(後編)誕生日の翌日に。
そんなこんなで十七歳の誕生日がやって来た。
大したけがもなく、俺はトラックに轢かれる日々を送っている。
ドン!
今日もきりもみ回転しながら近所の公園の砂場に突き刺さった。
あ、懐かしいなこの感触。
砂まみれになった記憶しか残ってなかったけど、あの時も突き刺さってたんだろうな。
俺は幼少時の記憶を思いながら頭を砂場から引き抜いた。
近所では俺がトラックに轢かれやすいことを知られているため、救急車を呼んでくれる人もいない。
無傷だから来てもらっても困るのだが、こんな時はトラックの運転手だけが血相変えてすっとんでくるのがいつものことだ。
「だ、大丈夫か!!」
どう考えても大丈夫じゃない状況なのに、なんで日本人ってすぐに大丈夫って聞くんだろうな?
「大丈夫です」
なんで日本人って大丈夫じゃない状況でも大丈夫って言うんだろうな?
本当に大丈夫なので、念のため連絡先だけ聞いて運転手さんには帰ってもらった。
道路を歩いていただけなのに、なんでこんなに轢かれるんだろう。
もはや特技じゃないだろうか?
それとも俺の趣味「トラックに轢かれること」なんだろうか。
自分のことが分からなくなってくる。
異世界転生は出来そうにもない。
「君! 危ない!」
その翌日。
学校からの帰り、横断歩道を渡ろうとすると突然襟を引っ張られて元来た方に惰性で倒れた俺。
キキキキィーーーーー!!
聞き慣れたつんざくようなブレーキ音がすぐそばをかすめて大きな影が通りすがっていった。
「いたた……」
「大丈夫か!?」
痛いのは道路に転がったからなのだが、腰をさすって見上げるとそこには……
一年前に同じ場所で助けてくれたバーコードのおっさんがいた。
「おじさん、一年前にも……」
誕生日の翌日だったからよく覚えている。
すこしバーコードの本数が少なくなっている気もするが明確なすじの数は覚えていないので、気のせいだろう。
「あぁ、やっぱり君だったのか。ここはトラックが多いから、気を付けなきゃだめだよ」
「あ、あの」
「ん? 擦りむいたみたいだね。ハンカチ、あげるから使って。ほら」
おっさんはそう言うと擦りむいた左手に白い木綿のハンカチを巻きつけて、一年前と同じ、白い歯を見せて笑った。眼鏡がおっさんの後光をさす太陽にきらりと光る。
「おじさんは一体……」
「おじさんかい? おじさんは……ただのサラリーマンさ」
そういって青信号で去っていく背中が、妙に颯爽として見えた。
ただのサラリーマン……
自らの髪は朽ち果てようとも、戦い続ける日本の戦士……
俺はその日。異世界転生を諦めた。
俺は……サラリーマンになろうと思う。
バーコードでも自分のことを誇れるサラリーマンに。
そしていつか。
レジのコンビニでバーコードを読ませて自分の本当の価値を知りたいと思……
キキキィーーーーーーー!!! ズドン。
その日、俺は異世界転生をする羽目になった。
FIN.
予告。
次回、「オレのトラックに轢かれた主に男子が、かたっぱしから目の前で消えて異世界転生してるみたいんだが、どうしたらいい?」
乞うご期待。
※この物語は(予告も含めて)すべてフィクションです
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