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Das Testament  テスタメント  作者: Siberius
Das Testament Shion
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出会い

梅園うめぞの高等学校――

「ねえ、緑川さん。もしよかったら私たちといっしょに帰らない?」

下校時に学級委員長を務める女の子が言った。

緑川みどりかわ詩音しおん。17歳。高校二年生。

「いえ、けっこうです。私には用事がありますから」

「あ、そう……」

「ではこれで失礼させていただきます」

詩音は特に興味なさそうに答えて、そそくさと帰っていった。

詩音は長いベージュの髪をしていた。

詩音は思った。

どうして放っておいてくれないんだろうと。

自分は一人でいるのが好きなのに。

それに群れるのは嫌いだった。

学級委員の義務感や、エセ正義感は詩音におもしろくなかった。

自分には読書がある。

本があればそれでいい。

特別、友達を作ることにも興味はない。

詩音は学校を出て、愛好している書店に入った。

詩音が主に読むのは、宗教書か小説だった。

詩音が宗教書をよく読むのはより深く宗教的に生きたいと思っているからだ。

これも同級生と交わらない理由の一つだった。

宗教――これは同級生たちはけげんに思うに違いない。

どこか別の世界の者、得体のしれないものと見なすであろう。

詩音にとって宗教は生きる指針であった。


天使はいったい何をしているんだろうか? 

天使は人間にどう接してくるのか? 

ディックの体は子供と同じ大きさであった。

ディック・ディッキンソン(Dick Dickinson)。

ディックは人間の世界にいた。

天界よりも地上を彼は好んだ。

ディックは人間を観察していた。

ディックにとって人間は愛らしく見えた。

ディックの体は子供だが、精神は違った。

ディックは人間たちの生きざまを見ていた。

ディックには人間がどう生きているのか、興味があった。

命は神秘だ。

愛すべき人間たちよ。

ディックは人間たちがあれほど仕事熱心なのに驚いた。

人間は天使違って、額に汗を流し、その日の食いぶちを稼がなくてはならない。

天使は純粋な気息体きそくたいである。

ゆえに食事を取らなくても生きていける。

天使であるディックにとって、仕事は特別なことを意味した。

ディックは黒を好んだ。

黒い帽子をかぶり、黒いハーフパンツをはいている。

イギリスの古風な服装に似ていた。

ディックにはどこか貴族のような気品があった。

ディックは電波塔の上から詩音に起きたことの一部始終を眺めていた。

ディックは詩音に興味を抱いた。

今時あんな娘がいるとは……

ディックはイギリス風の洋館に住んでいた。

この洋館は外側が白だった。

内部には黒いイスや、ソファー、机があった。

内部は黒の調度品で統一されていた。

ディックは洋館に帰ってきた。

ディックはドリップでコーヒーを入れた。

ディックは大のコーヒー好きである。

でき上ったコーヒーを飲む。

「うまいな。やっぱりコーヒーは最高だ」

ディックは人間が発明したもので最高のものはコーヒーだと思った。

ディックは天使の中でも変わり者であった。

そこに一人の来客が現れた。

「こんなところに用でもあるのかい、サリエル(Sariel)?」

「また、コーヒーか。よくも飽きずに飲んでいるものだな」

「これは最高だよ。おまえもどうだ?」

「いらん」

「そうか。哀れな奴だ」

執務室の部屋に一人の青年が立っていた。

彼はサリエルという。

「それで、なんの用件かな?」

「おまえが目をつけたあの娘だが」

「彼女がどうかしたのかい?」

「気をつけておけ。何か不穏な影を感じる」

「君はそれを注意するために俺のところにやって来たわけだ」

「そうだ。では、確かに伝えたぞ」

サリエルは後ろを向くと、ゲートを開いて、去っていった。

ディックはコーヒーに口をつけた。

「不穏な影、ね……」

ディックは改めて詩音のことを気にとどめた。

天使がこんな感じなら、悪魔はいったい何をしているのだろうか。


詩音は図書館で本を読んでいた。

読んでいたのは「聖書」であった。

図書館は静けさが支配していた。

詩音は図書館の静けさが好きだった。

聖書は詩音が持参したものである。

「ここ、いいか?」

詩音の前に一人の男の子が現れた。

詩音の前に座りたいらしい。

「どうぞ」

詩音は短く答えた。

男の子は席に座った。

こうしたやり取りは苦手だと詩音は思った。

なるべく短く済ませたかった。

「へえ、聖書か。そんなものを読むとは珍しいな」

男の子はほおづえをつきながら言った。

「そうですか」

詩音は軽くあしらおうとした。

男の子はにやにやしながら言う。

「面白いか?」

「面白いというより、興味深いですね」

詩音は極力会話をしないようにした。

詩音は人見知りする性格だった。

初対面の人とうまく話すのが苦手だ。

「おまえ、不愛想だな。もっと話をしてもいいだろうに」

「そうでしょうか。私は読書に集中したいので、声をかけないでくださいますか」

詩音は会話を打ち切りたかった。

それにしても、この男の子は偉そうに話をする。

「そうか。邪魔をして悪かったな」

詩音は聖書に視線を戻した。

どこまで読んだだろうか。

邪魔されたせいでわからなくなってしまった。

しばらくのあいだ、沈黙が訪れる。

男の子は視線を外に向けた。

街路を人々がにぎわってる。

「よく、ここには来るのか?」

詩音はわざと相手と目線を合わせなかった。

「はい、よく来ます」

「ここは静かでいいな。本を読むにはもってこいだ。いい環境だよ」

どうやらこの男の子は独り言でも話を進めるつもりらしい。

詩音はいい加減に放っておいてほしかった。

「人と話をするのは嫌いか?」

「別に嫌いではありません。私はただ、本を読むほうが好きなだけです」

「そっか。邪魔したな」

詩音は半分は邪魔だと思った。

男の子は席を発った。

「それじゃあ、失礼するよ」

男の子は去っていった。

詩音は読書に戻った。

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