いかかってきた。
しかし、ディックはパズズの爪をすべてかわした。
そうしてディックは刀を振るってパズズを斬った。
パズズの体から紫の血が出た。
パズズは尾をディックめがけて繰り出した。
尾の先にはとげがあり、猛毒を持っている。
パズズの左から尾がディックに刺しだされる。
「あまいな」
ディックは伸ばされた尾の先端を刀で切断した。
パズズから叫び声が上がった。
パズズは口から炎の息をはき出した。
ディックは横に走ってそれを回避した。
パズズは翼をはばたかせ、再び上昇した。
そしてディックをめがけて両手の爪を振り下ろした。
ディックは跳びのいた。
それからパズズの頭をめがけて刀を突き刺した。
パズズはドスンと音を立てて倒れた。
「いっちょあがり!」
パズズはディックに倒された。
ディックは宮殿を奥へと進んでいった。
階段を登ると、新しいフロアに出た。
そこには悪魔アシェラがいた。
アシェラの前にはツタのある植物が飾りとしてあった。
「あら、あなたよくここがわかったわねえ。いったいどうして?」
「おまえの左肩を見てみろ」
「左肩?」
アシェラは自分の左肩を見た。
すると小さな紋章がアシェラに張り付いていた。
アシェラはそれを外した。
「いつの間にこんなものを……」
アシェラは魔法の紋章を握りつぶした。
「よくもここまで来たものねえ。私のしもべパズズを倒しちゃうなんて、ほんとあなたって強いわあ」
「逃がしはしないと言ったろ? 決着をつける!」
ディックは刀を構えた。
「私があなたをこの手で殺してあげる!」
アシェラは闇の剣を何本も出現させた。
闇の剣がディックを狙う。
ディックは闇の剣をはじき、受け止め、防ぎ、かわした。
「なら、これならどうかしらあ?」
ディックの全周囲に闇の剣が現れた。
ディックは闇の剣に囲まれた。
「さあ、逝きなさい!」
ディックの全方位から黒い剣が迫る。
ディックは大きくジャンプしてアシェラのもとに跳び込んだ。
ディックは刀でアシェラを斬りつける。
アシェラは杖でディックの一撃を防いだ。
「くっ!? 大悪魔バールゼフォンはどうしたの!?」
「バールゼフォンは俺が倒した」
ディックは力をこめてアシェラを押した。
この小さな体のどこにこんな力があるのか。
アシェラは瞬間移動で逃げた。
「まさか、バールゼフォンがやられるなんて……ほんと強いわ、あなたって」
アシェラは杖を上にかかげた。
巨大な闇の槍が上方に現れた。
闇の槍はディックを狙って射出された。
「闇の力の前に、ひざまずきなさい!」
ディックは刀に光をまとわせた。
光の刀でディックは闇の槍にぶつかり、それを破壊した。
「なっ!? そんな!?」
アシェラは毒の魔法を唱えた。
毒の球がディックに向けて撃たれた。
ディックは毒の球を刀で弾いた。
そして正面から来た球に霊気の刃を伸ばしてアシェラを貫いた。
「がはっ!?」
のびた刃はアシェラをも貫通し、背後の壁へとアシェラは吹き飛ばされた。
「うそお……この私が、死ぬなんて……」
ディックは霊気の刃を縮めた。
アシェラは床に落ちて倒れた。
「ケリがついたな。ん?」
突如、宮殿全体に揺れが走った。
「アシェラを倒したことで、この宮殿が崩壊を始めたのか。長居は無用だな」
ディックは魔法陣を展開し、その場から消えた。




